第146話 独占欲よりも強いナニカ
「じゃあ私は先に帰っておくので先輩たちは楽しんできてくださいね~」
「ああ。気をつけて帰るんだぞ」
「そうよ。美空ちゃんにももう言ってあるけど一応伝えておいてくれると嬉しいわ」
「了解っす! それでは」
七海はびしっと敬礼をしてから足早に帰っていった。
そんな様子の七海に二人で苦笑しながら俺たちは目的地に向かって歩き始めた。
「こうして空と二人で歩くのってなんだか久しぶりな気がするわね」
「確かにそうかも。最近は七海と三人で帰ってたしプライベートでどこかに行くことがあっても四人で行くか美空か七海のどっちかがいたからね」
「そうね。最近は全く恋人らしいことできてなかったし?」
「この前一緒に寝たのは恋人らしい行為じゃないと?」
「あれはどちらかというと夫婦みたいな感じじゃなかった? 手も出してこなかったし」
「……すいません」
前に美空にも言われたけどまさか本人にも言われるとは思ってなかった。やっぱり頑なに手を出さないと魅力が無いと思われてるみたいに思ってしまうのだろうか?
それはあまりよろしくない。俺は永遠に魅力を感じなかったことは無い。
優しいところも可愛いところも少しいじらしいところもすべてが大好きだと胸を張って言える。
「別にいいわよ。空が何を考えてるかくらい理解してるつもりだから。空が他の女の子とかに手を出さない限りは私も空の考えは尊重する。でもね空? 私が言うのもなんだけど多少は言葉にしてくれないと完全に伝わりはしないよ? いくら私でも空の表情とか仕草だけで読み取るのは難しいから言葉にしてくれると嬉しいな」
「永遠って本当に寛容だよね。わかった。できるだけ言葉にするよ」
確かに人に自分の考えを伝えるのは難しい。100%自分の意思を伝えるのなんて不可能といっても過言じゃないと思う。それでも言葉を使わないと30%伝えるのも難しい。でもこの恋人は言葉にしなくてもある程度理解してくれる。そんな永遠に甘えていたのかもしれない。今度からはしっかり伝えないと。
「そうして頂戴。じゃあまずはこの前なんで手を出してこなかったのか教えてもらっていいかしら?」
「……へ」
正直に言葉にしようと思った途端にぶっこままれる質問がそれなのか??
言葉にするのめっちゃ恥ずかしいというか情けないというか。
「ほら早く言って頂戴?」
「待て待て!? 今からイルミネーション見に行くって言うのにする話じゃないだろ?」
「だって言葉にするって言ったから聞きに行こうかなって。でもそうね。今からせっかくデートに行くのにする話でもないわね。今日帰ってからゆっくり聞くことにするわ」
「結局聞きはするんだね……」
まあ、今聞かれないのならいいか。と自分を納得させて俺たちは目的地に向かって歩くのだった。
◇
「わぁすっごく綺麗!」
それなりに都会よりの駅に来てみればそこにはかなり綺麗なイルミネーションがそこら中に広がっていた。
すごく綺麗で隣にいた永遠が目をまん丸にしていた。すっごく可愛い。
「初めて来たけどここまで綺麗なもんなんだな」
イルミネーションを見に来るなんて初めてだから俺も結構興奮してしまっている。
小さい頃も瑠奈と付き合い始めたころもイルミネーションなんて行ったことが無いから本当に綺麗だと思う。
旅行とか今まで行ったことないから新鮮だし何よりも永遠が隣にいるからなおさら楽しい。幸せ。
「私もこういうのは初めてだけど本当に綺麗ね。空と一緒に見ているからかしら?」
「俺も同じことを考えてた。多分隣に永遠がいるからより綺麗に見えるんだろうな~って」
永遠と見たものは全てが輝いて見える。去年のクリスマスに失った色を取り戻してもらってるみたいなそんな感じがする。
「空は素直ね。言葉で表現してくれるのは嬉しいけどいきなりは恥かしいわ」
「こういう事は前からはっきり言ってる気がするんだけどな」
「そ、それはそうだけど。こういう時に言われると余計に照れるじゃない」
「それは確かにそうかも。周りがこんなだからな」
周りにも俺達と同じようなカップルがいて照れてしまうのだ。
こうして手を繋いでるだけで顔がすごく熱くなっているのが自分でもわかる。永遠もこうなっているのだろうか?
「んっ///」
すっごく照れてた。めちゃくちゃ照れてた。
顔真っ赤だし。めちゃくちゃ可愛い。
「永遠すごく顔赤いよ?」
「そういう空だって真っ赤じゃない。人の事言えないわよ」
誰かが見たら確実にバカップルだと思われるような会話をしながら二人でイルミネーションを見て回る。
基本的には青色の電飾が木に巻き付けられてるがたまに白色の電飾が巻き付けられていてとても幻想的に見えた。
「私あの時空を見つけることができて本当に良かったって思ってるのよ。本当に」
「俺もあの時永遠に見つけてもらえてすごく幸せだよ」
綺麗で神秘的な電飾に囲まれながら俺たちは見つめあう。永遠の顔がとても綺麗で視線がどうしても唇のほうに吸い寄せられてしまう。
「別にいいわよ? しても」
「バレてましたか」
女性は視線に敏感っていうけどどうやら本当みたい。俺がしたい事とかお見通しみたいだ。
「私もだから。でも、私からするのはすごく恥ずかしくて」
頬を赤らめながら恥じらっている永遠がどうしようもなく愛おしくてつい抱き寄せてしまう。そしてそのまま静かに唇を合わせた。
病室とか部屋とかではキスをしたことはあったけどこうやって公共の場でキスをするのは初めてかもしれない。
どうしようもなく幸せで何があっても永遠を手放したくないとそう思ってしまった。
少し前までなら永遠が幸せなら最悪捨てられてもいいかもと考えていた節はあったけどこうして永遠を抱きしめてぬくもりを感じていたらそんな考えはどこかに吹き飛んでしまった。永遠とずっと一緒にいたい。
絶対に手放したくない。何があっても一緒にいたい。
そんな独占欲よりも強い何かが胸の中に湧き上がるのを感じながら俺は永遠を抱きしめるのだった。
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