第156話 初めての家族団らん
「おかえり! お兄お姉それと……」
美空は俺達の後ろにいる二人に目を向けて口をあんぐりとあけていた。
そりゃそうだ。俺だって今日見たときはかなり驚いたからな。
「初めまして、ではないかな。君は空君の妹さんの美空さんだったかな?」
「あ、はい。柳美空と申します」
「初めましてでいいんじゃないかしら? 私たちはまともに話したことないんですし。初めまして永遠の母のセツナと申します。娘がいつもお世話になっています」
「あ、いえ。お姉、じゃなくて永遠さんには私のほうが助けられています!」
美空はめちゃくちゃ動揺しながらしどろもどろで返答していた。まあ、久遠さんもセツナさんもオーラがあるから動揺するのはわかる。
「そうかい? ならよかったよ」
「ふふっ。いい妹さんね空君」
「はい。自分にはもったいない自慢の妹ですよ」
美空が誰かに褒められるのは気分がいい。褒めてくれる相手が久遠さんとセツナさんならなおさらだ。
「お、お兄。恥ずかしいって」
頬を赤らめた美空に袖を引っ張られる。照れているようで可愛い。
「微笑ましいね。っと空君中にお邪魔してもいいかな?」
「もちろんです。すいません玄関で立ち話させてしまって」
「気にしなくてもいいよ。それじゃあお邪魔します」
「お邪魔しますね」
2人がリビングに入って行くのを眺めながら呆然と立っていると美空に肩を叩かれた。一体どうしたのだろう?
「どうした?」
「いや、どうしてお二人がこの家に?」
「年末で帰ってきたらしい。そんで帰りに会って今に至るって感じ」
「なるほどって、お姉!? その指輪!」
「空にもらったのよ。婚約指輪。これで美空ちゃんのお姉ちゃんに近づいたわね!」
「今でも十分永遠姉さんって呼んでるじゃないですか。でもよかったです。これからもお兄をよろしくお願いします」
「もちろんよ。私達もリビングに向かいましょう。お母様とお父様を待たせたら悪いわ」
皆でリビングに向かう。こんなに新居が賑やかなのは初めてなので少し嬉しかったりする。俺と美空は昔から両親の愛情というものを感じずに生きてきたからそのせいもあるかもしれない。
◇
「悪いね。いきなりお邪魔してしまって」
「いえ、とんでもないです。ご挨拶をしたかったのでちょうどよかったというか」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ? あなたはもう私たちにとって息子みたいなものなのだから」
2人はにこにこと俺の顔を見ている。何故だかずっと俺のことを未来の息子とか呼んでくれている。それ自体は嬉しいんだけど筋を通してないようで少し座りが悪い。
「も、もう。お母さまったら」
「ほんとにお二人はラブラブっすね。っとお久しぶりです。久遠様、セツナ様」
「久しぶりだね。七海君。元気だったかい?」
「はい!先輩たちのおかげで元気にやれています」
「修二さんが家を引き払ったんですってね。全くあのお方は相変わらず突拍子もないことをするんだから」
セツナさんが呆れたように肩をすくめて言った。予感はしてたけど二人と七海の父親は知り合いのようだ。詳しく聞いた覚えはなかった気がするけどこれで確信に変わった。
「まあ、確かに突然でしたけど空先輩にこの家に住んでもいいって言ってもらえたんでよかったです」
「それはなによりだ。にしても空君。君は本当に優しい人間なのだね」
「……? な、なんですかいきなり」
今の文脈でなぜ俺が優しいと評価されたんだ? わからない。
でも、久遠さんが俺を見つめる目は全てを把握しているような錯覚を覚えてしまう。
「いや何でもないよ。それよりも永遠の指輪……結婚するのかい!?」
「まあ! それはめでたいですね!」
「ちょ、ちょっとお父様お母様!? な、何を言ってるんですか?」
「だって薬指にそんな立派な指輪をつけてたらね。結婚したのかと思ってしまってね」
久遠さんは少しいたずらをしている子供のような顔で永遠を揶揄っていた。
でも、久遠さんが切り出してくれるなら俺も乗っかるしかない。
「久遠さんセツナさん少しいいですか?」
姿勢を正して深呼吸をする。これから言おうとしていることを考えて少しだけ臆してしまうけど今言わないといついえるかわからない。
「お兄私たちははずしたほうがいい?」
「そうしてくれるとありがたいかも」
「わかった! 頑張ってねお兄」
「ファイトっす先輩」
気の利く妹と後輩に感謝しながら俺は久遠さんとセツナさんに向き直る。
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