第139話 ずっとそばにいる
「おかえり~意外と早かったね?」
「そうか? 終わる時間とかこんなもんだろ」
「いや、打ち上げとかなかったのかな~って。お兄のクラスすっごく人気そうだったのに」
「そういう事か。あったんだけど断って帰ってきたんだ。少し疲れてたし何より早く家に帰りたかったからさ」
嘘ではない。
完全に本当の事でもないけど。
「ええ~本当は永遠姉さんが他の男に話しかけられるのを見たくなかっただけだったりしてね」
「バレたか。その通りだよ」
「やっぱりね~今日の夕飯は私が作りますんで永遠姉さんは部屋で休んでてくださいよ」
「いいの?」
永遠が遠慮がちに聞き返す。
「もちろん! いつも作ってもらってるんで姉さんが疲れてる時くらいは助けになりたいんです!」
「じゃあ、お言葉に甘えて部屋で休ませてもらうわね。ありがとう美空ちゃん」
「お兄は私とここで少しお話しよっか」
「うい」
出来れば永遠について行きたかったけどこういわれてしまってはそうもいかないか。
それに永遠も少しは一人になりたいかもしれないし。
後で様子を見に行くか。
「じゃあ少し休んでくるわね」
「ああ。ゆっくりするんだぞ~」
永遠は少しだけふらふらした足取りで自分の部屋に消えていった。
大丈夫だろうか。
「それで、なんかあったでしょ?」
「そうだな。ちょっと俺の部屋に来てくれ」
一回永遠の部屋を後にして自分の部屋に美空を招き入れる。
美空が俺の部屋に入るのはなんだか久しぶりな気がする。
「そんで? わざわざこっちの部屋に場所を移したってことは永遠姉さんには話しずらいこと?」
「まあな。お前も大体気が付いてるんだろ?」
「まあね。永遠姉さんすごく疲れた顔してたし。きっと何かあったんだろうな~って勝手に予想してるけど」
「正解だ。実は今日の文化祭で色々あってな。詳しくは話せないんだけど永遠は今少しだけ不安定だ。だから少しだけ気を使ってやってくれると嬉しい」
家に着いてからは大丈夫そうに振舞ってはいたけど俺から見ればバレバレだった。
美空も多少は違和感に気づいていたのだろう。
「わかった。何があったのかは聞かないほうがいい感じ?」
「まあな。俺からはデリケートな話題だから話せないな。永遠がこの問題と折り合いをつけれたら話してもらえるかもしれないけどそれまでは待たないとかな」
「そっか。わかった。お兄、ちゃんと永遠姉さんを支えてあげなよ?」
「もちろん。もうちょいしたら引っ越しもしないといけないからしっかりケアするさ」
文化祭も終わって本格的に俺たちはこのマンションから引っ越す予定だ。それもあってしばらくは忙しくなりそうだからしっかりと永遠にも気を使わないといけない。
「よろしい。じゃあ私は夕飯作ってくるね~七海ちゃんは私の部屋にいるから何か用があるのなら私の部屋に行くといいよ」
「いや、今んとこ無いからちょっと永遠の様子を見てこようかな」
「そ。じゃあ一緒に姉さんの部屋に戻ろっか」
「あいよ」
美空が夕飯を作るのは久しぶりな気がするけど美空の料理はおいしいからありがたい。
にしても永遠の問題は根が深い。
彼女が昔に復讐をしているのならこれ以上相手に何かをするのは過剰だろう。
相手は命を奪ってるんだからと思わなくもないがそれで下手に永遠に復讐をしようと考えられたら厄介だ。
どうしたもんかな。
◇
「大丈夫かって寝てるか」
永遠の私室に入ってみたらベッドの上で寝息を立ててる永遠がいた。
でも、安らかな表情ではなく苦しそうな顔だった。
「うなされてるのか」
「……そら、ね」
「……」
どんな夢を見ているのか理解してしまった。
空音さんの夢か。
「俺はそばにいるからな」
うなされてる永遠を見て手を握る。
小刻みに震えてる永遠の手は少しだけ冷たかった。
「どうしたもんかな」
この件に関しては永遠が向き合うか逃げるかを選択するしかない。
部外者の俺がどうにかできる問題ではないんだ。
「無理をする必要は無いからな。ずっとそばにいるからさ」
七海に言われた。
俺ができることは所詮そばにいることだけ。
それしかできないことをもどかしく思うけどそれ以外にできることが無い以上そうするしかない。
永遠がこの件に再び折り合いをつけるまで俺はずっとそばにいる。
それが彼女に救われた俺が唯一出来ることだと思うから。
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