第62話 観覧車で自己嫌悪
「ふぅ~今日はたくさん遊んだな~」
「美空、お前体力ありすぎじゃないか?」
「そうね、あなたかなり体力があるのね」
一日中俺たちは美空に振り回されていた。
最初にジェットコースターの始まり次のコーヒーカップ。
他にもさまざまなアトラクションに付き合った。
終始はしゃいでいる美空を見ていると元気がもらえるがそれでも俺にも体力の限界というものがある。
パワフルな美空に付き合ってアトラクションに乗っていたらあっという間に体力が無くなってしまった。
多分見た感じ永遠も同じなのだろう。
「そうかな~? これくらい普通じゃない?」
「絶対に普通じゃない! 普通であってたまるか」
「む~まあいいや。次はあそこに行こう!」
「待て待て!? 今の流れはもう帰る流れじゃなかったか?」
「いや、まだ時間あるし。せっかくなら乗らないと損でしょ?」
まだ乗る気なのか?
しかも絶叫系。
永遠も顔を青くしているしさすがにこれは断わるべきだろう。
「さすがに絶叫系はやめてくれ。俺も永遠も体力的に限界だ」
俺がそういうと永遠は隣でぶんぶんと首を縦に振っていた。
彼女もかなり疲れていたようだ。
「ん~じゃあ私は一人で乗ってくるから二人はゆっくりしてて~」
「おい、ちょっとま……」
俺が引き止めるよりも先に美空はアトラクションの列に並びに行ってしまった。
どれだけ体力が有り余ってんだよ。
「どこかで休憩するか?」
「そうね。さすがに疲れたわ。本当に」
「一日中アトラクションに乗ってたからね。もうそろそろ日も暮れそうだし」
あと少しで完全に日が落ちきる。
「あ! ねぇ空。あれ乗らない?」
「あれって観覧車?」
永遠が指さした先にはかなり大きめな観覧車があった。
今の時刻に乗ったらかなり綺麗な景色が見られそうではある。
「そう! 私乗ったことないから乗ってみたいのよね。それにあれならさして体力を使いそうにないし」
「いいね。今乗ればかなり綺麗な景色が見れそう」
今から乗れば綺麗な夕焼けが見れそうだ。
俺としても観覧車なんて乗るのは久しぶりだから楽しみだ。
「じゃあ行きましょう。今は並んでないっぽいし」
「だな。早く行こうか」
永遠の言う通り観覧車は他のアトラクションよりもかなりすいていて数分も待てば乗ることができるだろう。
「……あ」
永遠の手を握って観覧車の列に並ぶ。
永遠を見てみれば顔が赤くなっていてすぐ後に俺が永遠の手を握っていることに気が付く。
「あ!? ごめん。つい癖で」
いつも美空といたときはこうやって手をつなぐことが多かったから無意識で手を取ってしまった。
「いえ、別に謝るようなことではないけど」
「そう? 不快じゃなかった?」
「空はその自己肯定感が低すぎるところを直しなさい。私はあなたに手を握られても不快だなんて思わないんだから」
「そうか」
永遠はいつもこういってくれるけど、自己肯定感を高くするなんて俺には無理な話だ。
なんたって俺は自分自身が《《この世の中で何よりも嫌いなんだから》》。
「そうよ。それよりもそろそろじゃない?」
「結構楽しみだな。観覧車とか本当に久しぶりだから」
「私は初めてなんだからエスコートよろしくね? 空」
「お任せください。お嬢様?」
そんな調子で俺たちは係の人に案内されるままに観覧車に乗りこんんだ。
内装はどこにでもある普通の観覧車といった様子だ。
俺と永遠は向かい合って観覧車の椅子に腰を下ろす。
「これって一週回るのに何分くらいかかるの?」
「多分一周15分くらいじゃないかな? 基本的な観覧車が一周にかかる時間はそれくらいだった気がする」
昔行った記憶を掘り起こしながら永遠の質問に答える。
「意外と短いのね」
「そりゃね。ていうかこれ以上長くしたら結構しんどくなるでしょ」
「それもそうね」
2人で観覧車という密室でそう話しているうちにも観覧車はどんどんと高度を上げていく。
すると遊園地内を一望できるくらいの高さまで到達した。
「……綺麗」
「久しぶりに観覧車に乗ったけどこんなに綺麗な景色だったんだな。いや、永遠と一緒だからって言うのもあるのかな」
「……空のバカ」
「なんで!?」
なんで俺は今いきなり罵倒されたのだろうか?
わからないけど永遠の表情的に怒っているようには見えない。
というより純粋に外の景色を楽しんでいるようだった。
その眼は綺麗は夕陽をとらえていて子供のように綺麗な青い瞳を輝かせていた。
「空と出会わなければ私はこんなきれいな景色を見ることもなかったのよね……」
「そんなことないと思うけど。きっと俺なんかが居なくても永遠は同じような綺麗な景色を見てただろうしもっと楽しいことを経験してるはずだよ」
「そんなことないわよ。あなたが居なかったら私はきっといまだに過去に囚われていたと思うし」
「きっとそんなことは無い。永遠は強い人だからなんやかんや言っても乗り越えたはずだ。俺がいようが居まいがね」
永遠はこういっているけど俺はそうは思わない。
俺なんかが居なくても永遠は自分で過去を乗り越えることができただろうし、俺がいなく手も永遠は綺麗な景色を目にしていたはずだ。
何ならもっとすごい経験もできるだろう。
俺がいないほうがね……
「……空あなたって本当に」
「本当に?」
「いえ、何でもないわ」
何だろう?永遠にしては煮え切らない態度だ。
なにか言いたい事でもあったのだろうか?
でも、永遠がいいっていうなら無理に聞くことでもないか。
「残念。そろそろ終わりみたいね」
「こういうのって終わるのは結構早いよね」
「そうね。楽しい時間程すぎるのは早く感じてしまうのよね」
楽しい時間……か
永遠にそう思ってもらえてうれしい。
でも、いつかはきっと永遠も俺から離れていくのだろう。
恋人ができたりかけがえのない友人ができたり。
そうしたら俺という存在は永遠の中で徐々に薄れて行ってしまうのだろう。
その時まで俺は永遠のそばにいれればいいと思うのだ。
「だね。降りたら美空を探さないとな~」
「そうね。もう乗り終わっているかしら?」
「さすがに、まだじゃあないか? それなりに並んでたしさ」
「それもそうね。のんびり行きましょうか」
観覧車を降りてから俺たちは美空と別れた付近のベンチで腰を下ろした。
それから美空が戻ってくるまで俺たちは静かな時間を過ごすのだった。
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