第138話 七海のもう一つの秘密と弱音
「先輩は大体察しがついてるんじゃないっすか?」
「まあね。それでも君の口からきかない限りは俺から話すことができない。永遠にかかわることだからさ」
「本当に先輩らしいっすね。わかりました。私は永遠先輩をかなり昔から知っています。それも《《小学生》》くらいの時から」
「……」
予想通りだった。
前に七海は言っていた。
永遠に近づく人間の監視と調査をしていたと。
その依頼を出した人物はおそらく永遠のご両親だろう。
そして七海はこうも言った。
永遠にもっとも近づいた人間が俺だといっていたけどそこには違和感を覚えた。
昔に永遠にもっとも近づいたのは空音さんのはず。
それを七海が知らないわけがないと思ったのだ。
「そして、私も知っているんですよ。永遠先輩の価値観や人間性を大きく変えるきっかけになったあの事件を」
「そうか、なら俺も話すけどその事件にかかわった人物がこの学校に来ていたらしい。永遠は偶然その子を見かけてこうなってしまったんだ」
そんな偶然があるのだろうかと思わなくもないけどあったのだからしょうがない。
そもそも偶然かどうかすら怪しいところではある。
「なるほど。それは確かにきついでしょうね。永遠先輩にとっては未だに克服できてないトラウマみたいなもんでしょうし」
「だよな。俺は一体どうすればいいと思う」
一個下の後輩に弱音を吐いてしまった。
情けないとは思うけど俺は自分がどうすればいいのかわからない。
何をすれば永遠を幸せにすることができるのか。
関わるべきなのか触れないようにするべきなのか。
強がることはいくらでもできるけど俺はどうするべきなのか迷っている。
「珍しいっすね。先輩が弱音を吐いてるなんて」
「そうか? まあデリケートな問題だからな。どこまで踏み込んでいいか正直俺にもわかんないんだよ」
「そうっすね~寄り添ってればいいんじゃないっすか? だってそれ以外で先輩にできることあります?」
「それもそうだよな」
寄り添う事か。
確かに俺から何か行動を起こさなくても永遠が頼ってくれるのを待つしかないか。
何かあれば彼女を支えられるように。
「ありがと。なんか吹っ切れた」
「ならよかったっす。そうしますか? 事件にかかわった人間を私は全て覚えているので追い出しましょうか?」
「できればお願いしたいけどさすがにね。その子たちがやったことは許されないことだけど変に刺激して永遠を逆恨みでもしたら厄介だ」
「わかりました。それでも、帰るまではここにいたほうがいいでしょうね。奴らが帰ったらメッセージ飛ばします」
「頼んだ。いつもすまないな」
「いいっすよ。これから一緒に住むことになるわけですし」
「ありがと」
七海は本当に頼りになる後輩だな。
いつも助けられる。
「んじゃ失礼しますね。永遠先輩をお願いします」
「ああ。任された」
七海はそういって保健室を後にした。
これで俺が疑問に思っていたことが一つ解消された。
やっぱり七海はずっと昔から永遠を見ていたらしい。
なんで永遠を助けてやらなかったんだとは思わない。
七海にも何かの事情があっただろうしそこまでを望むのは酷というものだ。
自分にできなかったことを他人に求めることほど傲慢極まりないことは無い。
「永遠。俺はいなくなったりしないからな」
頭を撫でながら俺は物思いにふける。
永遠が抱えるトラウマについてを。
◇
「ん、」
「おはよう。よく眠れたか?」
「そら、? なんで私……あっ!?」
最初は寝ぼけてたみたいな様子だった永遠も少ししたら意識がはっとしたのか飛び起きた。
「えと、今何時?」
「ばっちり午後四時。文化祭終了時刻だね」
永遠を運んできたのがお昼くらいだったから4時間くらいか?
それだけ寝たおかげでもあるのか顔色がかなり良くなっていた。
よかった。
「うそっ!? なんで起こしてくれなかったのよ!!」
「いや、起こせないだろ。体調悪くて寝てたのに」
「う、それは確かに」
流石に病人を無理に起こすわけにもいかなかったから俺は永遠を起こさずにずっと見守っていた。
可愛い寝顔を長時間見れて役得ではあった。
「体調が大丈夫なようなら着替えに行こうか。文化祭も終わったしいつまでもこの格好でいるわけにはいかないからな」
俺はずっとここにいたからテイルコートから着替えて無いし永遠もメイド服姿のままだ。
流石に着替えなけらばいけない。
「そうね。空のことまでずっとここにいさせてごめんなさい」
「いんや気にしなくていい。永遠とずっと一緒に入れて幸せだったくらいだ」
「全く、すぐにそう言うこと言う……」
永遠は顔を赤くしながら頬を膨らませていた。
なにこれ可愛い。
「ほら、行こうか」
永遠の手を取って教室に向かう。
そこでみんなに心配されながらも無事であることを伝えて俺たちはそれぞれ着替えた。
その後はみんなで文化祭の片づけをして解散になった。
◇
「本当に今日はごめんなさい。せっかく文化祭デートできる最後のチャンスだったのに」
「気にしなくてもいいよ。永遠が無理をしながら文化祭に参加してたら俺は気が気じゃないしな」
実際問題永遠が無理をして何かをしていたらすぐに止める自信が俺にはある。
だから本当に気にする必要は無いんだけど、永遠はすごく申し訳なさそうな顔をしていた。
「気にしなくていいって言っても永遠は気にしそうだからお詫びをねだってもいいか?」
「なに?」
「今度膝枕してもらってもいいか?」
「……いいけどなんで膝枕?」
ちょっと間があったのは結構気になるけど気にしないようにしよう。
気にしたら何かを失ってしまう気がする。
「男のロマンだから。ダメかな?」
「ううん。なんなら耳かきまでつけちゃう!」
「本当か!?」
「もちろん。そんなのでお詫びになるのかはわかんないけど」
全然お詫び……というかご褒美なんだよな~
これで永遠も罪悪感が薄れるし俺は永遠から膝枕&耳かきをしてもらうことができる。
まさにウィンウィンというやつだろう。
「全然お詫びになる! 楽しみにしとくよ」
「ええ。それじゃあ帰りましょうか」
手を繋いで家への帰路を辿る。
こうして何気ない日常に永遠がいるという幸せを噛みしめながら家に帰るのだった。
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