第152話 お姉
隣で寝息を立てている私の恋人の頬を撫でながらため息をつく。
「私だって不安になるんだからね」
撫でてからぐに~っと頬を引っ張ってみても彼が起きる気配は全くない。最近は一段と疲れているように見える。休日も毎日補習に行ってるし帰ってからも空は勉強を続けていた。だから疲れているのだろうと思うけど最近の空はそれだけじゃないような気がする。いろんなことを気にしすぎて努力して自分の状態に気が付いていないようなそんな気がする。
昔みたいな自分を道具として扱っている危うさは感じない。どちらかというとそんな自覚すらないような、そんな感じだ。
前の空は自覚してやっていたからたちが悪かったんだけど今回はそんな感じがしない。
「本当に無茶だけはしないでよね」
普段の空ならどんなに疲れてても私にあんな冗談は言わない。質が悪いって言うのもそうだけど空は笑えない冗談を言うような人じゃない。
空自身も気が付いてない何かが彼の身に起きているのかもしれない。
だから、私がよく見ておかないといけない。
「空は私が見ててあげるから空はしっかり私のことをみててよね」
愛しい恋人の額にキスをして私も目を瞑る。次第に心地いい眠気がやってきて私の意識は暗転した。
◇
「美空ちゃん少しいいかしら?」
「何かありましたか? 永遠姉」
「最近空の様子が少しおかしいと思うのだけど何か美空ちゃんに心あたりは無い?」
「お兄の様子がおかしい? 確かに最近少しだけ様子がおかしいことがありましたね。でも、私に心当たりとかはあんまりないんですよね。永遠姉は心当たりがありますか?」
「私もないわ。最近休んでいないから疲れが溜まっているのかもしれないわね」
「そうですね。私もお兄の様子を注意深く見ておくことにします」
「ありがとう」
情報の共有は大切だ。空は自分から悩み事とかを積極的に話す人じゃない。最近は少しマシになってきたけどまだまだその点は信用できない。だから妹である美空ちゃんにもしっかりと情報を共有しておかないといけない。
そうしておけば何かあったらすぐに空に手を差し伸べてもらえるだろう。
「いえ、お礼を言うのは私の方です。永遠姉が言ってくれなかったら私は気が付かなかったかもしれないので」
「そんなことないでしょう。美空ちゃんならすぐに気が付くでしょう」
美空ちゃんは空のことをよく見ているし何より空から最も信用されてると思う。だから私が気づかなくとも美空ちゃんであればきっと気が付くはずだ。
「どうでしょう。きっと私には見せてくれない顔って言うのを永遠姉は見てるはずですから」
美空ちゃんは少し悲しそうに眼をそらしていた。大好きなお兄ちゃんが見せてくれない顔を私に見せてることに少しだけ思うことがあるのだろう。その気持ちは私にも少しわかる。私だって美空ちゃんがうらやましい。妹にしか見せてくれない顔だってあるだろうから。
「どうかしら。空は私にだって言ってくれないことだっていっぱいあるのよ?」
「それは、確かに。お兄っぽいかも」
ふふっと美空ちゃんは笑っていた。つられて私も笑ってしまう。
私はこうして美空ちゃんと雑談するのが嫌いではない。同性の友人が今までいなかったというのもあるけど美空ちゃんはもはや家族のようなものだからなのかもしれない。
「やっぱり美空ちゃんと話していると楽しくていいわね」
「私も《《お姉》》と話してるの楽しいです!」
「あっ、」
初めて美空ちゃんが私のことをお姉って呼んでくれた! 嬉しい!
最近は美空ちゃんがちょっとづつ歩み寄ってくれている気がしたけどこうしてお姉っえ呼ばれると家族って認められた気がして本当に嬉しい!!
「もしかして、馴れ馴れしかったですか?」
「ううん、そうじゃなくて。嬉しくって」
「よかった~じゃあこれからもお姉って呼んでもいいですか!?」
「もちろん! そう呼んでくれると嬉しいわ!」
今日は良い日だわ。絶対に忘れない!
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