第116話 大豪邸
「今日はここまでにするか。毎日毎日お疲れ様。最近しっかり休めてるか?」
「はい。ばっちりです。休日までこうして授業をさせて申し訳ないです」
「そんなの気にするな。お前が悪いわけじゃないんだしお前は真面目で飲み込みも早いから教える側も助かっているよ」
先生がニコニコしてそう返してくれる。
土日まで各教科の先生に様々な授業を教えてもらっている。
やはり申し訳ない。
休日をつぶしてしまっているようで。
「じゃ、気をつけて帰れよ? そろそろ暗くなるからな」
「はい。今日もありがとうございました」
挨拶をして校門に向かう。
先生の言った通り周りは暗くなり始めている。
「ん? あれ七海さんか?」
今日は日曜日。
昨日もだけど何かあったのかな?
「七海さん奇遇だね」
「っ! 空先輩ですか?」
「え、あ、うん。そうだけどびっくりさせちゃった?」
「いえ、そんなことないっすよ。今日も補習ですか?」
「まあね。というか俺は毎日補習あるし、しないと卒業できないからね」
「そうでした。今日もお疲れ様っす」
……なんか妙なんだよな。
俺を待ち伏せしてるって感じはないんだけど何かある気がする。
しかも、多分俺たちにはその《《何か》》を隠そうとしてる。
踏み込んでもいいべきか?
「先輩? 俯いてどうしたんすか? もしかして体調が悪いとか?」
「いや、そんなことない。ちょっと考え事をね」
「そうですか。じゃあ私はそろそろ帰るので先輩も気を付けて帰ってくださいね! もう事故とかに遭ったらダメっすよ~」
「そのつもりだよ。七海さんも気を付けて」
そんなやり取りをして七海さんは足早に帰っていった。
七海さんに限って変なことは起こらないだろうけどあの子はどうも他人に頼らない節がある。
今までの環境を考えればそうなってしまっても無理はないと思うんだけどもう少し頼ってくれてもいいと思うんだが。
まあ、仕方ないことか。
本当に不味そうだったら介入しよう。
「っと、早く帰らないとみんなを待たせちまうな」
この後みんなで久遠さんにもらった家の内見がある。
俺も昨日もらった権利書類くらいしか見て無いから結構楽しみである。
◇
「「……」」
後藤さんの車に揺られること数十分。
車を降りて目に入ってきた光景に俺と美空は驚愕していた。
豪邸。
それも超が付くほどの大豪邸だった。
はぁえ~何この家?
絶対に億いってる。
こんなにすごい家を俺なんかがもらってもいいのか?
良すぎてなんかもう、言葉でないや。
「空? 美空ちゃん? どうしたのそんなに口を大きく開けて」
「いや、いやいやいや!? 大豪邸過ぎない? なにこれ、、、こんないいところに住んでもいいの???」
「そうですよ! こんなにいい家今まで生きてきて見たことないですよ!」
「確かに立派な家だけどそこまで驚く事かしら?」
そうだった。
この子と俺たちでは素で生活水準の格が違うんだった。
俺と美空が驚愕してるのに対して永遠は平然としている。
なんで俺たちが驚きまくっているのか理解していない様子だ。
「永遠さん恐れながらここは驚くべきところかと。確かに永遠さんにすれば何度も見たことがあるような家かもしれませんが普通に生活をされている方なら驚いてしかるべきものです」
「へ、そうなんですか?」
「ええ。私もこの家を見たときは多少驚きました。久遠様が所有してらっしゃる別荘クラスのものだったので」
久遠さんこんなにすごい豪邸をいくつも持ってるのか。
やっぱり格が違うな。
「では中を見に行きましょうか。空君鍵は持ってきていますよね?」
「あ、はい。持ってきてます」
ポケットから鍵を取り出して扉をあける。
中に広がるのはかなり広い廊下だった。
部屋はかなりの数があるし部屋一つ一つもかなり広い。
「すっげぇ」
「お兄お兄! すごいよこのキッチン! 全部IHだし冷蔵庫とかも最新のが揃ってるし!」
「この風呂もすごい広いぞ!? 一種の温泉みたいに広い!」
こんな感じで内見はずっと俺達が興奮しっぱなしだった。
ありえないくらいに良い家で快適に生活できそうだった。
「じゃあ、もう少ししたら引っ越そうかしら? そうね文化祭が終わるくらいの時期でどうかしら?」
「賛成です! というか一刻も早く住みたいです!」
「じゃあ、文化祭が終わり次第引っ越しってことでいい?」
「私はそれで構わないわよ」
「私も!」
というわけで引っ越しのめどが立った。
そんな俺たちの様子を後藤さんは微笑ましそうに見ているのだった。
◇
「全く最近はよく先輩に会うっすね。隠し通すのにも限界があるって言うのに」
毎回補習終りの先輩と出くわしてしまう。
先輩は鈍感だけど変なところで勘がいいからバレないか不安になる。
せっかく先輩たちは幸せな今を過ごせているのにわたしのせいでその生活に水を差したくない。
だから、私が我慢すればいいんだ。
バレないように。
それにバレたらきっと私は先輩たちに嫌われる。
軽蔑される。
そんなのは嫌だ。
あの先輩たちから冷ややかな目で見られるのだけは耐えられそうにない。
「いっ、全く陰湿なことしてくれるっすよね」
まあ、顔をやられないだけマシっすかね。
自分にも多少の落ち度はあるわけですし。
「はあ、こんなことになるなら学校なんて通うんじゃなかったっすね」
でも、この学校に通ったからこそ先輩方や美空さんに出会えたんすから一概に間違いとは言えないか。
「ははっ、我ながら弱くなったものっすね」
昔の私ならばこんなことにおびえる必要なんて全くなく切り捨てられたものを。
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