第157話 婿さん提案!?
「娘さんを僕に下さい!」
久遠さんに頭を下げる。
「うむ。もともとそのつもりなんだけどな」
「そうですね。私はてっきり二人は結婚してるのかと思っていたくらいですし」
「……へ?」
かなり意を決して言ったつもりなんだけど二人の反応はとても意外なものだった。
なんてウェルカムなんだろう。普通お前に娘はやらんとか言われるのかと思っていた。
「どうしたんだい? 娘はお前にやらんとでも言われると思っていたのかな?」
「それは日本の定番みたいなものでしたね。でも、空君以上の男性は永遠に現れないでしょうし私たちは大歓迎よ」
「その通りだな。空君と永遠なら恋愛にかまけて受験勉強をおろそかにするなんてことは無いだろうし。そこらへんは信頼しているよ」
「なんでそこまで信頼されているのかわからないですけどありがとうございます」
この信頼を裏切らないように俺は全力で努力しないといけない。
俺にできることなんて永遠を幸せにすることだけだろうけど。
「それより空君は婿に来るつもりはないかい? 別に私はどっちでもいいし最終的に決めるのは君たち2人だから私の方から強制するつもりは全く無いのだけどね」
「お父様!?」
それは良い提案かもしれない。俺は自分の苗字にそこまでこだわりが無い。両親にも思い入れは無いしそもそも親戚の集まりとかも全くと言っていいほどない。
俺が柳である意味なんて全くないのだ。そもそも苗字が変わっても俺自身が変わるわけでもないし俺にはそこまで抵抗がない。
「僕は全然大丈夫です。受け入れてくれるのなら」
「私から提案したのに受け入れないということは無いよ。まあ、まだ時間もある。ゆっくり考えてくれればいい」
「そうですね。あなたたちはいつ結婚式を挙げる予定なのかしら?」
「僕個人としては大学卒業を機に結婚して式を挙げようかなと思っていますがそこは永遠と相談して決めようと思ってます」
「それがいいね。ぜひとも私たちも呼んでくれたまえ。絶対に出席するから」
「もちろんです」
とんとん拍子に話が進んでしまったけどこれでよかったのだろうか? でも、言いたいことはしっかり伝えることができたしいいか。この機会を逃せばいつ二人が日本に戻ってくるのかもわからないのだし。
「そういえばお父様。空のご両親について何か知っているのですよね? 何をしたんですか?」
「……さあな。世の中には知らないほうがいいことが山のようにある。今回の件は空君達が知らなくてもいいことだ。気にするなとは言わないが詮索はしないことをお勧めするよ」
少し困ったような顔をしているけど目が据わっている。あの目はきっと本当に俺たちが立ち入ってはいけないということをさしているのかもしれない。
「それはそうと空君は将来なりたい職業とかはあるのかしら?」
重くなった空気を吹き飛ばすみたいにセツナさんが明るく言った。正直ありがたい。こんな思い空気が続くのは流石に耐えられない。
でも、将来なりたい職業か……
考えたことが無かった。少なくとも安定した収入は得たい。永遠に金銭面で苦労はさせたくないから。かといって具体的に何がしたいというとかはない。
あくまで仕事は手段であって目的だから。
「考えたことが無かったですね」
「まあ、君もまだ若い。なりたい職業が決まっていないのは決して珍しいことじゃあない。気長に考えればいいさ。何か相談があるときは私たちを頼ってくれ。これでも経験豊富だし何より私たちは既に君の親のような気分だからね」
「そうですね! 遠慮なく頼ってください」
なんて暖かいのだろう。俺はこんな風に両親のぬくもりを感じたことが無いから涙が出そうになる。
でも、何とかこらえて言葉を絞り出した。
「はい! そうなったら頼らさせていただきます。お義父さんお義母さん」
「よろしい。じゃあそろそろ夜も遅いし私たちはお暇しようかね」
「そうですね。また近いうちに遊びに来ます。次は年末かしら。ふふふ」
2人は楽しそうに肩を並べて帰ってしまった。とてもいい人たちで俺は周囲の人間に恵まれていると心底思った。
「空、本当に大胆なことするんだから」
「ダメだったかな。筋は通しておかないといけないかなって思って」
「ううん、はっきりいってくれて嬉しかったわ。ありがと」
「いや、お礼を言われるようなことじゃあないよ。俺がしたくてしたことだし」
こんなに良くしてもらってるのに何の挨拶もなしに結婚や婚約はあまり良くない気がするし。まあ、婚約の件に関しては事後報告になったわけだけど。
「お兄? お話は終わった?」
「うん。また年末に来るって。そん時に一緒に挨拶するか」
「そうだね! 私も話してみたいし!」
「私もお二人にはお世話になってるんでもっとお話ししたいっすね」
「じゃあ年末は楽しいパーティーにしよう!」
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