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実はもう第二部


 生まれ出自を隠しても裏目に出ると、ソルタはしっかりと学んでいた。

 言わずに問題が起きた後で、実は……なんて明かすべきではない。


「そうだよ、勇者謹製の男の子だ。名前はソルタで母はレアーレイ、今回はテティシア母さんに頼まれて来た。あと、後ろの二人は妹だから手出しでもしようとすると玉を潰すぞ、寄るな触るな話しかけるな」


 ソルタは思いつく限りで完璧な自己紹介をする。

 三十日余りに渡ったむさ苦しい軍隊の中で揉まれた経験が生きていた。

 親父の名前の威力は絶大で、歴戦の猛者が揃う軍中でさえ一目置かれ、冒険者の間でならばさらに効果があるだろうと思ったのだが。


「おい、どけ。ほぉ……勇者の息子ねぇ」

「どれどれ、今度は本物かな」

「確かめてやらねえとな。勇者本人に弟や親族は年に三人はやってくるんだ、息子は5人目だったかな?」


 腰を振っていた冒険者は引っ込んだが、奥から強そうな連中が出てきた。

 何処で強い弱いを見分けるかと言えば、気配や身のこなしや魔力量などもあるが、なんと言ってもまずは装備。

 魔法の武具は高価で、買うのには実力が要る。

 稼いで装備に投資してを繰り返して人の戦士は強くなる、ソルタのように妹が無料で最強クラスの聖剣をくれるなんて稀だ。

 値踏みしていたソルタの裾をアキュリィが引く、振り返った妹の顔は少しだけ怒っていた。


「ねえ、なんでお兄様は直ぐに喧嘩を売るの?」

「売ってないだろ、今のは普通だ」

「だとしても、お兄様はまだ若いんだから。自分の子供のような少年に大口叩かれると、普通はカチンとくるでしょ?」

「うっ……」


 最近のアキュリィは大人だ。

 3人の妹が出現し、しかもフィーナと同居するようになり、急激に姉としての自覚が芽生えたらしい。

 わがままなどは全く無くなり、何をするにも侍女任せから脱却して、むしろ慣れないフィーナの手本になれるように何事も自分が率先してこなす。

 城中での評判は天井知らず、昔からの女官は姫様がしっかり者になってと泣くほどだそうだ。


「ほー、こっちのお嬢ちゃんは礼儀が出来てるな」


 冒険者の一人が褒めたがアキュリィはそちらを僅かに見ただけ、紹介もされていない男性と口をきくような教育は受けていないのだ。

 だが超然とした態度に、冒険者らの方が違和感を持った様子。


「おい……」

「ああ、分かってる。どこぞのお嬢様に稀なエルフか」

「伝説通りの組み合わせだな。あとは魔族と吸血鬼だっけ?」


 ソルタは直ぐに反応する、こんなとこで実力を確かめてやると戦うなんて面倒でしかない。


「アルプズ、カーボン。出てきておくれ」


 黒い指輪から悪魔が湧き出て、ソルタの影からは黒猫が現れた。


「悪魔と、こっちは吸血鬼の使い魔だ。あとは俺の実力だけど、試してみるかい?」

「また挑発するようなことを言う!」

「怒るな、妹。この方が話が早いんだよ」

「話すより殴った方が早いだけでしょ!?」


 なんとも調子が出ない、堂々とソルタを諌めるアキュリィに合わせてフィーナまで首を振って同意している。

 ソルタは冒険者達に少し待っててと言いおいて、妹の方に向き直った。


「妹のくせに生意気だぞ」

「兄だからって何でも通ると思わないで。それに今は私も15歳、お兄様と同い年よ。言うべきことはちゃんと言うから」

「そうよそうよ、お姉様の言うとおりよ。お兄ちゃんは何時も人の話を聞かないから」


 二人がかりはずるい。

 もう口では妹に敵わない、かと言ってこんな事で手をあげるほどソルタも子供ではない。

 敗戦濃厚になり妹に白旗をあげるくらいならと、冒険者達に交渉を申し込んだ。


「あの、すいません。何とか話し合いで納得してもらえませんか?」

「あ、ああ、いや俺たちも悪かったよ。そうだな、うん、いきなり疑って悪かったな。ほら暖かいミルクでも飲んで元気だせよ!」


 同情されたソルタは小さな円卓を一つ空けてもらった。

 冒険者の奢りで、近場で飼っているヤギのミルクが出てくる。

