第143話 相談
「美空さん、なんでこうなるまで放置してしまったんですか……」
「……さすがの俺もここまでとは思ってなかったぞ」
「……美空ちゃん、卒業できそうなの?」
「みんなひどくない?」
引っ越しの荷運びを大体終えて俺たちは期末テストの勉強をしていた。
七海や永遠は問題なく勉強を進めていて俺も特に問題なく進めれてはいたんだが、やはりというべき美空はあまりにも酷かった。このままでは確実に補習は免れない。
「事実だろ。俺も100点とれとかは言わんけどさ、流石に全問分かりませんって言われたらこんな反応もしたくなるさ」
美空は学校から配られているテスト範囲内の宿題をやっていたのだが何一つ分からずに速攻で白旗を上げていた。もう少し頑張って欲しいものである。
「美空ちゃん、さすがに私も擁護できないわ。今日から毎日家で勉強しましょう。私がしっかり教えてあげるから」
「そうっすね。私もできる限り教えたげるんで頑張りましょ?」
「ありがと~二人ともぉ~」
美空は二人に泣きついていた。
今年の冬にも似たようなことを経験しているのにまた勉強をしていなかったらしい。
全く困った妹だ。それでも頼れるし気遣いができる妹だからいいんだけどね。
「そうだ美空、後で時間あるか? ちょっと相談したいことがあるんだけど」
「ん? 全然いいよ~珍しいよねお兄が私に相談なんて。さっきの続き?」
「いや、それとはまた違う相談だよ」
「なに? 私には話せないことなのかしら?
「そうっすよ~私達には言えないことなんすか?」
永遠と七海が聞こうとしてくるけどこればっかりは二人には言えない。特に永遠には。
「すまんな。ちょっとした隠し事だ。今度話すから今は勘弁してくれな」
「空がそういうならわかったけど絶対に今度教えてよ?」
「っすね。まずは待つことにします」
「ありがとな」
聞き分けがいい同居人で本当に助かる。
まだ、知らせるわけにはいかないからな。
◇
「んで? わざわざ私に相談って何?」
「えっとなクリスマスに婚約指輪を贈ろうと思うんだが」
「私に!?」
「なわけあるか。もちろん永遠にだよ」
「ですよね~いいんじゃない? お兄はめちゃくちゃ永遠姉さんのこと好きだし永遠姉さんもお兄の事大好きみたいだからね」
美空にもそう見えていたのかと思って少し安心する。
主観も大事だけど客観も大事だから。
「でな、買おうと思うんだけど金の出所がちょっと気になるんだよ」
「……なるほど」
美空は察したように少し難しい顔をしていた。
こういう所にしっかり気が付いてくれるから俺はこの妹が大好きだったりする。
「どうすればいいと思う?」
「う~ん難しいよね。確かに指輪とかなら自分で働いたお金で買いたいって思うんだろうけどお兄は今そんな時間ないもんね。補習もあるしそろそろ受験だし」
「そうなんだよ。この前永遠にバイトしようか言ったらすぐに否定されたし何なら怒られたし」
少し前にバイトの相談をしたらすっごく怒られた。つまり今現在自分で働いてお金を稼ぐという選択肢はない。お金はあるのに使いにくいという致命的な問題を俺の口座は抱えていた。
永遠から毎月振り込まれてるお金と悟の事件で悟の親族から振り込まれた多額の損害賠償金、久遠さんに家と一緒に送られた多額のお金。
金額にしてみれば相当な額が入っているけどそのすべてが自分とはあまり関係のない金だ。そのお金を婚約指輪に使うのはと思わないでもない。
「婚約指輪は今持ってるお金で買って結婚指輪はお兄が働いてから買えばいいんじゃない? どうせクリスマスに送りたいんでしょ? お兄はさ」
「本当にお前は何でもお見通しだよな」
「あったりまえじゃん! もう長い付き合いだからね~お兄の気持ちもわかるけどそう言うのは曖昧にならないうちに早いうちに贈ったほうがいいよ。入手方法はどうであれお兄の財産であることには変わりないんだからさ」
「そっか。ありがと。美空のおかげで決心できたよ」
後は早いうちに指輪を買いに行くだけか。
でも、もう少しでテストだしそれを除いても休日は大体が補習で終わってしまう。
問題は買いに行くタイミングか。
「しっかりサプライズ成功させるんだよ? それとなく協力はしてあげるからさ」
「ありがとな。俺もしっかりお前の勉強を見てやるから安心しろな」
「ありがとうございます……」
美空は目をそらしてお礼を言ってくる。頬が少しだけ赤くなっていることから照れているのだろうと俺は勝手に推測する。
「俺の相談はこれだけだ。聞いてくれてありがとな」
「ううん。頑張ってねお兄」
美空はウインクをして部屋から出て行った。
いつも思うが出来の良い妹だ。俺の人生最大の幸福のうちの一つが美空が俺の妹であるということだなと俺は確信している。
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