第68話 本音の告白
「……ん」
「おはようお兄。気分はどう?」
「なんか顔が痛い」
「だろうね。いっぱい殴られてたから」
そうか、俺は確か永遠に殴られて気絶したのか。
なんで美空がここにいるかはわかんないけど。
「俺何がダメだったんだろうな」
「全部じゃない? 会話聞いてたけどずっとお兄が悪かったよ」
「……マジか」
「大マジ。永遠姉さんが怒るのも納得だよ」
美空は心底呆れたように言う。
てか、こいつ会話聞いてたのかよ。
恥かしいこといっぱい言ってた気がするんだけど。
「俺、これからどうすればいいと思う?」
「まずは謝ることじゃない? 今回に関してはお兄が全面的に悪いし永遠姉さんが怒るのも無理ないよ」
「でも、俺は本当に永遠に迷惑をかけたくなかっただけで……」
「そこだよお兄。その考えが間違ってるの。お兄は大切な人ほど迷惑をかけたくないって思ってるんだろうけどそれは違うんだよ。大切な人に迷惑をかけることは確かにいいことじゃないかもしれないけど、迷惑をかけて助けてもらって、次はお兄がその借りを返しってって感じで続く関係もあるんだよ? それを真っ向から否定したらだめでしょ?」
「……確かに」
俺は今までずっと永遠や美空に迷惑をかけないようにと考えて生きてきた。
だから、俺が永遠の近くにいると恋愛ができないと思って距離を置こうと思った。
なんてのは建前で俺がこれ以上永遠のことを好きになって告白して振られるのが怖かったんだろうな。
今のままの関係を続けていたかっただけかもしれない。
いや、きっとそうなのだ。
俺は弱い人間だから。
「それにお兄が何を考えて距離を置こうとしたのかはわかんないけど少し前に距離を置いた結果永遠姉さんは襲われたでしょ。お兄はそのことを自分のせいだって責めてるんだろうけど。確かにお兄のせいで永遠姉さんが襲われたっていう見方もあるかもしれないね。でもさ、お兄がいたから永遠姉さんは無事でいられたっていう見方もあるでしょ? 要は物の見方によって変わるんだよ。だからこれはポジティブに考えろとかそう言うのじゃなくてもっと広い見方で物事を見てみたら?」
「これじゃあ、どっちが年上かわからんな」
全く持って正論だ。
俺はもともとネガティブな人間だ。
だからいきなりポジティブになれって言われても戸惑うし無理だってあきらめてしまう。
でも、美空はそんな俺のことを知ってか知らずかポジティブになれとは言ってこない。
ただ、もう少し視野を広げろと言ってくれるのだ。
「そうだよ~私はお兄よりも大人だからね! 感謝してくれてもいいよ!」
「いつも感謝してるよ」
美空の頭の上に手を置いてガシガシと撫でる。
「ちょ! お兄もうちょっと優しくなでてよ~」
「すまんすまん。ありがとうな美空」
「気にしないでいいよ。面倒な性格をしてるお兄の面倒を見るのも妹の仕事だから!」
「できた妹で助かってる」
いつもいつも美空には助けられている。
これも、見方を変えたら迷惑をかけていると捉えられなくもない。
でも、そういう考えをしていたらまた美空に怒られてしまう。
だから俺は《《迷惑をかけた》》ではなく《《助けてもらった》》と思うことにするのだ。
「これはアドバイスだけど迷惑とか何も考えずにお兄は一回永遠姉さんに自分の考えてることとか思ってることを言ってみればいいんじゃないかな? そうしないと余計に拗れそうだしさ」
「……わかった。肝に銘じておくよ」
「よろしい。行ってらっしゃいお兄」
美空にそう声をかけられて俺は部屋を後にする。
時刻は午後10時。
少し夜遅いけど、このまま時間を置いたら取り返しのつかないようなことになる気がする。
だから、永遠の部屋の前で深呼吸をしてインターホンを鳴らす。
何気にここでインターホンを鳴らすのは初めてな気がする。
「……」
数秒たっても一向に返答はない。
もしかしたら寝てしまったのだろうか?
でも、まだ午後10時。
寝るには早すぎる気がする。
じゃあ、本気で怒ってて顔も見たくないから無視してるとかか?
