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17 解決策

 そんな私の祝福の能力がとても気になるところで、私は気を失ってしまったらしい。


 らしいっていうか、私が祝福の能力を使いすぎてしまって色々と終わった安心感で気が抜けて……そのまま意識を失ってしまったからだ。


 唐突に気がついたのは、どこかの豪華な部屋だった。


「……ここは……」


「由真……気がつきました?」


「ジュリアス! あ。戻ってる……?」


 そうなのだ。すぐ傍に居たジュリアスは、イケオジに戻っていた。精悍な顔は渋さを増して……今この人と恋仲にあると思うと、なんだか照れくさい。


「そうなんです。回復して眠っている間に祝福の能力を使ってしまうと、どうなるのかわからなくて……というか、僕が由真と早く話したかっただけなんですけどね」


 ジュリアスは私に近づいておでこにキスをくれたので、お礼とばかりに唇にキスをしたら、すぐに若返った。彼はびっくりした表情になったけど、苦笑して離れた。


「やっぱり……こっちが好きだな。年齢経ても、もちろん素敵だけど……」


 ジュリアスは本当に素敵。別に顔が整っているとか、鍛えられた身体素敵とか、それは素敵すぎる中身に付く付加価値ではあるんだけど……同じ世代である方が嬉しいと思う気持ちがあるのも確か。


「ええ。見る目が全然違うので、僕もなんだか……複雑ではありますが」


 そんな彼の醸し出す甘い空気に、ずっと酔いしれていたい。


 けど、やっぱり気になってしまう。


 私に与えられた聖女の祝福について。


「あの……ジュリアス。私の祝福って、なんだったの? キスした物の時間を戻すって訳ではないって、どういうことなの?」


 私はなんだか不思議だった。だって、さっきキスしたら、ジュリアスが若返っているのは確かなんだし。


「ああ……そうですね。由真はそれを話す前に倒れてしまったんでした」


「ん? ちょっと待って。私ってどのくらい寝ていたの?」


 というか、この場所はよくよく考えたら王都にあるお城のような気がする! 私も救世の旅に出る前に滞在したから、なんとなく覚えている。


「二ヶ月半ですね……聖剣を元通りに戻したのですから、もっと長く眠ってしまうのではないかと僕は思っていましたが……」


「……え?」


 う、嘘でしょう! だって、私……帰って来る道中、ずっと眠っていたってこと?


「そうなんです。由真の祝福は聖なる力をキスした対象に宿す能力だったんです」


「聖なる力? けど」


「僕がこうして若返っている理由は、これが僕の体力や能力の全盛期の姿だからです。あの花もそうです。現に二回目キスしても蕾にはならなかったでしょう? 怪我が治ってしまうもそうです。力が注がれるので、その副作用とでも言いますか」


「……あ。確かに、あの枯れた花はそうだった」


 私は真面目な顔で語るジュリアスの言葉に何度も頷いた。


 確かにそうだ。だって、もしこの祝福の能力が何かの時間を戻すというのなら、蕾やはたまた種になってしまってもおかしくないもの。


「あの小箱は、きっと悪しき力に封印されていたのでしょう。だから、由真は昏睡しているかのように眠ってしまったんです」


「聖なる力で……かき消したから?」


 あの小箱は今思うと、黒く薄汚れていたようだった。けど、封印を解けば真新しい生木の小箱になっていた。もしかしたら、あの汚れが悪しき封印?


「そうです。そして、折れた聖剣が綺麗に修復されたことから、僕は確信を得ました。聖剣は普通なら折れるはずがないんですが、由真が僕にくれた指輪の守護者がとても強いようでして……」


 聖剣が折れてしまった顛末について、ジュリアスは言葉を濁した。彼だってあんなにまで世話をした王子様にあんな風に背中から狙われるだなんて、思ってもいなかったと思う。


「……あの、ごめんなさい。私もあんなことになるって思ってなくて」


 ジュリアスは最前線に行くしかないなら、少しでも護ってあげたくて……まさか聖剣が折れるだなんて、思ってなかった。


「いいえ。良いんですよ。こうして全部上手くいきました。ありがとう……由真」


 ジュリアスがこれでもかと甘い空気を出して来るので、私は嬉しいけど照れてしまって恥ずかしかった。


 この人と結婚出来るならこの世界に残りたいと言ったし、なんならプロポースだってしているのに、顔が良すぎて破壊力が凄い。


 嬉しいけど恥ずかしい。嬉しいけど逃げ出したい。けど、彼の近くに居たい。


 そんな不思議な気持ちがない交ぜになって、どうしようもない。


「あのっ……エセルバードは? あの人はどうなったんですか?」


「ああ。殿下なら、もう旅立ちましたよ……陛下も魔物との戦いでの振る舞いをご立腹で」


 そうでしょう! そうじゃないと、この国滅ぶと思うからそれはそれで良かった!


