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恋人に浮気され親友に裏切られ両親に見捨てられた俺は、学校のマドンナに救われた  作者: 夜空 叶ト


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第22話 永遠の秘密と醜い幼馴染

「はぁ」


「どうかしたの天音さん。ため息なんてついて」


「いえ、少し疲れがたまっているのかもしれないわね」


「そうなんだ~お大事にね」


「ありがとう」


 本当は空のことが気になっている、なんて言ったらきっと騒ぎになるのでしょうね。

 私が男の子と一緒にいるだけでざわつくのだから特定の男の子のことを思っているなんて聞かれたらどうなるか。

 考えたくもないわね。


「では、ホームルームを始める」


 担任教師が教室に入って出席を取り始めてる。

 いつもと何も変わりが無いはずなのになんだか胸騒ぎがする。


「どうしてなのかしら」


 特に変わったことなんてないのになんだかざわざわする。

 早くお昼休みにならないかしら。

 空の顔を見ればこのざわつきも収まるかもしれないわね。

 って、なんだかこんなことを考えていると私が空のことを好きみたいじゃない。


「ないわね」


 空は良い人だとは思うけども恋愛対象としては見れない気がする。

 気がするだけなんだけど。


 ◇


「では、ここまで。各自解散」


 やっと午前の授業が終わり教室の雰囲気が弛緩する。

 お昼休みの始まりね。


「天音さん」


「空。今日はやけに早いのね。じゃあ、行きましょうか」


 なんだか、今日はいつもより来るのが特別早い気がするけどそんなときがあってもいいわよね。


「ああ」


 でも、空に何もないようでなんだか安心したわ。

 朝から機嫌がよかったけど今はもっと機嫌がいいみたいだし何かいいことでもあったのかしら?


「今日はやけに表情が柔らかいわね。何かいいことでもあったのかしら?」


「まあね。やっと学校が居心地の悪い場所じゃなくなりそうで安心してるんだ」


「どういうこと?」


 空にとって学校が居心地の悪い場所だっていう事は知っていた。

 自分を陥れた親友と幼馴染が同じクラスというだけで行きたくないだろうに流された嘘のうわさでいじめのようなこともされていたのだからなおのこといきたくなかっただろう。

 そんな学校が居心地の悪い場所でなくなるというのは一体どういう意味なのかしら?


「端的に言うと俺の無実を証明した。それに伴って悟と瑠奈の嘘が露見したからクラスの矛先は二人に向かってる」


「ということは、あなたが虐められることはもうないのかしら?」


「多分ね。というか、俺に虐めをしてきた連中は何かしら処罰が下るんじゃないか?」


「それはどうして?」


 学校で行われる虐めは証拠が集めにくくて露見してもなかなか処罰が下しにくかった気がするのだけど。

 空は何か仕込んでいたのかしら?


「カメラをしかけといたんだよ。教室に。それとボイスレコーダーも」


「なるほど。それを先生たちに提出したのね」


「そういうこと。だから今までみたいに虐めはできないだろうし、そもそも冤罪だってわかったわけだから俺に突っかかってくる人間はもういないと思うよ」


「あなたがスマホを買いに行ったときに一緒に買っていたのはその二つだったのね」


「そういうこと。俺を虐めてたやつらの復讐に使うって言いにくくて今まで隠してたんだ。ごめん」


 確かに言いにくいわよね。

 復讐ってだけで忌み嫌う人は世の中多いものね。


「謝る必要はないわ。そういう理由なら仕方ないと思うしね」


「天音さんは俺を軽蔑しないのか?」


「なんでする必要があるのよ」


「どんな理由であれ誰かに復讐をするのは良い行いじゃない。だから」


 空らしい考えよね。

 いつも自分が悪いと考えるところは本当に。

 こういうのを自責思考って言うのだったかしら?

 そういう所が《《あの子》》に似てるのかもしれないわね。


「そんなの関係ないわ。確かに復讐は悪いことかもしれないけど、それをしたからって私はあなたを軽蔑したりしないから安心しなさい」


「なんで……」


「それはね……」


 ◇


「それはね、私も過去に復讐をしたことがあるからよ」


「え……」


 天音さんが復讐?

 一体誰に?

 そもそも天音さんに危害を加えるような人間なんかいるのか?


