第65話 すれ違う鈍感男
「一度距離を置いたほうがいいのかもしれないな」
自室で俺は一人ベッドに座り込んで考える。
最近の俺は少しおかしい。
永遠が頭から離れない。
少しでも暇な時間があると永遠のことを考えている自分がいる。
少し前に美空に永遠のことを好きといった。
その少し後くらいからだろうか。永遠のことが頭から離れなくなったのは。
「これ以上この症状が進行すると自分を止められないような気がするんだよなぁ」
ただでさえ今日永遠がクラスで少し可愛い顔をしていただけで独占欲が出てくるような現状だ。
行き過ぎるとただのストーカーに成り下がってしまう。
ストーカーを捕まえた後に自分がストーカーになるだなんて笑えない。
いやマジで。
「でも、一緒に帰るのをやめるわけにはいかない。それをしてしまっては契約違反になるからな」
永遠に助けられた時に交わした約束。
それを違えることはしたくない。
「どうしたもんかな」
何はともあれ少しずつ距離を開けないと戻れないような気がしてならない。
もしそうなってしまったら永遠にも迷惑をかけるし俺自身のためにもならない。
「とりあえずの方針は少しずつ距離を開けることくらいだよな」
俺は永遠のことが好きだが永遠が俺のことを好きである可能性なんて皆無だ。
ゼロといってもいい。
それなのに依存してしまっては誰のためにもならない。
誰も幸せにならない。
「昼休みは何かと理由をつけて独りで食べるかな」
永遠とお昼を食べれないのは残念だけどこうしないといけないので仕方がない。
この気持ちが静まったらまた一緒に過ごすことにしよう。
もしかしたらそのころには永遠に彼氏とかができてるかもしれないけどそのほうが諦めがついていいのかもしれないな。
◇
「というわけで今日は自分のクラスで食べるよ」
「……そう。なら仕方ないわね。また帰りに」
「うん」
昼休みに適当な事情を説明して永遠のいる教室を後にする。
ちなみに永遠には新しくできた友達と食べるといったけど全然そんなことは無く俺は悲しくボッチ飯だ。
「ん? 先輩こんなところで何してんすか?」
「七海さん? 君こそ屋上で何してるんだ?」
自分で言うのもなんだけどこんなにクソ寒い時期の屋上にいるなんて普通じゃない。
俺はボッチ飯だから仕方ない。
そう、仕方ないのである。
「私はいつもここっすよ。教室に居場所が無いので」
「虐められてるの?」
「まさか、私は育った環境が環境ですから同年代の人間が幼く見えて仕方ないんですよ。だから極力関わらないようにしてるんすよ。何回も告白されて面倒でしたし」
とてもめんどくさそうに七海さんはため息をつく。
全く人気者は人気者で大変なんだなといつか似たような感想を抱いたことがあると感じながらため息をつく。
「それで? 私のことは話しましたけど先輩は何でこんなところで油を売ってるんですか? いつもなら今頃天音先輩とお昼ご飯を食べてる時間じゃないっすか?」
「……ちょっとな」
七海さんはすぐに俺の目をじっと見つめてくる。
この目に見つめられると自分のすべてが見透かされているかのような錯覚を受ける。
「何かあったんっすね。別に誰にも言わないんで相談してくださいよ。私と先輩の仲でしょう?」
「……聞いてくれるか?」
「私から持ち出したのにここで聞きませんなんて言ったら私はただのサイコパスですよ」
「それもそうだな」
なんか落ち着くな~
七海さんはいっつもけろっとしているけどしっかりと気遣いはしてくれるし相談相手としては最適な人だと俺は思っている。
それでいてサバサバしてるから本当に話しやすい。
「それで、一体何があったんですか? 先輩たちのことですから喧嘩したってことは無いでしょう?」
「ああ。喧嘩とかは特にしてないな。そもそも喧嘩するような問題は今のところ起こってないからな」
「じゃあなんでこんなところで一人でいるんですか? 天音先輩も追いかけていない当たりどうせ何か嘘でもついてここにいるんでしょう?」
