第106話 退院
あれから6ヶ月。
リハビリも順調に進み今日はやっと退院できる日だ。
足も腕も良く動く。
これで今までの不自由な入院生活ともおさらばだな。
とはいっても明日からは学校や補修地獄が待っているので少し気が重くはあるんだけど。
それに左目は失明したままだしな。
鏡には縦に傷が入った自分の瞼が写っている。
この目が開くことは一生ないらしい。
まあ、6ヶ月も経てば片目で過ごす事にも慣れたんだけども。
「よし。準備はこれくらいで良いな」
荷物をまとめて後は手続きをするだけ。
6ヶ月ぶりにあの家に帰れる。
長かったなぁ〜。
「そろそろ受験もあるし気合い入れていかないと!」
補修ももちろん大切だけど卒業できなければそもそも大学に行くことはできないしな。
今は九月終盤。
そろそろ推薦入試が始まってくる時間帯だ。
まあ、俺も永遠も国公立を受けるから推薦なんかないんだけどね。
「やっと退院ですか? 空君」
「はい。今日でやっと家に帰ることができますよ。帰ってからは受験勉強を頑張らないと」
「そうか。確か君は永遠さんと同じ大学を目指しているのだったかな?」
「はい。難しいかもしれないですけど頑張ります」
「そうか。頑張ってくれ」
後藤さんはそういって病室を後にした。
後藤さんがここに来たということは既に退院に関する手続きは終わっているのだろう。
であるとするならば俺もそろそろこの病室を去ることにしよう。
「あっ! お兄やっと出てきたね」
「美空。迎えに来てくれたのか?」
「当たり前だよ! 私はお兄の妹なんだからね! 永遠姉さんも来てるはずだけどさっき出てきた後藤さんと話してるみたい」
「そっか。ありがとうな」
あれからも二人は毎日お見舞いに来てくれた。
永遠はお見舞いに来るたびに勉強を教えてくれたし美空は起こったこととかを面白く教えてくれた。
それがすごくありがたかった。
病室に一人だとひどく孤独を感じてしまうから。
「いいって。お兄がこうして元気に退院してくれるだけで私は嬉しいからさ」
「じゃあ行こうか。俺もあの家に帰りたくて仕方ないんだ」
「だね。ちょうど永遠姉さんも話し終わったみたいだし」
「空! 迎えに来たわよ」
「ありがとう。やっと永遠と美空と家で過ごせるから嬉しいよ」
やっと帰れるのかと思うと胸が躍る。
「そうね。私も嬉しいわ」
「お二人ともこんなところでイチャイチャしないでくださいよ。早く帰りますよ」
「「……はい」」
美空に注意されてしまった。
なにぶん最近イチャイチャしてなかったからこういう所で押さえが効かなくなってしまう。
注意しなければ。
◇
「おかえり空」
「ただいま。なんかこういうの久しぶりだね」
「うん。実に6ヶ月ぶり。帰ってきたって感じする」
久しぶりに帰った家(永遠の部屋)は6ヶ月前とほとんど変わっていなかった。
ちょっと安心した。
「お兄おかえり!」
「ただいま美空。毎日お見舞いありがとな」
がしがしと頭を撫でる。
この年の兄妹はこう言ったことをあまりしないと聞いたけど俺たちは比較的スキンシップが多いような気がする。
「美空ちゃんばっかりズルい!」
「永遠もありがとな」
美空の頭を撫でていると永遠に小突かれたので永遠の頭も撫でる。
妹にまで張り合わなくても良いのではと思わなくもないけどこういうところがまた可愛いので俺としてはどんどん張り合って欲しい。
仲が悪くなるようなことはあって欲しくないんだけど。
「まあ、久しぶりにお兄が帰ってきたことですし2人でイチャイチャしたいと思うので私はここでお暇します! 仲良くしてくださいね〜」
そう言って美空は部屋を出て行った。
気を遣ってくれるのは6ヶ月経っても健在らしい。
「行っちゃったわね。これからどうする?」
「どうしようかな」
取り残された俺たちは少し頭を悩ませるのだった。
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