 飲んでも良いかと妹達が目で聞くので一応は魔法で検査するが、魔法がかけてあったり鉱物が混ざってたりはなく、鼻に近づけても新鮮な良い香りがした。

 少し口に含むと搾りたてなのかとても美味で、ソルタの様子を見てから妹達も飲み始めた。

 家の外でのことはまだまだ兄頼りの妹達を見て、ソルタは少しだけ安心した。


 ソルタ達を受け入れた冒険者達は、今度の勇者の関係者は本物かどうか賭けを始めていた。

 どうやら『本物』が有利な状況で、見るからに異質なアルプズが影響を与えているようだった。

 ソルタの左後ろに執事のように寄り添う悪魔はそれなりに強い。


 魔族の世界で全ての戦力を100万とすれば、サキュバスとインキュバスは10万8000くらいの中堅だそうだ。

 その内の10万が母エリュシアナが占め、残りの7千を側近の五体の悪魔が分け合い、アルプズはその中の一体。

 通常、人間界に現れる悪魔は1にも満たないというから相当なもの。


「若様、来ました。あの男でしょうな、この中では破格の手練です。お気を付け下さい」


 ソルタはエロピダスという男に会いに来た。

 親父の昔の仲間というので楽しみにしていたし、実力者だろうとも予想していた。

 店の奥から小走りでやってくる男は、背が高いが細身。


「ちょっとごめんなさいね」


 沢山のテーブルの中をするすると抜けてやってきたエロピダスは、人差し指を顎に当てると腰をくねらせた。


「あらー、ほんとにほんとねっ! あたしからガンちゃんを奪ったムカつく女どもにそっくりな顔が三つもあるわ! けど安心してね、子供に罪はないわよ! あら申し遅れたわね、ここの店主でダンジョンに集まるクズどものまとめ役、エロピダスよん。貴方達のお父さんには本当に世話になったから何でも言ってちょうだい。今でも良い思い出よお……あたしは最後まで付いていけなかったけどね……」


 突然のマダム口調に妹二人が目をまん丸にして硬直したお陰で、ソルタはぎりぎりの冷静を保もつ。

 それにこのタイプに悪い人は居ないとも直感で分かった。

 椅子を引き、エロピダスの前に立つと、ソルタは挨拶しようとした。


「あらー! 信じられない! ガンちゃんにも似てるけど、ずっといい男ね。悔しいけどレアー似かしら。知ってるわソルタでしょ。ハグ、ハグしていいかしら?」


 返事も聞かずにぎゅっと抱きしめられた。

 言動に合わず力は強く遠慮ないものだったが、エロピダスはうっすらと涙を浮かべていた。


「大きいのね、それにとっても強いわ。あたしなんかよりもずっと……出会った頃のガンちゃんみたい」

「あの……父ちゃんと会ったのはいつ頃?」

「ガンちゃんが、15になるかならないかくらいよ。あたしが最初の仲間よ。その話は後でしてあげる、さあそっちの二人も顔を見せてくれる? 平気よあたしは怪しいけど危険はないわ。ここではマダムで通ってるから、エロちゃんでも好きな方で呼んでね」


 店の奥へ案内されながらソルタは尋ねた。


「エロピダスさん……マダム?」

「なあに?」

「ダンジョンに大物が出たって聞いたけど」

「そうなのよ、ちょっと厄介なの。たぶん悪魔、いや名持ちの魔族ね。テテちゃんなら余裕で勝てると思うけど、貴方を寄越してくれるとは思わなかったわ。後でお礼のお手紙を書かないと、それよりもお腹空いてない? 寒かったでしょ? ここではあたしをママだと思って何でも言ってね!」


 未だ衝撃から覚めない妹二人は無言でこくこくと首を振り、ソルタはその様子を見ながら親父の守備範囲の広さに呆れていた。

第二部は魔族編とエルフの里編

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― 新着の感想 ―
[一言]  いい人そうだけど、読んでて混乱したよ おねえなの!びっくりですよ!!エロちゃん怖いw 次回も楽しみです!
[良い点] 勇者の仲間がみんな最後までついてこられるほどの英雄になれるとは限らないですよね、ちょっと切ない 細身で背が高くて父の守備範囲ならもしかしてよくある露出過多網タイツの髭ヅラマッチョでは無くガ…
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