第136話 目の傷の使い道
文化祭二日目が始まった。
今日も昨日と変わらずにお昼までのシフトでそれ以降は自由だ。
今日こそ永遠と文化祭デートを楽しむんだ!
昨日は昨日で楽しかったけどやっぱり恋人とは二人っきりでデートをしたいと思うのが人の性!
「じゃあ今日もお昼まで柳君と天音さんお願いね~」
「任せてくれ。あと、面倒そうな客が来たら全部俺のところに回してもらっていいから」
「りょーかい。いや~助かるね」
「空は無理しすぎないようにね」
「わかったよ。それじゃあ頑張りますか」
昨日はそれなりに繁盛してたし今日もそれなりに忙しいことを覚悟した方がいいだろうな。
今日も永遠に無理に絡もうとするやつを片っ端から片付けないとな!
自分で自分に気合いを入れる。
「頑張ろうね! 空」
「おうよ」
昨日で大体はつかめた。
何があっても回らなくなるような事は無いだろう。
永遠も慣れてきたみたいだし変な奴に絡まれなければ大丈夫だろう。
「んじゃ今日も頑張って行きましょう!!」
クラス委員長の一言で全員が声を上げる。
◇
「柳君こっちお願い!」
「了解だ」
声をかけられた方に行ってみれば大柄で少しだけガラの悪そうな男が立っていた。
なんで文化祭に一定数ガラの悪い人間が来るのか。
意味わかんね~
「お客様いかがなさいましたか?」
「あ? 俺はこの女の子と話してんだけど?」
「ふざけんなよ。はぁ。乱暴をなさるようであればお引き取りください。文化祭はあくまで学校行事です。節度を守れない人を無理してまでもてなす必要はありませんので」
精一杯の目力を込めて男を睨む。
こういう時にこの目の傷は少しだけ役に立つ。
普通の高校生が睨むよりもよっぽど効果的だった。
昨日も何回かこの傷に助けられてる。
「っ、わかったよ。消えればいいんだろ? ったく」
悪態をつきながらも男はクラスから出て行った。
ありがたいね。
問題が大きくならないのはさ。
「ふぅ。疲れるな」
「お疲れ様柳君。いや~頼りになるね! 私と付き合わない?」
「最愛の恋人がいるんでお断りします。そんな軽口叩いてる暇があったら委員長も仕事してくださいよ。結構忙しいんすからね?」
「振られちゃったか~まっ知ってたんだけどね。わかりましたよっと。仕事しますか~」
「そうしてくれ。俺はちょっと永遠の様子見てくるから」
「うん」
まあ、特に問題ないとは思うけど一応な。
「大丈夫か? 永遠」
「ええ、なんとかね。今日もなかなかに忙しくてちょっと疲れてるけど」
「無理だけはしないでくれよ? 頼むから」
「そういう空こそ。無理したら許さないからね?」
「わかった。お互い頑張ろう」
見た感じ疲れてはいそうだけど無理をしている様子はなかった。
あの感じなら大丈夫だろう。
「さて、俺も頑張るかな」
◇
「柳君! ちょっと来て!」
「ん? どうかしたのか?」
「天音さんが急に倒れて!」
「はっ!?」
永遠が倒れた?
特に体調に何か問題があったようには見えなかったけど。
「こっち! 早く来て!」
「ああ!」
一体何があったっていうんだ。
「大丈夫か!? 永遠」
「意識はあるんだけどずっと動かなくて」
「わかった。悪いけど俺は永遠保健室まで連れてくよ。二人抜けるけど頑張ってくれ」
「わかったわ。天音さんのことをお願い」
「任せてくれ」
永遠を抱きかかえて保健室に向かう。
永遠の体は小刻みに震えていて何かがあったということはわかるけど、何があったかまではわからない。
◇
「すいませんベッド貸してください」
「柳君? 天音さん!? 何があったの?」
「わかりません。いきなり倒れて。意識はあるみたいなんですけど話せないっぽくて」
「わかったわ。そこのベッドを使っていいから。柳くんも一緒にいてあげて」
「はい」
先生は気を使ってくれてカーテンを閉めてくれた。
近くにあった椅子に座って永遠を見る。
顔色がすごく悪い。
青白くなってしまっている。
一体何があったのか。
クラスの中では特に問題はなかったように思える。
「永遠、何があったのか聞いてもいいか?」
「……聞いてくれるかしら」
「もちろん。でも、言いたくないようなら言わなくてもいいし絶対に無理はしないでくれ。話せる範囲でいいからさ」
できるだけ永遠に無理をさせないように声をかける。
一体何があったのか。
俺は永遠が話し始めるのを待つことしかできなかった。
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