「エセルバードと会わなくて良いと思うと、本当に嬉しいです。けど……なんだか、勝ち逃げみたいですごく嫌です」


 これは私の正直な気持ちだった。


 だって、エセルバードって結局ジュリアスに全部おんぶに抱っこで本当に子どもだった。


 唯一の救いはというと、もう二度と関わらなくて良いってことくらい?


 私は気に入らないことを示すために、むうっと嫌な顔をしたけどジュリアスはそんな私を見て苦笑した。


「いえ。実は由真のおかげで、僕の汚名は晴らされてエセルバード殿下は実は……婿入りの話もなくなり、離宮へと追放されたんです」


「……え? 私のおかげ?」


 私のしたことって言えば、ジュリアスを若返らせて……恋仲になって……あ。折れた聖剣は元通りにしたよ。それは頑張ったかも。


 けど、それ以外で見当たらない……。


「ええ。由真は僕のためにこの世界に来てくれたんではないかと言うくらい……何もかも、救ってくれました」


「ジュリアス……もし、そうだったら嬉しいけど、なんでそんな事になったのか、簡単に教えてくれる?」


 私は謎だらけの今の状況が本当に良くわからなかった。


 だって、ジュリアスがエセルバードとその子を庇って司祭を殺害した罪をどういう風に私が晴らしたのかわからない。


「そうですよね……では、今から見せます」


「見せる……? え!」


 私はジュリアスが指輪をしている右手を上げて、ふわりとその上に半透明の存在が浮き出てとても驚いた。


 なんて言うか、言うならばランプの精のような……煙のような質感の、緑色の髭姿の男性。


「呼んだのか」


「ええ……いつも、ありがとうございます」


 ジュリアスは礼儀正しく髭姿の男性に礼をして、口をあんぐりと開けたままだった私に振り返り苦笑した。


「えっ? ……え? ジュリアス? ここここ……これって?」


「そうなんです。エセルバード殿下は、私のせいで聖剣が折れて……魔物退治に支障が出たと報告したところにこの方が……ええ。指輪の精霊だそうです。由真」


「私のあげた、指輪の精霊……? 嘘でしょう。嘘みたい。けど、ジュリアスを護ってくれてありがとうございます……」


「礼には及ばぬ。しかし、あの小僧……嘘ばかりつきおって……儂が剣を折ったのも、あいつが明確な敵意があったからだ! それをいけしゃあしゃあと自分は悪くない。このジュリアスが悪いと……精霊は嘘がつけぬから、あやつの父親も信じたわ」


 ……あー……もうなんだか色々ありすぎてびっくりしたけど、この指輪の精霊さんがジュリアスのことをエセルバードの嘘からも護ってくれたんだ。


 なんて強い護りの力なの。あのお店の店主さんにもお礼しに行かなきゃ。


 そして、指輪の精霊は私への説明の役目を終えて満足そうな表情で居なくなった。


 事態を把握した私が言葉を出せるようになるまで、しばしの時を要した。


「えっ……えっと、良かったけど……驚きすぎて、本当になんて言って良いかわからない」


「僕もそう思います……けど、ありがとう。由真。君がいなかったら、何もかもそのままだった」


 真面目なジュリアスは、今まで自分さえ我慢すれば良いって思って居たのかもしれない。


 うん。それは防げて良かったと思うけど……まさか斜め上過ぎるこんな解決策があったなんて、本当に驚き。


「……あ!」


「どうかしました?」


「私……私とキスをすると、そのたびに若返るのならキス出来なくなっちゃうと思ってたけど、これで何回もキスしても大丈夫かな?」


「どうでしょう? 試してみます?」


 そう言って楽しそうな表情をしたジュリアスの顔が近付いて来たので、私は何も言わずに瞼を閉じた。


Fin





最後まで読んでくださってありがとうございます。

もし良かったら評価を頂けましたら、幸いです。


それでは、また別の作品でもお会いできたら嬉しいです。


待鳥園子

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