第59話 ストーカーの犯人確保
七海さんが不審者に襲われてるのを助けてからもう二週間が経った。
その間に一度もストーカーのような人物に遭遇することは無かった。
「やっぱり気のせいだったのかな~」
「わからないけどあれ以降一回もアクションが無いもんな。学校内では変わったことはないのか?」
「う~ん、特にそういった感じはしないんだよね~」
「まあもう少し様子を見てみましょう。前も言ったけど何もない分には問題ないのだから」
学校からの帰り道、俺たちは美空のストーカーの件について話し合っていた。
長い期間ストーカーが行動を起こさないため、もしかしたら勘違いではないかと美空は言い出したのだ。
正直言って諦めた……という可能性が高いのかもしれないけど。
やはり確証が欲しいというのが本音だ。
本当にストーカーしている奴がいるなら捕まえたいし、いないのであればその確証が欲しい。
「うん。ありがとね永遠姉さん」
「別に良いのよ。ストーカーの被害なんて誰が遭うのかわからないのだから」
「永遠の言う通りだな。俺たちがいるから手を出してこないっていう可能性もあるしな」
そんなことを話しあっているとスマホが振動した。
確認してみれば七海さんからだった。
「誰から?」
「七海さんからだ。ストーカーの件かもしれない」
電話に出てスマホを耳に当てる。
「どうしたの七海さん?」
「先輩ストーカーらしき男を発見しました。先輩たちの後方500m付近です」
「本当にストーカーか?」
「わかりません。ですので曲がり角を四回ほど右に曲がってください。それをしてみても先輩たちの後方にいたのなら完全に黒でしょう」
「わかった。勘づかれないようにできるだけ自然にやってみる」
「お願いします」
七海さんとの通話を終えてから今の話を手っ取り早く二人に話す。
「わかったわ。とりあえず曲がり角を右に四回曲がればいいのね?」
「そういう事だ。美空もいいな?」
「もちろん。犯人が分かるなら何でもするよ!」
そういうわけで俺たちは適当な道を歩いて四回右に曲がった。
そのあともう一度七海さんに電話を掛ける。
「先輩多分ビンゴっす。この男がストーカーで間違いないっす」
「わかった。少しずつ歩く速度を緩めてストーカーに近づくから七海さんはそいつが逃げないように後ろから見ててくれないかな?」
「了解っす。では」
そうして電話を切った俺は二人にストーカーが釣れたことを話して少しづつ歩く速度を緩める。
「よし、じゃあ俺が走って捕まえてくるよ」
少しだけ歩いた後に俺は二人にそう言ってすぐに振り返ると全力で走り出す。
見た目は七海さんから後ろ姿の写真を送ってもらっているため見つけるには難しくなかった。
「さて、少し話を聞かせてもらおうか?」
ほどなくしてストーカーの男を捕まえることに成功した。
なんとストーカーの正体は両親でも悟でもなく美空と同じ制服に身を包んだ男子生徒だった。
「い、いったい何なんですか?」
「心当たりしかないだろうに今更とぼけるなよな。お前が美空を付け回してるのはわかってるんだって」
「な、なんで」
俺がそういうと男子生徒は顔を青くしながら震えだした。
なんか、気が弱そうだな。
体つきも細身だしいったい何の用でこいつは美空を付け回してたんだ?
