第124話 兄妹
「空先輩! 美空さんが」
「どうした? そんなに焦って」
「美空ちゃんがどうかしたの?」
いきなり部屋に入ってきた七海に驚きはしたけどその焦り具合が尋常じゃない。
一体美空に何があったというのか。
「それが倒れてしまったんすよ」
「は!? なんで」
「事情は後で話しますから早く来てください!」
「わかった。行こう」
とりあえず美空の様子が気になるから七海に案内されるがまま俺たちは美空の部屋に向かった。
◇
「で、何があったのか聞いてもいいか?」
七海が言った通り美空は部屋で倒れていた。
しかし、呼吸は安定してたし脈と呼吸も安定してたし七海が救急車を呼ぶ必要は無さそうといっていたためとりあえずは部屋のベッドに寝かせておいた。
「はいっす。さっきまで普通に会話してたんすけど美空さんのカバンに何か変な物がついているのに気が付いて、見てみればそれが盗聴器だったんです」
「盗聴器だって? 一体誰に…………ぁ」
気が付いてしまった。
俺が轢かれた遠因ともいえる。
悟に情報を提供したのはきっと両親のどちらかだ。
でも、その情報をどこで仕入れたのかだけはわからなかった。
七海もそんなことをあいつらに伝えることはしないだろうし。
それは永遠も美空も同じだった。
だから、最後の最後でピースが揃わずに考えないようにしていたけど盗聴器があったのなら話は別なのだろう。
盗聴器をつけるタイミング。
それはきっと俺と永遠の前に母親が現れたタイミングだろう。
そのタイミングで美空の所には父親が向かったという話を聞いた。
「……そういう事か」
「ええ。多分今空先輩が気づいたことを美空さんはさっき気が付いてショックで倒れてしまったんだと思います」
「え? 一体どういうことなの?」
「簡単に言えば悟が遊園地に行くことを知っていたのはこの盗聴器から情報を聞いた俺の両親があいつに教えたんだ。つまり」
「美空ちゃんは空が轢かれた遠因が自分にあると思って……?」
「だろうな。全く本当に俺の両親は余計なことばかり」
怒りを通り越して呆れてくる。
あいつら今度見たら絶対に許さない。
「それでショックを受けて倒れちゃったってこと?」
「多分そうっす。美空さん空先輩のことをとても大切に思ってるのでその先輩が自分のせいで傷ついたって知ってショックだったんだと思うっす」
「そうか」
全然美空のせいじゃないけど気持ちがわからなくはない。
俺が美空の立場だったら俺も自分のことを責めてると思うから。
「空、今日は私のことはいいから美空ちゃんのそばにいてあげて」
「……永遠」
「私もそのほうがいいと思うっすよ。私は別の部屋に泊めてもらえば」
「わかった。二人ともありがとう。七海は俺の部屋でよかったら使ってくれ」
「ありがとうございます先輩」
「なにかあったらすぐに私に言うのよ?」
「うん。ありがとう」
まずは美空のそばにいることから始めないとな。
それが俺にできることだし。
◇
「………すぅ」
「顔色は良いな。よかった」
規則正しく寝息をたてている美空を見てひとまず安心した。
うなされては無いみたいだった。
「お前は気にし過ぎなんだよ。あの一件で俺たちに非は全くないんだからさ」
寝ている美空の頭をゆっくり撫でる。
永遠ほどではないにしてもとてもサラサラしていて触り心地はよかった。
「お前もこういう所は努力してんだな。ま、男っ気は全くないみたいだけどな」
性格が悪いわけでもないし顔も悪くないと思う。
身内の贔屓目かもしれないけど十分に可愛いと思う。
なのに一向に恋人ができないのはこいつの理想が高いのか周りに見る目が無いのか。
「まあ、焦ることないよな。そもそもお前に結婚願望があるのかどうかすらわかんねえし」
そういう話は最近全くしてなかったし美空は俺に話したがらない気がするから聞いてなかった。
機会があったら今度話してみてもいいかもしれない。
「ん、んん?」
頭を撫でていると美空がなにか声を出す。
寝言だろうか?
それとも目が覚めそうなのか。
「ん。お兄?」
「そうだ。お前のお兄だぞ~」
「なんで私の部屋にいるの?」
「七海から話を聞いてきた。自分がどうなったのか覚えてるか?」
「……うん。覚えてるよ」
「そっか」
美空はすぐに俯いてしまう。
その表情は今にも泣きだしてしまいそうだった。
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