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恋人に浮気され親友に裏切られ両親に見捨てられた俺は、学校のマドンナに救われた  作者: 夜空 叶ト


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第141話 もう一年

「せんぱ~いこれはここでいいんすか?」


「ああ。それで大丈夫だよ。ありがと」


「空。これ運んでもらってもいいかしら?」


「りょ~かい」


 今日は引っ越し当日。

 四人で手分けをして久遠さんからもらった家に荷物を運んでいた。

 運ぶというか配置するといったほうが表現としては正しいのかも。業者の方に運んでもらったものの荷解きやそれに準ずる作業を今日一日かけて行っている感じだ。


「お兄~こっちは終わったよ~」


「おつかれ。あとは自分の部屋とかをやってていいから」


「ありがと~」


「先輩~こっちも終わったっす」


「うん。七海も自分の部屋に取り掛かってくれていいよ」


 皆でリビングやキッチン、みんなで使う共用スペースを整えていった。

 四人もいると終わるのも案外早いもので2時間ちょっとで終わった。あとは自分たちの部屋を片付けるだけだ。

 といってもベッドとかの大きなものは既に業者によって運び込みが終わってるので小物などの片付けだけだ。


「了解っす」


 俺もそろそろ自分の部屋に取り掛かるかな。


「空ちょっといいかしら?」


「ん? どうした?」


「私の部屋を手伝ってほしいなって」


「別に構わないけど何かあったのか?」


「いいからちょっと来て」


 今日はやけに強引だなと思わなくもなかったけどそれはそれで可愛いので良しとしよう。というか、永遠の頼みごとを断る理由が無いし。


「それで何を手伝えばいいんだ?」


「これをあそこの上に置いて頂戴。それとこれはあそこに」


「わかった。結構永遠の部屋には荷物が多くあったんだな」


「そうね。引っ越してみて自分でもびっくりしたわ。だから手伝ってほしかったのよ」


「これくらいならお安い御用だ。いつでも頼ってくれ」


「今も頼ってるじゃない。まあ、何かあったらすぐに言うわよ」


「そか」


 こういう所は少し変わったと思う。昔の永遠なら簡単に俺に頼ってはこなかったはずだ。いい変化を感じて俺は少しだけ頬が緩んでしまう。


「これでいいか?」


「ええ。ありがとう。ごめんなさいね。あなたの部屋も終わってないでしょうに」


「いや、気にしないでくれ。じゃ、また何かあったら呼んでくれ」


 言い残して部屋を後にする。ちょっと前までは遠近感がつかめずにドアノブを掴もうとして空ぶることがたまにあったけど最近ではそれも無くなってきた。

 これが慣れってやつかな。


「そういえば目をケガしてからもう半年も経ってるんだよな。瑠奈に浮気されてからもうすぐに一年、か。一年前の俺が今の俺をみたらびっくりするだろうな。いや、ありえないってキレるかもな」


 昔の俺はそれほどまでにあいつのことが好きだったんだもんな。だからこそ浮気されたと知ったときは悲しかったし絶望した。それがもう一年も経ってるんだから驚きだ。


「お兄? どうしたのこんなところで立ち止まって、いやちょっと来て」


「なんだよ?」


「いいから来る! 拒否権無いからね」


「わかった、わかったからそんなに引っ張るなって!」


 美空に腕を引っ張られながら美空の部屋に連れて行かれる。一体何だって言うんだよ。まったく。


「んでわざわざ俺を部屋に連れ込んでどうしようってんだ?」


「お兄が酷い顔してたから」


「いきなり悪口か? 勘弁してくれよ」


「お兄ってわかってるくせにたまにそうやってはぐらかそうとするよね。どうして?」


「さあな」


 自分でも美空の言わんとすることはある程度理解してる。それでもはぐらかしてしまうのはなんでなんだろうな。


「まあ、そんなことはどうでもいいの。なんであんな顔してたの? 何か嫌なことでもあった?」


「お前には本当に隠し事ができそうにないな。待ったく誰に似たんだか」


「お兄じゃない? で、話してごらんなさいよ。この超絶可愛い妹様が聞いてあげるからさ」


 自分でそんなに自画自賛するなよな。実際に可愛くて否定できないのだけど。


「ちょっと思い出してただけだよ」


「何を? 普通のことを思い出してたわけじゃないでしょ? もし普通のことを思い出してただけならお兄はそんなに苦しそうな顔しないはずだし」


「本当にお前は厄介だな。隠し事ができなくて困る」


「これでも18年間付き合ってきた兄妹だからね。お兄の事なら簡単にわかるよ」


 本当に美空には敵わない。すべてを見通してるみたいで。

 でも、それがありがたかったりもする。俺が本当の意味で弱音を吐けるのは美空くらいしかいない。


「すこし瑠奈のことを思い出してただけだよ。もう一年近く経ったんだなってさ」


「……そっか。確かにもう一年も経つんだね。時間の流れは速いね」


「だな……」


 もう一年だ。あのそこのない絶望を味わってから一年が経過した。同時に永遠と会ってからも一年ということになる。


「お兄はさ瑠奈姉のこと今はどう思ってるの?」


「わかんないな。好きではない。でも多分幼馴染だとは思ってる。それは変えようが無いからな」


 親友や恋人っていう関係はすぐに終わったり変わったりするだろうけど幼馴染という関係は不変な気がする。俺個人の考えなのかもしれないけど。


「そっか、お兄瑠奈姉のこと大好きだったもんね」


「まあな。そういうお前もかなり懐いてただろ?」


「まあね。優しかったし本当のお姉ちゃんみたいだったからね」


 美空にとってはきっと本当に姉だったのだ。それくらいに懐いてたしあいつも美空に構ってた。そもそも俺たちの両親は全く俺たちに構ってくれなかったしな。

 懐くのも無理はないか。


「だよな」


「それであんなに落ち込んだ顔してたんだ」


「かなり時間は経ったけどすぐに忘れるってのは難しいからな。そんなに暗い顔をしてるとは自分でも思わなかったけどさ」


「お兄は瑠奈姉のこと大好きだったからね」


「なんかそれ二回言ってないか? ついさっき聞いた気がするぞ?」


「大事なことだから。でもお兄には今永遠姉さんがいるじゃんか。そんなに落ち込まなくてもいいんじゃない?」


「いや、落ち込んでるつもりはないんだけどな。少しだけ本当に少しだけ昔のことを思い出してただけだからな。特に未練とかは無いんだ」


 未練なんてあろうはずがない。俺は永遠との今の生活に満足してる。それでも、瑠奈をああいう結末に導いてしまったのが俺である事実は変わらない。その点については少しだけ後悔をしている。


「ならばよし! そんな辛気臭い顔してたらだめだよ~永遠姉さんが心配するから控えたほうがいいよ。私の要件はそれだけ」


「ん。なんかありがとな」


「いいよ。私たちは唯一といってもいい肉親なんだからさ。助け合わないと」


「だな」


 美空に礼を言って俺は部屋を後にする。そんな顔をしてたなんて自分でもわからなかったから気をつけないと。

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