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初めて見る女の子


 ソルタは、女の子と普通に話せるかを心配していた。

 村には子供と大人しかいなかった、ソルタから見てお姉さんと呼べるような世代すら居ないのだ。


 だから同世代の女の子との出会いは、何度も何度も空想した。

 本番で緊張するのか興奮するのかもわからないが、多分素敵なドキドキやわくわくになるのだろうと、期待していたのだ。


 だが出てきた少女を見ても至って冷静だった。

 かわいくない訳ではないが、生意気な目つきや低い鼻や黒っぽい眉毛などは妹達を思い出す。

 むしろちょっと意地悪したくなる。

 ぎゃあぎゃあとうるさい少女の頭をぺしんと叩きたい、そんな誘惑に駆られたがそれは我慢する。


「うるさいぞ、ちょっと静かにしなさい」

「なんですって! 誰に向かって、このっこの!」


 少し煽ると少女は激昂して右手を振り回した。

 その手のひらをギリギリの所で避けると、少女はますます怒る。

 これはかなり楽しい、猫や妹達と遊んでる感じだ。

 だが不安にもなってきた、自分は女の子を怒らせるのが好きな異常者なのではないかと。


「姫様、危のうございます。中へ!」


 声と同時に、馬車の天窓から身を乗り出していた少女が引きずり込まれた。

 代わって別の少女が出てくる。

 髪をきちっとまとめ、年の頃はソルタより少し上、服は黒が基調で若いのを除けば高級女官といった風格がある。

 右手にはナイフを逆手に構え、少女を守るつもりだとひと目で分かる。


「おのれ、何奴か。この馬車がエオステラ家のものと知っての狼藉か、返答次第ではただでは済まさぬぞ」


 発した言葉は堂々としたものだったが、手にしたナイフが微かに震えている。

 だがソルタは思い切り動揺した。


「あの、その……俺、いや僕は……」


 黒服の若い女性はソルタから視線を外さない。

 こみ上げる恥ずかしさに耐えきれず、先に目を逸したのはソルタの方。

 だが仕方ない、初めて会った同世代の女の子に見つめられたのだ、何をどうして良いのか思考が全くまとまらない。

 長兄のプライドを振り絞り、ギリギリのところで耐えたソルタは、目を伏せたままようやく絞り出した。


「ご、ごめんなさい、直ぐに馬車から降ります」


 せめてもう一度顔を見たいと思ったソルタだったが、黒い服を持ち上げる大きな胸に目が吸い寄せられて動きが止まってしまう。

 ソルタにとって人生で最初の挫折。

 それも格好付けて飛び降りた挙げ句に、女の子とまともに話せずに退散することになるとは。

 本気で泣きたくなるが我慢、妹達には見られなくて良かったと後ろ向きの思考がぐるぐると頭の中を回る。

 しかもそこに、最初の少女まで参戦してきた。


「ちょっと!!! あんたね、私の時と態度が違い過ぎるんじゃない!? 確かにミリシャは美人よ、けど私だって負けたものじゃないでしょ! ねえ、そんなに負けてる? 誰か何とか言いなさいよ!」

「ドラゴンとワームくらい違うな」

「はぁ? ってだから何でそんなに態度が違うのよ! ムカつく、ムカつくわ! このっ!」


 不思議と、うるさい方の少女には普通の対応が出来た。


「姫様、危ないですから、手を出さないで下さいませ」

「だってこいつがっ! なんで当たらないのよ!」

「それにこの方、悪い人ではないのでは?」

「んん、ミリシャっ!? 意識されたからって余裕出してんじゃないわよ! こいつは絶対に悪人よ! ちょっとあんた達、うちの騎士でしょ! 槍で突き落としなさい!」


 顔を真っ赤にして怒る少女に、馬車の側に居た年長の騎士が言葉で応えた。


「少年、すまないが馬車から降りてくれないかね。そこに居られると、我らも緊張してしまう。ますますね」


 すくっと立ち上がり、天窓からは離れ、ソルタは周囲の気配を探る。

 死の魔王が造った道の両側、濃い森の中に強い魔力が幾つかある。

 まず間違いなく魔獣のものだ。


「もう囲まれてるね」

「そうだ。昼頃からかな、姿も見せぬよ。困ったものだ」


 答えた年長の騎士は、値踏みをするようにソルタを見つめている。

 馬車の集団は魔獣に追われ、この場所で防御陣をひいた、先行していた人員も呼び戻してだ。

 陣形の中心は姫様と呼ばれた少女、騎兵だけでも二十四、歩卒は四十人以上。

 

 少しソルタは考える。

 村人にとっては脅威となる軍勢だった、敵対すればだが。

 装備が良いし、なによりも統率されている。

 二十騎もあれば、オーク族はともかく、ゴブリン族なら百でも蹴散らすだろう。


 ただし村には長老がいる。

 あの竜は、小さい頃から遊んでもらってるので知っているが、剣と槍で倒せるような存在ではない。

 ソルタは決断した、隠し事をするよりも手札をバラそうと。


「敵に回すつもりはない、姫様にも手を出さないよ。ところで実は、僕の両親はエオステラって国の出身なんだけど。この姫様とやらの家と何か関係ある?」

「ほぅ……それは……」


 年長の騎士も、周りで聞き耳を立てながら森への警戒を絶やさぬ者達も、興味を持ったようだ。


「少年、君とご両親の名前を聞かせてもらえるかね?」

「父の名はギガガイガ・ガンタルド。産みの母はレアーレイ・エーテル。授かった名前はソルタ、今年で15歳だよ」


 ざわっとした空気が広がり、騎士達の視線が一斉にソルタに注がれた。

 魔獣への警戒はいいのかと言いたい。


「勇者ガンタルドと大聖女レアー様の、息子だと……」

 ある騎士の独り言が、やけに大きく響いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] おおーー! やはり最強の血統ですな! 手の平返しくるのか!?
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