第102話 自分は誰だ?
何も感じない。
何も考えられない。
でも、何故だか帰らないといけない。
そんな強迫観念のようなものに駆られる。
だけど体は一切動かない。
そもそも体に感覚なんてない。
私が誰なのかも理解していない。
俺は誰だ?
僕は誰だ?
私は誰だ?
答えは出ない。
そもそもここはどこなんだ?
なぜ私の体は動かない?
ここに来るまでに一体何があった?
僕にはそれがわからない。
俺の体は何で何も感じない?
視覚も聴覚も嗅覚も触覚も味覚もすべてが機能していない。
何があればこんなことになる?
「…………………………ぉぉ」
誰かの鳴き声が聞こえる。
今になってなんで耳が聞こえるようになったのか。
そして、泣いているのは誰なのか。
「……………………………………………………ね」
誰かに手を握られる。
今度は触覚が戻った。
それと同時に全身に耐えがたい痛みが走る。
でも、もがくこともできない。
身体は動かない。
ただ、全身に痛みを感じるようになっただけ。
でも、左手だけが温かい。
落ち着く、安心する。
◇
思い出した。
《《俺》》は柳空だ。
確か、トラックに轢かれてそれから…………
以降記憶が無い。
つまり、この全身の痛みからして病院か?
身体は動かないってことは俺は昏睡してるのか?
ならばなぜこんなにも思考が働いているんだ?
そんなことはどうでもいい。
永遠は無事なんだろうか?
それだけが知りたい。
自分の生死なんかよりも。
◇
「今日も空は寝てるのね」
「そうみたいですね。お兄はお寝坊さんなんだから。もう二週間も経ったっていうのに」
「全くっすね。私達みたいな美少女に毎日お見舞いに来てもらいながら眠り続けるなんて全く罪な男ですね」
「それ、自分で言わないほうがいいよ七海ちゃん?」
「そうね。それは確かにそうかも」
私達は今日も空のお見舞いに来ていた。
これで二週間だ。
明日から私は学校が始まってしまう。
始業式だ。
少し前までは空と同じクラスになれるかどうかとわくわくしてたんだけど今は全くそんな気分になれない。
今は空が目覚めてくれるだけでいい。
「お兄もさすがにそろそろ起きてくれると思うんですけどねぇ~」
「空先輩っすから起きてくれそうっすよね。今までいろんな修羅場を経験しながらなんやかんや生還していますから」
「そうよね。空ならきっと目を覚ましてくれるわよね」
そうは言っても、もう二週間。
容体は安定したままだけど医者はいつ急変してもおかしくないといっていた。
早く目を覚ましてよ。
「んんん」
「え!? 空?」
「お兄!?」
「先輩!?」
私の不安をよそに目の前にいる空はほんの少しだけ動いた。
呼吸して胸が上下したとかそんなレベルの動きじゃない。
しっかり左腕が動いたのだ。
こんなの空が昏睡状態になってから初めてのことだった。
こんなことが起こると多少期待してしまう。
空が目を覚ますのではないかと。
「お願い起きて空。私はまだまだあなたと一緒にいたいしやりたいことだってあるの」
「お兄お願いだから起きて! 私を一人にしないで。お願いだから」
「先輩。私に友達を作ってくれた恩を私はまだ返せてません。だから起きてくださいっす」
どうか神様。
私は空が生きていてくれるなら他には何もいりませんからどうか空の目を覚まさせてください。
みんなで空の左手を握る。
そして、
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