第164話 関係を続けていくための秘訣
「お兄! 大丈夫だった?」
「おっとと。いきなり抱き着いてくるなよ。危ないだろ?」
家に帰ったとたんに美空に抱き着かれる。一体何だというんだ。
「多分空は大丈夫よ。私が近くで見てたけど精神的にダメージを与えられるような
発言はされていなかったわ」
「お兄、本当に大丈夫なの? いつもみたいに無理していない?」
「してないしてない。もう無理はしないって決めたからな。少なくとも美空と永遠の前では無理はしないと決めたからな」
無理をして二人を心配させた。だから無理はしない。できるだけしないようにすると決めたから。
「ならいいけど絶対に無理だけはしないでね」
「わかってる」
「今回は私もひやひやしたけど本当に何事もなくてよかったわ」
「俺もまさか瑠奈がああなっているなんて思ってもなかったけどあの感じならもう大丈夫そうだな」
もっと錯乱していると思ってたけど全然そんなことは無くて少しだけ安心した。
「全くお兄は何を考えてるんだか。まあ、その顔だと話したい事はある程度話せたんでしょ?」
「まあね。心に溜まってたもやもやがすっきりしたというか。そんな感じだ」
「ならよし。ご飯にしよ! もうできてるから」
「ありがとう」
「ありがとう美空ちゃん」
美空の用意してくれた夕飯を食べて俺たちはそれぞれ自室に戻った。今日一日で俺はかなり内面的に成長できたような気がする。
◇
「本当に何もなかったんですか~お姉」
「一応何もなかったわよ? 私は会話に加わってなかったけどね」
「にしてはお姉なんだかとっても機嫌が悪そうだよ?」
帰ってきてからお姉は結構機嫌が悪いように見える。私の気のせいではないと思う。
さっきちょっと話したけど七海ちゃんも私と同意見らしい。
すぐに修羅場に巻き込まれるのはごめんなんで私は失礼するっす。といって自室に引きこもってしまった。
「……だってあの時の空の顔すごく優しそうな顔してたから。私ですら見たことのない顔だったから」
「ああ……」
確かに私もそのお兄を見たら複雑な気持ちになるかもしれない。そういえば最近見てなかったな。お兄が瑠奈姉を見る時の顔はとても優しいものだから。
今のお兄の恋人であるお姉からしたらいい気分にはならないことは確かだよね。
「あの顔を見たらすごく不安になっちゃって」
「……気持ちはわかりますよ。でもお兄はお姉の事しか見てませんよ。それだけは妹の私が断言します。でも不安になる気持ちもわかるのでそう言う時は素直にお兄と話せばいいと思います。そうしたほうが二人にとってためになると思います」
「そう、よね。うん! 私行ってくる」
「はい! ぜひそうしてください」
お姉は意を決したようにすぐにお兄の部屋に向かっていった。
お姉は意外と嫉妬深いし少し重い女の子だけどそういう所がまた可愛いのだと私は思う。
でも、それがたまに悪い方向に向かってしまいそうになる時があるけどそういった時は素直にお兄に話して二人で乗り越えて行ってもらえばいいと思う。
◇
「空、ちょっといい?」
「ん? 全然入ってくれていいよ」
「失礼します」
「なんでそんなに畏まってるのさ」
夕食後に部屋でまったりしてると永遠が訪ねてきた。いつもならこんなに畏まってはいないんだけど何かあったのかな?
「えっと、ちょっと話したくて」
「う、うん。真面目な話、だよね?」
「今日の事なんだけど」
今日のことというのはきっと瑠奈の件だろう。何か不味いことをしたか?
いや、今の恋人の前で元カノのことを大切な幼馴染というのは不味かったかな?
「ちょっと不安になった」
ぎゅっと俺の服の袖を掴みながら永遠は俺の胸に顔をうずめてくる。
可愛いと思うと同時に永遠を不安にさせてしまったことに罪悪感が湧いてくる。
確かに不安にしてしまったよな。
「ごめんね永遠。不安にさせて」
サラサラの髪を撫でる。少しでも安心させてあげることができるように。
「ううん。私こそめんどくさい彼女でごめん」
「そんなことないよ。むしろそう言うのを素直に言ってくれて嬉しい。どんどん素直に言って欲しい。そのほうが俺も今後の行動に気を付けることができるしそもそも不安にさせた俺が悪い」
「ありがとう大好き空」
俺の彼女は本当に可愛い。嫉妬深いところもちょっと重たいところも大好きだ。
むしろこのくらい重いほうが俺は好きかもしれない。
「それよりも不安にして本当にごめん。俺にとって本当に大切なのは永遠だから。瑠奈が俺にとって大切な幼馴染だけど永遠は俺にとって一番大切な恋人で最愛の婚約者だから。絶対にそれだけは揺るがない。でも、もし不安になったら言って欲しい。何回でもこうやって永遠を抱きしめるからさ」
「うん! 私も空が一番大好き。最愛の婚約者様だからね!」
俺たちはこうやって少しずつ自分たちの不安やわだかまりを無くして行ければいいと思う。そうしていくことがこれから仲良く関係を続けていくための秘訣だと思っている。
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