第137話 邂逅
「さっきね、お店に《《あいつらがいたの》》」
「あいつら?」
永遠が言うあいつらというのが誰なのか見当がつかない。
一体誰なんだろう。
「空音を虐めてたやつらよ」
「……」
そういう事か、と。
少しだけ納得してしまう。
永遠がああなってしまった原因だから。
彼女にとってのトラウマなのだろう。
空音さんのことは俺でも深くは踏みこめない領域だ。
そんな彼女を自殺に追いやった元凶を見てしまったのならあんなふうになってしまうのかもしれない。
大切な人を失うということはそれだけ辛いことだから。
「私が証拠をたくさん集めて裁判をして高校には入学できてないって聞いて安心してたのに。こんなところで会うことになるなんて思ってもみなかったわ」
「そりゃあそうだよな。俺も中学の知り合いとなんてほとんどあってないしな」
全然あってない。
幼馴染や親友だった二人を除いたら全くない。
というか、中学時代にも友達が多かったとは言えないしな。
「それでも、まさかあいつらがここに来るなんて思ってもなかったのよ。もう二度と顔も見ることは無いと思ってた。だから突然あいつらの顔を見て動揺しちゃって、空音のことを思い出しちゃって……」
「そっか。クラスの人には俺から連絡しとくから永遠はゆっくりしといてよ」
そう言う事情であるならばこれ以上永遠に無理をさせるわけにはいかない。
一旦クラスに戻るか。
俺のシフト時間はまだあるわけだしそれ以前にこのことを委員長とかに報告しないといけない。
「待って……一人にしないで」
腕の裾を掴まれる。
その声は震えていてとても弱弱しいものだった。
もしかしたら昔のことを思い出しているのかもしれない。
「わかったよ。電話で連絡だけしとく」
スマホを取り出してメッセージアプリを開く。
委員長あてに俺と永遠が戻れそうにないことを伝えておいた。
「ごめんなさい」
「謝ることじゃないだろ。永遠がつらい時にはそばにいる。それが彼氏として当然のことだよ」
ベッドのふちに腰を掛けて永遠の頭を撫でる。
相変わらず触り心地がいいな~と思いながら思考を巡らせる。
今回の件に関しては俺ははっきり言ってしまえば部外者だ。
恋人であっても立ち入っていけない領域はある。
きっと永遠にとってそれは亡くなった空音さんの事なんだろう。
俺は向き合わなくてもいいと思ってる。
この件に関して積極的に何かをしてもきっと永遠が傷ついてしまうだけだ。
世の中には逃げたほうがいいこともある。
変に向き合って心に傷を残す必要なんて全くない。
「ありがと。空が私の恋人で本当に良かった」
「俺もだよ。何かして欲しいこととかあるか?」
「そばにいてほしい。今はそれだけでいいから」
「わかった。手でも握るか?」
「ありがと」
永遠の手をぎゅっと握る。
暖かい。
顔色もさっきに比べてマシになったように思う。
よかった。
「少し寝ると良い。寝てもそばにいるから安心してくれ」
「ええ。そうさせてもらうわね」
永遠は目を瞑る。
しばらくすると寝息が聞こえ始めたから少しだけ安心する。
「トラウマ……なんだろうな」
俺は永遠みたいに辛すぎる過去を体験したわけじゃないから気持ちがわかるなんて傲慢なことを言うつもりはない。
それでも、理解したいとは思ってしまう。
「それも、傲慢なことなのかな」
わからない。
それでも、今度話をしっかり聞いてみたいなと思ってしまう。
「永遠先輩……は大丈夫そうっすね」
「七海か。どうかしたのか?」
「永遠先輩が倒れたって聞いてきたんすけどその様子なら大丈夫みたいっすね」
「そういう事か。ああ、今眠ったところだよ」
「とりあえずよかったっす。でも、何があったんすか?」
七海に話してもいいべきだろうか?
永遠の許可なく話すのには抵抗があるけど俺には一つの予感があった。
今回はそれを確かめてみることにする。
「七海、正直に答えてほしいんだがまだ俺に、正確には俺たちに隠してることがあるだろ?」
「……」
「その無言は肯定と受け取っていいのかな?」
「……はい。その通りです。なんでわかったんですか?」
「予想してただけだよ。この前七海は言ってただろ? 永遠にかかわる人間を調査してたって。空音さんって人に心あたりがあるんじゃないか?」
「先輩って鈍感で朴念仁なのにそういう感は鋭いっすよね!」
なんで俺は罵倒されたんだ?
でもこれは少し前からずっと思っていた。
いつから永遠の周囲の人間を調べてたんだと考えたらそこに行きついた。
「じゃあ、聞かせてもらおうかな。七海が隠してたことをさ。それを聞いたら永遠のことも話せると思うから」
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