殊更疑問である。
「なんでかわかったかはわざわざ教えない。なんでお前が美空をつけていたかだけ答えろ」
「……」
だんまりか。
正直とっとと白状してほしいところなんだけどな。
「お兄その人が犯人なの?」
「多分な。でも、なんでつけていたか答えないんだ」
「厄介ね。というよりストーカーが美空ちゃんと同じ学校の生徒だとは驚きね。気も弱そうだし」
どうやら永遠も俺と同じようで犯人が美空と同じ学校の生徒だなんて思っていなかったようだ。
「で、なんでつけてたのか教えろ。じゃないとこのまま警察に突き出すぞ?」
「しょ、証拠もないのにそんなことできないだろ」
「証拠ならばっちりここにあるっすよ~電柱の陰に隠れながらこそこそこそこそ三人の後を歩いているあなたの姿がね?」
七海さんはそう言いながら手に持っているビデオカメラを掲げて居た。
まったく本当に恐ろしい後輩である。
絶対に敵に回したくない。
「なっ!?」
チェックメイトとはまさにこういうことを言うのだろう。
男子生徒はガックシとうなだれてしまった。
「てか、美空はこいつのこと知ってるのか? 同じ学校みたいだけど」
「ううん。私の記憶にある限りでは知らないかな。そもそも学校で男の子とあんまりかかわってないし」
どうやら完全に知らない人間らしい。
猶更なんでつけていたのか気になるところではある。
「さっさとゲロッた方が身のためっすよ? 話してくれないと本当に警察に突き出すことになるっすから」
「だな。今はなしてくれるなら美空次第で何とかなるぞ?」
怖い思いをさせたことは許せないが実害を与えたわけでもない。
理由によっては美空なら許すだろう。
というか、正直こんな気の弱そうなやつがなにかできるとは思えないしな。
「僕、美空さんのことが気になってて。でも、学校で話す機会もないから偶然を装って話しかけれないかなと思って機会をうかがってたんです」
「どれくらい前からだ?」
「さ、三週間くらい前からです」
それなら大体ストーカーの話題が出た時期と大体同じだな。
なら、犯人はこいつで決定と。
動機もなんだか。
う~ん。
「なるほど。こいつどうする? 美空」
正直こんなのを警察に突き出してもどうにもならないような気がする。
厳重注意くらいか?
あんま法律に詳しくないから刑罰とかはわかんないんだよな。
「えっと、もうしないでくれる? 普通に怖かったから」
「はい。すいませんでした」
しょぼんとしながら男子生徒は謝った。
どうやら悪い人間ではないのもしれない。
「それとお話ししたいなら今度から学校で話しかけてきてくれていいからね。私たち同級生だし」
「い、いいんですか?」
「もちろん。だからこんなことはもうしないでね? 怖かったしお兄にも永遠姉さんにも迷惑かけちゃったから」
「わかりました。本当にすいませんでした」
「別に俺は美空がいいならそれでいいよ。でも、もうこんなことするなよ?
」
「私も美空ちゃんがいいならいいわ。これからはむやみに女の子を付け回さないこと。いいわね?」
「はい!」
これで一件落着か?
何はともあれ厄介なことに発展しなくてよかった。
「じゃあ、今日は帰ろうか。お前も気を付けて帰れよ」
「はい。ありがとうございます」
男子生徒にそれだけ言って俺たち四人はその場を後にした。
◇
「七海さん今日は本当にありがとう」
「いえ、私は依頼をこなしただけっすから。それと、藤田先輩の件ですが何も情報はつかめませんでした。家には帰っていないようですしどこにいるかも不明です」
「そっか。まあ、今回のストーカー事件にはかかわってないみたいだし今のところはいいかな」
とりあえずは一件落着。
これでしばらくは安心して生活ができる。
「杉浦さん私からもお礼を言うわ」
「ありがとうございました!」
「いえ、ですから私は柳先輩にお願いされたことをこなしただけですって」
珍しく七海さんが照れているようで顔を少し赤くしていた。
ここだけ見れば完全にかわいい普通の女の子だな。
「そういえば美空と七海さんは同い年か?」
「そうっすね。妹さんが高1なら私と同じですが」
「そうなんですか? じゃあ、私と友達になってくれませんか?」
「ええ!? そんないきなり」
やっぱり美空はコミュ力お化けだな。
知り合ってまだ少ししかたっていないだろうにもう友達になろうとか言えるんだから。
俺には真似できないわ。
「いいじゃないですか! ね?」
「わ、わかったっすよ。美空さんは柳先輩よりコミュ力がバケモンっすね」
「俺そんなにコミュ力ないぞ?」
「まあ、美空ちゃんにお友達が増えることはいいことじゃない? 妹が離れていくようでさみしいのかしら? お兄ちゃん?」
永遠は俺のほうを見ながらいたずらっぽく微笑んでいる。
完全にこの状況を楽しんでいる。
俺が関わっている女性陣は少しキャラが濃すぎではないだろうか?
「いや、俺も美空に友達が増えるのは賛成だな。七海さんさえよかったら友達になってやってくれ」
とはいっても美空はこうなると止まらないだろうから七海さんが断ってもぐいぐいいって最終的には友達になるのだろうけど。
「わかったっすよ。これからよろしくっす。……美空さん」
「うん! よろしくね七海ちゃん!」
こうして美空の友達が一人増えたのだった。
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