第101話 一週間後
あれから一週間が経った。
空はまだ目を覚ましてくれない。
「ねぇ空。もう一週間だよ? 私を一人にしないでよ」
約束した。
空は私を何があっても一人にしないって。
目を覚ましてよ。
空がいなくなったら私はこれからどうやって生きていけばいいの?
「空、約束守ってよ。一人にしないって言ったじゃない」
空の手を握る。
暖かい。
普通に寝てると言われればそう見えなくもないくらいに普通に寝息を立てている。
でも、空は目を覚ましてくれない。
こんな状況がもう一週間だ。
医者の話によれば脳死ではないらしいからまだ希望はあるとのことだけど。
両脚は折れてるし右腕も骨折。
轢かれた際に左目にも傷を負って左目は失明状態。
肋骨も何本か折れて肺に刺さっていたらしい。
この状態で生きているのが不思議なほどだと医者は言っていた。
心臓が止まった時間が多少あったからもしかしたら脳に異常をきたしているかもしれないとも言われた。
それに、目が覚めても記憶が無かったり体のどこかが不自由になっている可能性もあると言われた。
それでも、空には生きていて欲しい。
記憶が無くなってしまってもまた新しい思い出を二人で作りたい。
歩けなくなっていても私がずっと寄り添いたい。
「だから、空お願いだから帰ってきてよ。空以外は何もいらないから。だから戻ってきてよぉぉ」
自然と涙が零れ落ちる。
毎日こうだ。
空が起きてくれなくて、泣く気なんてないのに自然と涙が目から零れ落ちてくる。
それでも空は目覚めてはくれない。
「ごめんね。いつも泣いてばかりで。また明日も来るから」
◇
「お兄は今日も起きてないんだね〜全くお寝坊さんなんだから」
お兄が眠り続けて一週間。
私は毎日お見舞いに来ていた。
永遠姉さんと一緒に来ることもあれば別々に来ることもある。
仲が悪くなったわけじゃなくて単純に予定が合わないとかそんな理由。
「お兄がいないと私は寂しいよ。朝も夜も今まで毎日話してり一緒にふざけたりしてたのにもう一週間もお話してないんだからさ。永遠姉さんも毎日泣いてる。でも、それを私に見せないようにしてる姿が痛々しくて見てられないよ。だから早く目を覚ましてねお兄」
お兄の手を握る。
触れられてこんなに近くにあるのにものすごく遠く感じる。
触れてるのに触れられていないような錯覚に襲われる。
穏やかな寝顔なのに私の心はぜんぜん穏やかじゃ無い。
いつこの心電図の波が線になるのかと不安で不安で仕方がない。
でも、それをお兄には見せられないから。
だから、私はいつもお見舞いに来る時は馬鹿みたいに明るく話しかける。
私にはそれくらいしか出来ないから。
「また来るよお兄。その時には目を覚ましてくれてると嬉しいな」
とびっきりの笑顔をお兄に見せて病室を後にした。
◇
「空先輩、いつまで寝てんすか」
病室のベッドの上には痛々しい先輩の姿があった。
今日初めてお見舞いに来たけどここまで酷い状態だなんて思ってなかった。
つくづく私の想定の甘さに呆れてしまう。
両脚と右腕にはギプスが取り付けられてて左目には包帯。
胸部も今は見えないけど何かしらが取り付けられてるはずだ。
4トントラックに轢かれて生きてるだけでも奇跡。
よく言った物だと思う。
「先輩。永遠先輩を助けるつもりならあなたが目覚めないと意味がないんすよ。あなたが眠ったままだと永遠先輩は絶対に救われない。あの人は自分自身を責め続けてしまう。だから、お願いっす。目を覚ましてください」
あの事件以降永遠先輩と美空さんはずっと自分を責めてる。
口には出していないけど見ていればわかる。
私だってそうだ。
もっと早く気づけていれば。
先輩たちが家を出るよりも早く。
そう考えなかった日はない。
「先輩を轢いた犯人はやっぱり藤田悟でした。彼はあの後単独で事故を起こして亡くなりましたよ」
犯人はすぐに特定された。
見つかった段階で彼は死んでいた。
運転を誤ったのかそれとも元々死ぬつもりだったのか。
今となってはわからないけど。
それでも、事の顛末は犯人の死亡だった。
良い終わりなのかはわからないけど。
少なくともこれで先輩を執拗に狙う輩はいなくなった。
そういう点では安心できるのかもしれない。
でも、もしこれで空先輩が目を覚まさなかったら私たちは誰を憎めば良いんだろうか。
こんなネガティブなことは考えたくないけどもしも。
もし、そうなってしまったらこの感情を私たちはどこに向ければ良いんだろう。
わからない。
本当に先輩が目覚めなかったら私たちはどうなってしまうのだろう。
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