第105話 あの方の逆鱗
「さて、そろそろお芝居も終わりですかな? 柳夫妻」
「なんのことですか? 私たちがなにか芝居をしていると?」
「ははっここまで来てもまだ白を切るんですね。全くあなた方は救えない」
私は空君の事件後にとある場所を訪れていた。
永遠さんを狙った以上私もこいつらを放っておくことはできなかった。
それに空君は私の保護下にある子だ。
そんな彼を傷つけたのだから私は私の力をすべて使い黒幕を特定・処断しなけらばならない。
「あなたこそ一体誰なんですか? いきなり家まで訪ねてきてそんなことを言うなんて失礼ではないですか!」
「おっとこれは失礼。私の名前は後藤礼二。今は柳空君の未成年代理人をしているものです」
「…………あなたが」
「ええ。そして、あなた方が犯した罪を私は裁きに来ました」
これといって法律で裁ける問題があるかどうかはどうでもいい。
弁護士の私が言うのもなんですけど法では裁けない罪などいくらでもある。
「裁く? 私達が一体何をしたというのですか?」
「藤田悟に資金を提供し潜伏場所を提供し空君と永遠さんを殺そうとした。それがあなた達の罪ですよ」
「そんな証拠あるんですか?」
全くこいつらはまだしらばっくれる気か。
いい加減イライラしてきたな。
全く私もまだまだ未熟だな。
「状況を考えてみればわかることだろう? 空君の居場所をおおよそ把握できる人間や彼に私怨がある人物で資金にもある程度余裕のある人間。そんなのあなた方しかいないでしょう?」
「それだけで……」
「もういいですよ。あとで《《詳しく》》聞きますのでね」
指を鳴らして私はあらかじめ用意しておいた人員に二人を捕縛させる。
こいつらの弁明なんて興味が無い。
どうせ証拠もすぐに見つかるだろう。
「な、何をするんですか!」
「そうだ! こんなの横暴だろ!」
「知るか。お前たちは怒らせてはならないお方を怒らせてしまったのだ。その報いを受けるだけだ」
本当に怒らせてはいけないお方だ。
私ですらこいつらがどうなるのか予測ができない。
「では我々は指定の場所にこいつらを連れて行けばいいですか?」
「ええ。そのようにお願いします」
私の指示を聞き彼らは指定された場所に奴らを連れて行った。
これから奴らがどんな目に遭うのか。
考えるだけ無駄であることはわかっているのだが少しだけ気の毒だ。
「愚かな人たちですね。空君や永遠さんに手を出さなければ地獄を見ずに済んだでしょうに」
今更何を言ってももう遅いか。
これで主犯は死に黒幕は……今から死ぬかもな。
堀井瑠奈の件もかなり遠い精神病院に入れられてるしセキュリティも万全であるからもう脱走はできないだろう。
空君の人間関係の負の部分はこれでクリーンになった。
「あとは空君の回復を待つだけですね。彼にも今度礼を言いに行かなければ。永遠さんを助けてくれたのだからね」
私の仕事はひとまずこれで終わり。
あとは若者たちに任せるとしましょうかね。
◇
「そうか、空先輩の居場所をあらかじめ知っていてそれを藤田悟に伝えた人物がいる。そいつらが黒幕か!」
気が付いてしまった。
まだ黒幕がいる。
藤田悟に情報を与えた人物。
彼を匿ったり資金を提供した人物。
先輩たちに私怨がある人物。
「そうか。空先輩の両親か」
子供にそんなことをするのかと思わなくもないけどあいつらならやりかねない。
彼らは自身の子供よりも堀井瑠奈に愛情を向けていた。
そんな彼女を精神病院に入れ、自分たちの社会的地位を貶めた。
空先輩を殺そうとしたのか。
そして、空先輩の死を悲しむ両親という立場を演出できれば失った社会的地位も回復する。
「であれば辻褄も合う。早く抑えないと!」
でも、彼らの居場所はわかるけどどうやって捕まえればいい?
明確な罪と言えるものは存在していない。
居場所を提供したことも匿ったことも。
全ては彼が自分で行ったことだ。
彼らはそれに手を貸しただけ。
明確な証拠が無ければどうすることもできない。
いったいどうすればいいんだ。
「こんな時に電話?」
「もしもし? 杉浦さんですか?」
「はい。どうかしたんですか?」
「いえ、もしかしたら杉浦さんがたどり着くかもしれないと思いまして。あらかじめお話をしておこうと思いまして」
「はぁ? 一体何の話ですか?」
「黒幕の正体にあなたは気づいていますか?」
後藤さんはより一層声のトーンを下げて私に問いを投げる。
いつになく真剣な声であることからこの話がかなり重要な物であると即座に認識する。
「空先輩の両親ですか?」
「流石ですね。その通りです。あの人たちは私の方で対処しましたのでご安心を。これ以上あの人たちに関わらないでください。《《絶対に》》ね」
そう言われて私は理解してしまった。
今回はあの方が動いていると。
そして空先輩の両親はあの方の逆鱗に触れてしまったのだと。
これ以降干渉をしたら私も危ないと瞬時に理解する。触らぬ神に祟りなしとはまさに今のような状況なのだろう。
「わかりました」
「よろしい。では私はこれで失礼します。空くんの学校の事で教員の方達と話し合わないといけないのでね」
「了解です。では」
「ええ、また」
通話が切れた後私は自分の背中から冷や汗が流れている事に気がついた。
「ふぅ、先に教えてもらえてよかったっす」
後藤さんに教えてもらわなければ確実に私はこの件に首を突っ込んでいた。
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