第151話 質の悪い冗談は控えましょう
「空って結構モテるわよね?」
「なんで今そんなこと言うんだよ」
七海の告白を断って永遠の所に戻るとそう言われた。
もしかして七海の告白のことを知っているのか? そうであってもあまり疑問はない。多分だけど七海の背中を押したのは美空だと思う。
「七海さんに告白されたんでしょう?」
「なんで知ってるんだよっていう突っ込みは置いておくとして確かにされたよ」
「結果はわかってるけどそうなったのか教えてもらっていい?」
「保留にしといたよ。すぐに断るのもかわいそうだったし」
本当はすぐに断ったんだけどつい悪戯をしてみたい欲が出てしまった。たまには永遠に悪戯をしてみるのもいいかもしれないと思ってしまったのだ。
「はっ???」
……好奇心は猫をも殺す。よく言ったものだ。でも間違いがあるとすれば好奇心は猫だけじゃなくて全然人間も殺せるってことだ。
だって目の前で虚ろな目をしながら包丁をこっちに向けてる永遠がいるんだもの。
「お、落ち着け!?」
「私はいたって落ち着いてるわ。そうねどこから切り刻もうかしら?」
「刃傷沙汰はやめてくれ!?」
少しの好奇心で訪れたのはとんでもない修羅場。これからの人生の教訓はしょうもないことは言わない。でいこう。
現実から目をそらそうとしても目の前に突きつけられる包丁が現実に引き戻してくる。
「ふふっ大丈夫。痛いのは一瞬よ?」
「そんなわけないでしょ!? 結構痛み続く奴じゃん」
「永遠姉なにやってるの!?!? いったん包丁おいてください! 本当に危ないんで」
トイレから戻ってきた美空が永遠を羽交い絞めにして何とか一段落する。
美空、本当にありがとう。美空のおかげで俺は五体満足で生きていくことができそうだよ。
「で、なんでこんなことになってるの? とりあえず永遠姉は包丁没収! 危ないから」
「そんなことしなくてももう襲い掛かったりしないわよ。ふんっ」
永遠がそっぽむいて拗ねてしまった。冗談もほどほどにしないといけないなと反省する。
「た、助かった。ありがとう美空」
「うん。それは良いんだけどなんでこうなってるわけ? さっきの永遠姉すっごい形相だったよ?」
「いや~ちょっとな、」
そこからあの修羅場に至るまでの話をした。
「お兄が悪い。ごめんね永遠姉が悪いみたいなこと言って」
「良いのよ。でもやっぱり空が悪いわよね???」
「うん。これはお兄が完全に悪い。そういう冗談は言っちゃだめだよ! 永遠姉にも七海ちゃんにも失礼だから」
「…………すいませんでした」
美空の言う通り今回の件は完全に俺が悪い。質の悪い冗談だった。
「私はいいけど永遠姉もいい?」
「まあ、今回は許してあげるわ。次やったら絶対に許さないから」
「はい」
何とか許してもらえたけど今度からは発言や行動もろもろのいろんなものに気を使って行動していこうと思った。
絶対に。
◇
「寝るか」
あの後は普通にみんなで夕飯を食べてそれぞれで風呂を入って寝ることになった。七海はいつもと変わらない感じで接してくれてたけどちょっと無理をしていたのかもしれない。今度何かフォローしておかないと。いや、俺がそんなことをしてもいいのか?
「寝れねえな」
ベッドに横になって目を瞑ってもなかなか睡魔はやってこない。頭をめぐるのは七海のことだ。告白を振ってしまった事。純粋に申し訳ないことをしたと思ってしまう。
七海と出会ったときはまだ俺が冤罪で凹んでる時だったか。永遠とか美空以外で初めて俺のことを信じてくれた人間が七海だった。
俺の無実の証拠を提供してくれたりなんやかんや助けてもらったな。
もし、永遠と出会うよりも先に七海と出会っていたら俺はあの告白をどうしていたんだろうか。
「いや、永遠と出会ってなかったらそもそもここまで七海と仲良くもなれてないのかな」
どうだろう。まあ、そんなたらればを考えても何の意味もないことか。今の俺には永遠がいる。どれだけ七海が魅力的でも俺が七海を恋愛的な目で見ることはないのだから。
「空、起きてる?」
「永遠? 全然起きてるけどどうかした?」
「ちょっと入ってもいいかしら?」
「全然良いよ」
永遠が少しだけ控えめに部屋のドアを開けて入ってくる。
いつも見ているパジャマ姿でやっぱり可愛い。
「ごめんなさい。夜遅くに」
「全然気にしなくてもいいけど何かあったの?」
「いや、大したことは無いんだけどちょっと空の顔が見たくなって」
「そっか」
なんか少しだけ暗い顔をした永遠がベッドに腰かける。
俺もベッドに腰を掛けて永遠と密着して座る。心なしかいつもよりも永遠が小さく見える。
「ちょっと不安になっちゃったの。七海さん可愛いし性格もいいから私よりも付き合ってて楽しいのかなって」
「あれは冗談だったんだけどな。さっきも説明したけど告白自体はすぐに断ったし」
「それでも不安になるのよ。実際七海さんは可愛いし」
確かに七海も可愛いとは思うけど俺にとっての一番は永遠なんだよな〜
「俺が好きになるのは君だけだ。それだけはなにがあっても揺るがない」
「……もうあんな冗談は本当にやめてよね」
「ごめん。反省してる」
「今日は一緒に寝てもいい?」
可愛く首をかしげて聞いてくる永遠に悶えながら了承する。頬がにやけていないか不安で仕方ない。
「もちろん」
何となくこうなる予感はしてたけど一緒に寝るのはやぶさかではない。むしろ嬉しいくらいだ。
「そういえば最近美空ちゃんの口調がたまに七海さんみたいになってるときない?」
「なってるな。あいつ友達出来るの初めてだから移ったんじゃないのかな。美空って意外と人の影響受けるし」
確かに最近俺と話してる時もたまに七海っぽい喋り方してる時あるもんな。あいつも初めてできた友達に浮かれてるのかな。ちょっと微笑ましいな。
「そういう事だったのね。さっきいきなり口調が七海さんになってて少しだけ驚いたわ」
「たまにあるから慣れるしかないな。そんじゃあ寝ますか」
元々電気は消えてたからすぐに横になって眠ることができる。毎回尋常じゃないくらいにはドキドキしてるけど少しづつ慣れてきた。
寝やすいという表現が正しいのか俺の意識はすぐに暗転した。
↓にある☆☆☆☆☆評価欄を、★★★★★にして応援して頂けると励みになります!




