第46話 いざ、話し合いへ
「んん?」
まぶしい。
いや、目を開けてるわけじゃないんだけど。
「え?」
全身に何か暖かいものが触れている?
なんか、柔らかいしいいにおいもする。
なんで?
まだぼやけている目をこすって目を開ける。
目の前にはすうすうと寝息を立てている永遠がいた。
「あ!?」
思い出した。
昨日はあのまま抱き合って眠ったんだったか。
こうしてみるとなんだか子供っぽいな。
いつもは凛としていて可愛いというよりは綺麗や美しいという表現が似合う永遠だけど寝顔は可愛い。
何この子可愛いと美しいを同時に内包してるとか神様か何かかな?
「ん、おはよう空」
「おはよう永遠」
「ふふっまだあんまり呼び慣れてないわね」
「そりゃあ昨日の夜呼び始めたばかりだしね。昨日の夜は眠れた?」
「おかげさまでぐっすり眠れたわ。空はドキドキして眠れなかったのかしら?」
いたずらっぽく微笑みながら永遠は俺をからかってくる。
こうしてみると完全にいつもの永遠だけど内心がどうなのかはわからない。
「それが、疲れてたらしくて結構早い段階で眠ることが出来たよ。ご期待に沿えなくてごめんね」
「空の癖に生意気ね。まあ、私と一緒に寝て心臓を破裂させるのはまた次の機会にしておくことにするわ」
「そうなったら完全に俺死んじゃうんで勘弁してください」
こんなことが何度もあったらさすがに心臓が持たない。
昨日だって心臓が痛いくらいに高鳴ってたんだから。
「考えておくわ。じゃあ、そろそろ起きましょうか。今日は学校で例の話し合いがあるし」
「だね。俺はいったん部屋に戻って着替えてくるよ」
「そうしなさい。私も着替えてから朝食を作っておくわ」
「いつもありがとう。じゃあ、またあとで」
「ええ。また」
朝から精神的にかなり疲れた気がするけど嫌な疲れじゃないのが救いかな。
というか、こんなの学校の連中に知られたら刺されるとかじゃすまない気がするな。
まじでばれないように気をつけないと。
◇
「お兄、永遠姉さんを呼び捨てで呼ぶようになったんだね?」
さっそく妹にバレたわけだけど。
全く幸先が悪い。
「まあな」
「へぇ~昨日私が帰った後何かあった?」
クソっこういう時だけなんでこいつはこんなにも鋭いんだ。
馬鹿正直に答えるわけにもいかないし俺はどう返答しようか逡巡する。
「別に何もないわよ? ただ、もう出会ってから結構時間が経つのにいつまでも苗字で呼ぶのはどうなのかという話になって昨日から呼び方を変えてもらったのよ」
「そうなの? お兄」
「ああ。確かに俺も永遠に拾われてから結構経つしいつまでも苗字で呼ぶのはどうかと思っていたから呼び方を変えたんだ。おかしいか?」
ナイスフォローとはまさにこの事だろう。
ありがたく永遠が出してくれた助け船に乗っかることにして俺は何とか美空の追及をかわす。
「ううん。いいと思う! いつまでも苗字呼びってって言うのは距離感じるもんね」
「そうね。私もさすがに近しい人間からずっと苗字で呼ばれると拒絶されているのかと勘ぐってしまうわ」
永遠、そんな悲しそうな顔しないでくれ。
なんか、罪悪感が湧いてくるから。
「だよね~私もそんなことされたらそう考えちゃうよ」
美空が俺の方を向いた瞬間永遠が舌をべ~と出していた。
どうやら、悲しそうな表情は俺を揶揄うために作った表情だったようだ。
「そ、そうだな。俺もそう思うかもしれない」
ここは話しに乗っておかないといけない。
下手に反論しても同調しても地雷を踏みそうだから。
「そうよね。だから名前で呼んでもらえてうれしいわよ? そ・ら?」
「……はい」
どうやら、自分より先に七海さんのことを名前で呼んでいた件に関してはまだ許してもらっていないらしい。
確かな圧力を込めて名前を呼ばれた。
「って、もうこんな時間!? 私そろそろ行くね!」
「ああ。気を付けていくんだぞ~」
「行ってらっしゃい美空ちゃん」
「行ってきます! お兄、永遠姉さん!」
美空はカバンを持ってすぐに家を出て行ってしまう。
全くそそっかしい妹だ。
でも、なんかほっとけないんだよな~
「私達もそろそろ準備して行きましょうか。今日は何かと疲れそうな一日になりそうね」
「だね。話し合いは先生と警察官の人が立ち会ってくれるはずだけど何があるかわからないから警戒して行こう」
流石に監視の目がある中で凶行に走るわけがないと思わないでもないがあいつは何をしでかすかわからない。
甘い考えは捨てよう。
いつ何が起こっても対処できるようにしないと。
「ええ。何かあったら遠慮なく頼らせてもらうわね?空」
「任せてくれ」
同じ轍は二度は踏まない。
絶対に。
◇
「わざわざ来てもらってすまないな。それじゃあ、会議室に行こうか。もう全員来ているから」
「わかりました」
そういえば、永遠のご両親は来るのだろうか?
昨日の先生の話的に今回の加害者と被害者の保護者は呼ばれるはずだけど。
「永遠のご両親は今日いらっしゃるの?」
「いいえ。今ちょうど仕事のほうが佳境らしくて戻ってこれないらしいわ。代わりに後藤さんが来てくれるみたい」
「そっか」
後藤さんはやはり永遠とご両親からかなり信頼されているようだ。
まあ、あの人はとてもいい人だからそうなるのもわかる。
「まあ、心配しなくても後藤さんならうまくやってくれるはずよ」
「だね。俺の時もかなりお世話になったからね。あったらお礼を言わないと」
あの時は後藤さんにたくさん動いてもらって本当に感謝している。
「そうね。でも、どうなるのかしらね。相手側の保護者のスタンスによって話し合いの展開は大きく変わってくるわね」
「ああ。おとなしく認めてくれたらいいんだけどな。動画っていう揺るがぬ証拠もあるわけだし」
「ついたぞ。入ってくれ」
佐々木先生が会議室の扉をあけてくれる。
中に入ると今回の騒動を起こした生徒四人とその保護者。
校長に教頭、警察官それから後藤さんが座っていた。
「それでは全員揃った事なので話し合いを始めます。皆様よろしいでしょうか?」
教頭が司会と務めており全員の顔を見回してそう言った。
誰も何の言葉も発しなかったためそのまま話し合いが始まる。
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