第103話 奇跡
「と、、、わ?」
やっと目が開いた。
目に映るのは白い天井。
鼻をかすめる消毒液の独特のにおい。
全身に走る鋭い痛み。
視界に入るのは三人の女の子。
一人は俺の最愛の恋人。
もう一人は俺の妹。
最後の一人は最近知り合ったちょっと不思議な後輩だった。
「空! 目が覚めたのね!?」
「ん、ああ。そうみたいだな」
「お兄! よかった。本当によかったぁ」
「空先輩、信じてましたよ! 目覚めてくれて本当にうれしいです」
「なんだか、心配かけたみたいだな。すまない」
みんなの顔を見る限り相当に心配をかけてしまったらしい。
あんまり轢かれた時の記憶がない。
咄嗟に体を動かして永遠を車線上から動かしたのは覚えてるけどそれ以降は何の記憶もない。
ただ、誰かに何かを話しかけられてたような気がする。
意識が朦朧としていてよく思い出せない。
「そんなことはいいのよ! 空が目を覚ましてくれてよかったぁ」
「そうだよお兄! 目を覚ましてくれただけで全然いいよ! お帰りお兄」
「目が覚めてよかったっす。いろいろ聞きたいことはあるでしょうけど今はまず医者を呼んで検査してもらいましょうか」
「そうだな。今も全身が痛くて仕方ないんだ」
全身が痛い。
痛いなんてレベルじゃない。
寝ているだけで死んでしまいそうには体が痛かった。
「今医者の先生を呼んでくるんで待っててください」
「ありがとう。七海さん」
七海さんはそう言い残して足早に病室を後にしてしまった。
残った永遠と美空はずっと俺の左手を握っていた。
全身を見れる範囲で見ると両足と右腕が包帯か何かでぐるぐる巻きにされていた。
気が付かなかったけど左目も包帯か何かが巻かれていて左側半分があまり見えない。
◇
あれから七海さんが呼んできてくれた医者によって俺の体は今どのような状況なのかを聞かされた。
どうやらかなり危険な状態だったらしい。
左目は治ることがないらしいし全身は全治までリハビリを含めて6か月かかるらしい。
今から精密検査をして脳に異常がないかを確認するらしい。
これと言って俺がやることもないから指示通りに手順をこなして検査を終える。
数時間後に検査結果が出るらしいのでそれまで手持無沙汰になってしまった。
「検査は終わった?」
「うん。特に何かやったとかではないけどね。数時間で結果は出るらしいよ」
「そう。何もないといいわね」
「何もないでしょ。まあ、全身はボロボロだけどね」
今でも息をするだけで全身が軋むような痛みを感じる。
それでも、あの状況でよく生き残ったなと自分でも思う。
「ごめんなさい。私のせいで」
「永遠のせいじゃないだろ。無事でよかったよ」
「……ありがとう空」
七海さんから聞いたけど犯人は悟だったらしい。
しかし、逃亡中に死亡してしまったとのこと。
なんだかやるせない。
自分を陥れたやつとはいえ昔は親友だったのだ。
俺がもう少しあいつに気を使っていればこんなことにはならなかったのだろうか。
「……今更考えても仕方ないよな」
あいつはもう死んだ。
俺がどれだけ過去を悔やんでも今は変えられない。
のであれば考えるだけ無駄だ。
「何か言った?」
「いや、何でもないよ。それよりも学校はどうしようか。半年は入院しないといけないし」
これ、卒業できなくない?
勉強は病室でもできるけど半年も休んだら単位が足りなくなる気がする。
「そこらへんは学校側と相談しないといけないでしょうね。まあ、何とかしてもらえるように頑張ってみるわ」
「ありがとう。それとごめんね。当分一緒に帰れそうにない」
「そんなこと気にしなくていいわよ。空が生きていてくれただけで私は満足だから。これからも毎日来るからね」
「ありがとう。大好きだよ永遠」
「私も好きよ空」
永遠はそう言って俺に口づけをしてくれた。
俺はベッドの上で寝転んでいて身動きが取れなかったから驚いたけどそれよりもうれしいという感情が大きかった。
「じゃあ、またね」
頬を少し赤らめながら永遠は病室を後にした。
「なんかいろいろあったけど、生きててよかったな俺」
そんなことをふと思うのだった。
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