七海さんは呆れたように俺にそういってきた。
相変わらずの洞察力に恐れ入ってしまう。
七海さんには何も隠し事ができないのではないかと思ってしまう。
「正解。本当に七海さんは何でもわかるんだな」
「一応探偵の娘なので! 人の心情を読むことは慣れてるんですよ!」
「にしては読み過ぎだと思うけどね」
えっへんといったように七海さんは胸を張っていた。
仕草は可愛いのだがこう簡単に心を読まれちゃあ溜まったもんじゃない。
「実は最近永遠のことを考え過ぎてて少し距離を置こうと考えててな」
「……は? え、何言ってんすか先輩??? ついに頭がおかしくなりましたか?」
「ついにって何だよ。失礼だな。だから、最近永遠のことが頭から離れなくなってきていてこのままじゃあダメになりそうだから距離を置こうと思ってまずは昼休みから距離を置こうと思ってね」
「……はぁ。こいつ、もうだめだ。私じゃあ救えない。あとで美空さんに連絡しよう」
七海さんが頭を抱えながらぶつぶつ言っているけどなんて言っているかは聞こえない。
でも、表情からしてろくなこと言っていないような気がする。
何なら貶されてるような気がする。
「なんか俺のことを貶してない?」
「どうですかね。もう私は先輩のことが分かんないっすよ」
「ん? 何の話だ?」
さっきまで心を読まれていたと思っていたのに今度はこんなことを言われると混乱してしまう。
「こっちの話です。それでこのクソ寒い中屋上でボッチ飯をしようとしてたってことですか?」
「その通りだな」
確かにクソ寒い。
こんなところに長時間居たら低体温症になりかねない。
「はぁ~せっかくなので付き合いますよ。たまには仲良く二人でランチって言うのもいいでしょう?」
「それもそうだな。七海さんとは毎回何か問題が起こったときの話しかしてないからプライベートの話とかは特にしてなかったよな」
「そうっすね。先輩から話しかけてきてくれる時は大体厄介ごとを持ち込んでくるときだけだったので」
「……ごめん」
それを言われると耳が痛い。
確かに最近七海さんには厄介ごとを押し付けている気がする。
「まあいいんですけどね。じゃあ先輩が最近何をしてるかとか聞いてもいいっすか?」
「う~ん。やってることと言えば勉強か筋トレの二つくらいかな?」
「……なんですかその面白みのない回答は」
「しょうがないだろ? 最近それくらいしかやってないんだから」
最近は家に帰ってから自分で決めた筋トレのメニューをこなしてから空手の型を確認して勉強をするっていうのが習慣だから仕方ない。
自分でもつまらない生活だとは思うけど仕方がない。
「それでも本当に男子高校生ですか? 友達と遊びに行ったりとかしないんすか?」
「そもそも友達がいない」
昔はいたのだが友達と思っていたのは俺だけだったようだ。
あの噂が流れてから全員が敵になってしまったので現在の友達の人数はゼロ。
自分で言ってて悲しくなる。
「……なんかすいません」
「別にいいよ」
「まあ、きっと先輩のことを大切に思ってくれる人ができますよ」
「そうだといいな」
お世辞でも嬉しいな。
本当に俺のことを思ってくれる人間なんていないんだろうけど。
あっ、美空は思ってくれてるのかな。
そうだったらうれしいな。
「そういう七海さんはなにしてるんだ?」
「私は調査をしたり他には……」
「ないんだな。君も俺と似たようなものじゃないか」
「一緒にしないでください!! 私は仕事です! 先輩とは違いますからね?」
同じだと思うんだけどな~
でも、それを言っても七海さんは否定するだけなので言いはしないが。
「なんか、俺たちのプライベートってつまらないな」
「言わないでくださいよ。悲しくなるじゃないっすか」
俺たちはなぜか二人とも心に傷を負ってお昼ご飯を食べることになった。
今度七海さんと話すときはもっと楽しい話題を話すようにしようと思う。
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