全然あり得る。
「どうしたのよ……」
俺が不安に駆られているとインターホンからとても不機嫌そうな永遠の声が聞こえてきた。
「少し話がしたいんだけどダメかな」
「……わかったわ。鍵は開いてるから入ってきて頂戴」
「わかった」
俺は永遠に言われた通りに部屋に入って行く。
これから何を話してどう謝ろうか。
頭の中はそんなことでいっぱいだった。
◇
「それで、話って何なのかしら?」
永遠の私室に通された俺は今床で正座をしていた。
永遠にそうしろと言われたわけではなく自分で正座をしている。
「まずは謝らせて欲しい。俺の勝手な都合で永遠に何も言わずに距離を取って本当にごめん」
「それだけ?」
「いや、まだある……」
まだあるのだが、こうして改めて顔を合わせて言おうとすると緊張する。
今も心臓が爆発するのかと錯覚するほどには高鳴っている。
「さっきは勢いで言っちゃったけどさ、俺は永遠のことが好きだ。自分がおかしくなるくらいには永遠のことが大好きだ。だからこそ俺は怖かったんだ。これ以上好きになって永遠に告白して振られて今の心地いい関係が崩れてしまうのが。だから距離を置こうとした。釣り合う釣り合わないなんて言い訳でしかなかったんだ。俺のエゴで永遠を困らせてごめん」
「……一つ訂正よ。私があなたのことを振るなんてそんなことはありえないわ」
「それって……」
「私も空のことが好きだから。私だって空のことが大好きよ。自分がおかしくなるくらいにはね。こんな感情初めてで新鮮で自分自身戸惑っていたわ。最初はこの感情が恋だってわからなかったのだけどね」
永遠はそういって笑いだす。
これは、つまり?
「だからね、空。私達付き合いましょう」
「それ、俺が言いたかったな」
少し冗談めかして俺はそういった。
まさか、永遠が俺のことを好いてくれているなんて全く思ってなかった。
でも、今はそんな驚きよりも喜びのほうが勝っている。
今にも飛び跳ねたいくらいだ。
「残念ね。私が先に言わせてもらったわ」
「別にいいけどさ。ごめん永遠から逃げて」
「良いのよ。私の方こそあんなに殴ってごめんなさい」
「気にしないでくれ。あれのおかげで逃げるのをやめようと思えたからさ」
あれのおかげで気持ちが切り替わったしあの後に美空にいろいろ言われたから俺は行動を起こそうと思えた。
本当に美空には感謝しかないな。
「ならよかったわ。それとね空」
「どうしたの?」
「あなたはさっき自分がいると私が恋愛できないって言ってたけど真逆だからね。私の近くに空がいないと私は恋愛できないんだから」
「う、うん」
そういう永遠の姿はあまりにも可愛らしくて、俺の心臓は今日一番の高鳴りをしたのだった。
◇
「空好き」
「俺も好きだよ永遠」
あれから少し話をしてリビングでくつろいでいたのだが、付き合ってから(まだ数十分)の永遠はいつもみたいにクールな感じではなくかなり俺に甘えてくる。
それが可愛くて構ってしまうのだがなんだかキャラが変わりすぎな気もする。
「んふふ~」
俺の左肩に頭をのせて永遠は満足そうにニコニコしている。
今までこんな永遠の姿は見たことが無い。
ギャップ? がありすぎる。
「なんかキャラが変わってないか?」
なんか似たようなことを前にも聞いた気がするな~
「だって、ずっと甘えたかったんだもん! お父さんとかお母さんは小さい頃から忙しくて家にいなかったし。今まで誰にも甘えられなかったからその反動が来たのよ」
「なるほどね」
何となく納得できてしまった。
用は永遠は愛情に飢えていたのだ。
だが、今まで誰かに甘えることはできなかったが今は彼氏となった俺(数十分)がいるので存分に甘えたいのだろう。
まあ、こんな永遠を見れるのは俺だけどと思うと全然悪い気はしない。
むしろいい気分!
可愛いし!
「空は絶対私から離れちゃだめだからね? ……浮気とかしたら〇すから。いや、それよりもつらい目に合わせるから」
「うん、そんな甘い声で恐ろしいこと言わないでね? もちろんそんなことする気ないけどさ」
永遠以上に良い女性なんてこの世の中のどこを探してもいないと思う。
いたとしても俺は永遠のことが好きなのでどうでもいい。
「よかった~えへへ」
それにしても、なんだか少し幼くなったみたいで本当に可愛いな。
学校とかで見るクールな雰囲気は家出をかましたらしい。
今やその面影は全くなくただの可愛い女の子だ。
いや、普段も可愛いんだけど普段のは可愛いっていうよりは綺麗とか美しいって感じだから。
こうして俺に世界一可愛い彼女ができたのだった。(まだ数十分しか経ってない)
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