第71話 昔の空
「えっと、どれくらい昔から話せばいいんだろ?」
「そうね。小学生一年生位からお願いしようかしら」
「了解です! 私はその時幼稚園の年長だったんですけどその時はよく私が泣いてたんですよ。そういう時はいっつもお兄が近くに来てくれて慰めてくれたんですよ」
懐かしい話を美空はしている。
かなり昔。今からもう十年前以上昔の話だ。
そういえば美空は昔はよく泣いていたような気がする。
そのたびに駆けつけては慰めていたような気がする。
「なんか空らしいわね」
「そうですね。いっつも何も言わなくてもそばにいてくれて何があっても私の味方でいてくれました」
「兄貴なんだからそんなの当り前だろ」
「いや、そんなことないと思うわよ? そんなに妹思いのお兄ちゃんなんて今頃珍しいんじゃないの?」
「そんなもんなんかね」
俺たちの家庭は両親が俺たちにかまってくれなかったためいつも俺たちは二人で過ごしていた。
たまに瑠奈とも遊んだりしていた。
今考えてみれば瑠奈とは幼稚園からの付き合いか。
「そうよ。少なくとも私の周りの知り合いはあなたたちみたいに仲のいい兄妹はいないわね」
「私もお兄は優しいと思うし。今まで本気で怒られたこととかないし」
「そりゃあ美空が悪いこととか全くしないからな。俺たち兄妹はいっつも助け合って生きてきたからな」
今まで俺たちはずっとほとんど二人で生きてきた。
両親はどちらかというと瑠奈にかまってたし。
そんなこともあって俺的には家族が三人っていう意識はあんまりない。
美空が唯一の肉親だと思っている。
「空はいつも優しいと思ってたけどそれは昔からなのね」
「そうなんですよ~私が小学校に上がってからも何か問題があると駆けつけてきてくれて解決してくれるんです。お兄が来た時の安心感はすごかったですよ~」
「それは私もなんだかわかる気がするわ。私も屋上で襲われそうになった時に空が来てくれた時は心の底から安心したもの」
「……」
そんな話を本人のいる前で話さないでいただきたい。
本当に恥ずかしいから!
いやマジで。
自分でも自分の顔が真っ赤になっているのがわかる。
顔が熱い。
耳も熱いし恥ずかしくてこの場から逃げ出したくなってくる。
「お兄照れてる~」
「本当ね。耳まで真っ赤にしてかわいい」
「からかわないでくれ。こんなのを目の前で聞かされたら恥ずかしくて仕方なくなるだろ」
「ふふっそういう空も今まで見てこなかったから新鮮でいいわね」
すっごくからかわれてるけどまあいっか。
楽しそうだし。
悪意とかは一切ないから悪い気もしない。
「永遠が楽しそうでよかったよ」
「空の昔話関連で聞きたいのだけどどうやって堀井さんと付き合ったの? 私がいうのもなんだけど空って結構奥手だったじゃない? あまつさえあんなに好意を示してるのに自分のことを卑下して距離を取ろうとするし」
ジト目で永遠に見つめられて居心地が悪くなる。
本当にこれからは早まった行動をしないようにしようと何度目かわからない誓いを心の中で立てる。
「う~ん。そこらへんはあんまり詳しく知らないんですよね。お兄から少し聞いたくらいですし。瑠奈姉もあんまり詳しくは教えてくれなかったんですよね~」
「じゃあ、空。どうやって付き合ったのか、付き合ってた期間何をしていたのか聞いてもいいかしら?」
「待て待て!? なんで今付き合ってる永遠に元カノである瑠奈のことを話さないといけないんだよ!? どんな拷問だ!」
さすがに言いたくない。
てか、普通のカップルって元カノの話を聞きたいものだろうか?
