第163話 大切な幼馴染
「ぼんやりとしか覚えてないけどそれでもいい?」
「もちろん。話せる範囲で話してくれ」
「うん。精神病院を抜け出した後に私は悟君が潜伏してた隠れ家? みたいなところに案内されたの。ここからは本当に良く覚えてないんだけど悟君に空と天音さんが仲良くしている写真とかをいっぱい見せられて見せられながら何かを言われ続けた気がする。内容までは思い出せないの。ごめんなさい」
「そういう事か」
つまりはただでさえ精神的におかしくなっていた瑠奈に追い打ちをかけた形になるのだろう。そのせいでさらに歪になり俺や永遠を殺しに来たと。
そこまでして悟は何で俺を殺したかったんだ?
……今となってはそれを知るすべはないわけだけどさ。
「それでも私がやったことは許されることじゃないよ。それにそこまでは二重人格の時にやったことだけど浮気と冤罪は私が自分の意志でやったことなの。本当にごめん。空」
瑠奈は再び俺に深々と頭を下げた。確かに俺たちを傷つけに来た時の精神は歪であっても浮気したことや俺に冤罪をかけたことに関しては正常な状態で行ったことだ。
それは決して許されることではないし許しがたいことだ。
それでも俺は瑠奈をずっと恨み続けるなんてことはできないんだと思う。
俺の弱さだ。
「いいよ。もう済んだことだしおかげといってはなんだけどこうして永遠とも付き合うことができた。最初のころはすっごく恨んだりしたけどさ。今となってはそうでもないんだ。瑠奈を恨む気持ちよりも昔の思い出のほうが強くてさ。こうして顔を見てやっぱりお前が大切な幼馴染なんだとわかったよ」
こんなことを思う俺はバカなのかもしれない。一度裏切られたのにまた信じようとしてしまう俺は底なしのバカなのかもしれない。
それでも俺はきっと瑠奈のことを完全に見捨てることはできない。
幼馴染という存在は俺にとってそれだけ大きなものなんだと思う。
「そら……」
「でも、もうあんな真似はやめてくれ。心臓に悪いし俺は永遠と幸せに過ごしたいんだ。でもまあ、お前がこの病院から出られたらたまになら遊ぼう。昔みたいに、さ」
出来る限り優しい笑みを俺は瑠奈に向ける。この時初めて自分の中で踏ん切りがついたような気がした。
「うん。ありがと。ありがとね空。こんな私を見捨てないでくれて。本当にありがとう」
「泣くなよ。お前の泣き顔はあんまり好きじゃない。ここを出れたら連絡してくれ。その時また話そう。じゃあ、元気でな」
瑠奈にそういってボディーガードの後ろに隠れていた永遠に目配せをして病室を後にする。
「良かったの空?」
「何が?」
「ここを出たら遊ぼうなんて言って」
「あれは本心だからな。あっ、もちろん永遠の許可は取るしだめだって言うなら従うよ。今日は俺の我がままに付き合ってくれてありがとう」
「いえ、私も今の彼女となら少しだけ仲良くなれそうな気がするわ。ここから出られたらわたしもしっかりお話ししてみたいわ」
永遠は俺の隣にぴったりくっついて微笑みかけてくれる。やっぱり瑠奈は大切な幼馴染だと自覚したけどそれ以上に永遠は俺にとってかけがえのない大事な存在なんだとわかった。いつまでも永遠が隣で笑っていられるように俺も精一杯の努力をしよう。
「空君話は終わったかい?」
「はい。特に問題なく終わりました。この場を用意していただいてありがとうございました」
「いや、そこまで礼を言われることじゃない。じゃあ帰ろうか。空君も今日は精神的に疲れただろう。それに永遠も何か思う所があるらしいしね」
「お、お父様!?」
久遠さんに食って掛かる永遠だったがあっけなくいなされてしまい頬を膨らませて怒っていた。可愛い。
「じゃあ帰ろう。しっかり二人を家まで送っていくから」
こうして俺たちは瑠奈のいる精神病院を後にした。今日この日俺は少しだけ成長できた気がした。
↓にある☆☆☆☆☆評価欄を、★★★★★にして応援して頂けると励みになります!