「だからあなたが誰に復讐をしようと私はあなたをとがめないし軽蔑もしない。今まで通り私と一緒にいて頂戴」


「わかったよ」


「いい返事が聞けて良かったわ。それと、空のクラスが午前中に帰った理由って」


「うん。俺に対する虐めのすべてが露見したからだね。しかも動画付きで。今頃先生たちは対応に追われてるんじゃないかな?」


 校長先生たちには少し悪いことをしたと思うけどまあ、仕方ないでしょ。

 それに俺の虐めの件もあるだろうけどそれよりも悟のほうが問題だろうしな。


「そういう事だったのね。ならなんであなたはまだ学校に残っているのかしら?」


「そりゃあ、天音さんと一緒に帰るためだけど?」


「それだけのために今まで残っていたの?」


「もちろん。そういう契約だし。俺は天音さんとの約束は破りたくなかったから」


 それに自分の気持ちを整理したいって言うのもあったかもしれない。

 おかげさまで少しは落ち着くことができた。


「本当に……あなたは律儀ね」


「もしかして呆れられてる?」


 頭を手で押さえてため息をつく天音さんはどこからどう見ても呆れているように見えた。

 少し悲しい。


「そうではないわ。感心してるのよ。じゃあ、あなたは放課後まで待つつもりかしら?」


「うん。先生には今日一日空き教室を使っていいって言われてるしね」


 さすがにそろそろ暇になってきたから暇つぶしを考えないといけないけど。


「そうなのね。なら私は今日早退することにするわ」


「いいの?」


「良いのよ。たまにはサボりたくなるのよ。私だって」


 これ、どう考えても気を使われてるよな。

 ここでこの好意を無下にするには良くないな。


「そっか。じゃあ一緒に帰ろっか」


「ええ。もちろんそのつもりよ。校門で待っていて頂戴」


「わかった。先に待ってるね」


 天音さんの気遣いで俺は午後の苦痛な時間を過ごさなくてよくなりそうだ。

 屋上を後にした俺は校門で物思いにふけることにした。

 本当にこれからどうしようか。

 とりあえずは二人に復讐することはできた。

 訴えようかとも思ったけど未成年だしそもそも証拠は盗撮したものばかりだから証拠能力が認められるかも怪しい。

 それに、弁護士や代理人を立てる費用もないしな。

 こればかりは諦めるしかない。


「少年院に入ったらみんなの記憶からすぐに消えるけど入らなかったら噂になって生きづらい社会に放り出される。うちの学校の連中がいかに噂好きかは俺の一件が証明してくれている」


 それに加えて悟は多分野球部から多大な恨みを向けられることになるだろうしな。

 俺が学校に匿名で送った写真があればあいつを破滅させるのは簡単だった。

 もし、学校側が何の対応も取らなかったらコピーしてあるデータを教育委員会に送ればいいだけ。

 どっちみちあいつは詰みだ。


「空! やっと見つけた!」


「……瑠奈」


 どの面下げて俺の前に現れてんだよ。

 鬱陶しいな。

 少し前まで大切に思っていた女の子を見て俺は不快感しか抱けなかった。


「ねぇ空、私今大変なの! クラスのみんなから虐められそうになってて、このままじゃ家も追い出されるかもなの。助けて」


 俺と同じ状況じゃないか。

 笑える。


「それがどうしたんだよ」


「それがどうしたって、そんなことになったら私死んじゃうよ?そうなったら空も後味が悪いでしょ?」


 ここにきて脅しとか、呆れた。

 なんで俺はこんな奴と付き合ってたんだろう。

 自分の愚かしさを呪いたくなる。

 いや、呪っても呪い切れないな。


「全部お前が俺にした仕打ちじゃないか。お前たちが流した噂のせいで俺は家を追い出されたし、学校での居場所もなくなった。俺の場合はお前たちが流した嘘の噂のせいだがお前に関しては全て自業自得だろ」


「でも……」


「でももくそもない。もう俺に関わらないでくれ。本当に不愉快だ」


 こいつのせいで俺の人生は壊れかけた。

 そんな奴に助けてとせがまれても助ける気には到底なれない。

 残念ながら俺はこいつを許せるほど心は広くない。


「空、そんな」


「空ごめんなさい。待たせたかしら?」


 天音さんは少し困惑したように校門前にたたずんでいた。

 どうやら早退の手続きを済ませてきたようだ。


「いや、そんなことないよ」


 ああ、これでやっとこの場を離れられる。

 俺はそのことに非常に安堵した。

 一刻も早くこいつを視界から消したかった。


「空! なんであなたが天音永遠と一緒にいるの?もしかして浮気してたの??」


「どの口が言ってんだよ。それに俺がどこの誰と一緒にいようがお前には関係ない話だろ?」


 浮気していた奴が人の浮気を疑うとかこいつは本当に救いようがない。

 これ以上醜態を俺の前でさらさないでほしい。


「そんなことない! もしかして空が私に酷いことを言うのってその女のせいなの? このクソ女が! 空から離れなさいよ!」


 いい加減我慢の限界だ。

 俺に対する暴言ならまだ許せたが天音さんに暴言を言うなんて。

 本当に許せない。


「いい加減黙れよ。俺がお前にこういう態度をとっているのに天音さんは関係ない。俺はお前のことが心底嫌いだし顔も見たくない。だから二度と俺の前に姿を現さないでくれ。行こう天音さん」


 自分でも考えられないくらい低い声が出た。

 どうやら俺は俺が思っている以上に頭に血が上っているらしい。


「ちょっと待ってよ! 出来心だったの。許して」


 瑠奈が何かを叫んでいたけど無視して天音さんとともに歩き始める。

 本当にもう顔も見たくない。


「無視していいの?」


「いいに決まってる。それよりごめん。俺のせいで天音さんに不快な思いをさせて」


「別に空のせいではないわよ。気にしないで」


「ありがとう」


 また、天音さんに借りができちゃったな。

 返せるかはわかんないけど返せるようにこれから努力していこう。

 とりあえずの目標はそれだった。

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