絶対に話したくないんだけど。
そもそも思い出したくもないし。
「いいから話しなさいよ! 大丈夫何を聞いても怒ったりしないから」
「お兄、諦めなさい。短い付き合いだけど私にはわかる。永遠姉さんはこうなると絶対に止まらないって」
「だよな~」
俺もそれは大体わかっている。
こういう時の永遠は何があっても引いてくれないのだ。
でも、素直に話したら拗ねたりしそうなんだよな~
◇
「本当に話しても怒らない?」
「もちろんよ。多少嫉妬はするだろうけど怒りはしないわよ」
「わかった。話すよ。少し省くけど」
俺は瑠奈と付き合い始めた時のことを思い出す。
あれは確かこの高校に入学してすぐだっけ?
ずっとあいつのことが好きで告白して受け入れられて。
それからはもうずっと一緒だった気がする。
もちろん美空のことをないがしろにはしなかったけど大体の時間を瑠奈と過ごしていた気がする。
「俺と瑠奈が付き合ったのはこの高校に入学してすぐだった。俺から告白して付き合うことになったんだ」
「……私の時は全くそういう素振りはなかったのに堀井さんにはそんなことしてたのね。へぇ~」
「ちょっと待って!? 怒らないって言ったよね???」
「あら心外ね。怒ってはいないじゃない。ただ私の時とは違うな~って思ってるだけよ?」
物は言いようである。
「んで付き合ってからは一緒に登校したり下校したり休日にはデートに行ったりしたな」
「デートはどこに行ったのかしら?」
「別に普通の場所だぞ? そこらへんに買い物に行ったり遊園地とか水族館に行ったりだな」
普通のカップルが行くような場所には大体いった気がする。
それくらいには休日に一緒に遊んだしそれ以外の時間も一緒に過ごした。
「……なんか妬けてきたわ」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ永遠姉さん。まずはその振り上げたこぶしを下ろしましょ? お兄今回はまだ悪いことしてないですから」
「そ、そうよね。ごめんなさい。少し取り乱したわ」
命拾いした~ナイスフォロー美空!
今度プリンでも買ってきてやろう。
「いえいえ~永遠姉さんって案外嫉妬深いんですね。まあ、少し前からその片鱗は見えてましたけど」
「そうみたいね。私自身恋愛をするのは初めてだし。空はなんやかんや言って女の子に人気があるから不安になることも多いのよ」
「ちょっとわかります。しかもお兄にその自覚がないのがたち悪いですよね」
「そうなのよ! 本当に」
「でもお兄は浮気とかはしないと思うんで安心していいと思いますよ。お兄はそんな器用なことができる人間ではないので」
聞き捨てならない。
それではまるで俺が不器用な人間のようじゃないか。
まあ、浮気なんかする気はないが。
「そうなの空?」
「それを本人に聞くのはどうかと思うけど浮気はする気ないかな。俺にとっては永遠が一番だし君以外の女性と付き合うなんて想像もできないや。それにもう裏切ったり裏切られたりするのはごめんだからさ」
「それもそうね。疑ってごめんなさい」
「別にいいよ。不安なら今度スマホの中身も見せようか?」
「それはいいわよ。私はそこまで束縛する気はないし。ただ、たまに不安になるからその時は話を聞いて頂戴ってだけよ」
「いくらでも聞くよ」
「あの~私いるんですけど??? ナチュラルにイチャイチャを見せつけるのやめてくださいね?」
ため息をつきながら俺と永遠をジト目で見つめてくる美空。
少しは自重をしようと思った。
「ま、永遠姉さんが気になるなら今度瑠奈姉が捕まったらお兄と二人でどこかにデートにいったらどうですか? 水族館とかね」
「それいいわね。空もいいかしら?」
「もちろん。永遠とデートかぁ、すっげぇ楽しみ」
こうしてデートの予定が決まって心の底からうれしい。
あとは早く瑠奈が捕まってくれるのを祈るのみである。
↓にある☆☆☆☆☆評価欄を、★★★★★にして応援して頂けると励みになります!




