第107話 ファーストキス
「この目もう見えないのよね」
「ああ。完全に視力は失われてるらしい。移植できるかもしれないって言われたけど断ったよ」
「なんで?」
「これは記憶として残しておきたいから。あんな奴だったけど親友としての期間があったわけでそれを全部否定はできない。あいつが残したこの傷で俺は藤田悟という人間がいたことを忘れないようにしようと思って」
「なんだか空らしいわね」
永遠は左目の傷を撫でながらそういった。
俺らしいのだろうか?
それよりも永遠の柔らかい手の感触が直に伝わってきてなんだかぞわぞわする。
くすぐったいし。
でも、全然不快じゃない。
むしろ永遠にならもっと触ってほしいとすら思う。
「でも、この傷は私のせいで出来たようなものなのよ?」
「それ6ヶ月前から言ってたね。前も言ったけど永遠のせいじゃない。あれは悟が悪い。永遠の責任なんてこれっぽっちもない。だから自分を責めることだけはしないでくれ。永遠が悲しんでいる姿を俺は見たくない」
「……わかったわ。やっぱり空は優しいのね」
「そんなことない。これくらい普通だよ。俺はただ最愛の人に笑顔でいてほしいだけだから」
「空ってそういう事を恥ずかしげなく言うわよね。実際恥ずかしくないの?」
「……指摘されると恥かしくなるから指摘しないでもらえると嬉しいです」
「ふふっ変な空。そういう空も好きよ」
永遠に抱き着かれる。
入院してた時は全くハグとかしてなかったからこれも6ヶ月ぶりだったりするのだ。
結構ドキドキする。
「俺も永遠が大好きだ」
永遠をより強い力で抱きしめる。
暖かい。
永遠の心音を直で感じる。
すごく心地いい。
俺はやっぱり永遠が好きだな。
一緒にいて安心するしこうして抱きしめるとそれだけで幸せになれる。
「ねえ空」
「なに?」
「キス……してもいい?」
「……もちろん」
頬を赤らめながら上目づかいで見つめられてこんなお願いをされれば断れるわけない。
というか俺もすごくしたい。
この6ヶ月の間で愛が冷めるどころかより一層好きになった気がする。
顔を見れば心が躍るしそばにいてくれると安心する。
逆に離れていると不安になるし丸1日会えないだけで気が狂いそうになる。
最早依存だ。
でも、それでもいいのだと思う。
「じゃあ、目を瞑ってくれ。こういうのは俺からしたい」
「ふふっ、そういう所は男の子ね。もちろんいいわよ。はい」
永遠が目を瞑る。
これが俗にいうキス待ち顔というものなのだろうか?
可愛すぎてショック死しそう。
これを見ただけで生きててよかったと思える。
「……ん」
そして、自分の唇を永遠の唇に押し当てる。
ファーストキスの味は○○の味がしたとか言う表現を何度か創作で聞いたことがあるけど実際は味なんてしないのだと知った。
いやまあ、もう少し深いキスならするかもしれないけどファーストキスでそんなことをしだしたらドン引きだ。
「空にファーストキス奪われちゃった」
「安心してくれ俺も初めてだ」
キスがこんなにも幸せな気持ちになれる行為だなんて知らなかった。
世のカップルたちがこぞってキスをする理由が少しだけわかった気がする。
まあ、街中でしている連中に関しては全く理解を示すことはできないんだけども。
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