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3-33.艶姿

 ファッションビルに辿り着いた遥達は、短いスカート丈を得るべく、沙穂の先導で女子高生向けのスクールファッションアイテムが売られているショップへとやって来ていた。

 スクールファッションと一口に言っても、売られている物は多種多様で、カーディガンやベストに始まり、リボンやネクタイ等の小物類、果ては制服そのものまでと実に幅広い。ラインナップだけ聞くと制服用品店の様ではあるが、当然ファッションと付くからには、お堅い学校指定の物よりも幾分と華やいだデザインの物が取り揃えられている。

「こんなお店あるんだねぇ」

 制服の女子高生を飾る事に特化したショップ内を一望した遥は、今まで知る事の無かった新しい世界を目の当たりにした気分で一人感心頻りだ。

「スカートベルトは確か…」

 沙穂の方は何度かこのショップを訪れた事があるのか、比較的慣れた様子で目的の物を求めて迷いなく店内を進んでゆく。

「あったあった、これね」

 そう言って一つの棚の前で足を止めた沙穂が手に取ったのは、両端にリング状の金属製留め具が付いた黒い布ゴム製のベルトだった。

「これがスカートベルト?」

 言ってしまえばそれは唯のベルトにしか見えず、遥は少しばかり拍子抜けした気分で小首を傾げさせる。スカートを短くする道具と言うからには、何かそれは特別な物なのだろうと、遥はそう思っていたのだ。

「ねぇ、ヒナちゃん、これでどうやってスカート短くするの…?」

 楓が遥同様に今一つピンと来ていない様子で問い掛けると、沙穂は少しばかり得意げな顔になって手招きをする。

「ミナ、ちょっとこっち来て。やったげるから」

 楓が招きに応じて素直に傍まで歩み寄ると、沙穂は早速実践して見せるべく、それに取り掛かった。

「カナ、ミナのブレザー持ってて」

 沙穂は楓のブレザーを脱がすと、それを一旦遥へと預けて、いよいよ本題とも言えるスカートへと手を掛ける。

「まずは腰の部分を内側に折って…、で…良い感じの長さまで上にあげて調整したらベルトで位置を固定して…」

 口頭で解説を加えながら、沙穂は実に手際よく作業を進めてゆき、楓のスカート丈はあっという間に腿がしっかりと露出する短さだ。

「仕上げにプリーツを整えて…、後はベルトが見えない様にブレザーで腰回りを隠せば…、はいっ、完成!」

 最後に沙穂は遥に預けていたブレザーを楓に着せ、前側でしっかりとボタンを閉じてその作業を完了とした。

「うん、良い感じじゃない? ほらミナ、どう?」

 沙穂は少しだけその出来栄えを誇らしげにしながら、自身でも確認してもらうべく、傍に有った姿見の前まで楓を誘導する。

「わぁ…」

 鏡に映った自分の姿を認めた楓は感嘆を洩らしながらも、直ぐに何やら落ち着かない様子で視線を泳がせ、不安げな顔で遥と沙穂の方へと向き直って来た。

「ワタシ…変じゃないかな…?」

 楓が自信の無い様子で問い掛けて来ると、遥はそれに笑顔を送って何ら問題が無い事を示して見せる。

「大丈夫、ちゃんと今時の女子高生っぽいよ?」

 スカートの丈を短くしたそれだけの事ではあるが、実際に楓は今までの地味な印象から一転して随分とあか抜けた雰囲気だ。

「うん、普通にイケてるって」

 遥に続いて沙穂も肯定的な言葉を述べると、楓はようやく安心したのか、心底ほっとした笑顔になった。

「よかったぁ…」

 大人しく控えめな性格である楓にとって、スカートを短くするという行為は思いのほか冒険に満ちた体験だった様だ。そんな楓の様子を目の当たりにした遥は、自分も負けてはいられないと、ここで意気込みを新たにする。

「ボクも試してみたい!」

 少し伸びあがりながら遥が手を挙げて元気良く次は自分の番である事を申告すると、沙穂はうっすらと笑って頷きを見せた。

「オッケー、そんじゃ、一旦ブレザー脱いで」

 遥がそれに従ってブレザーのボタンをはずしている間に、沙穂は先程の棚から新たにもう一本ベルトを手にして戻って来る。

「ミナ、ボクのブレザー持ってて」

 遥は楓に自分の上着を託すと、いよいよそのスカートを短くすべく、ベルトを手にした沙穂と対峙した。

「そんじゃ、着けてみるから」

 沙穂が実践して見せるべく腰に腕を回してくると、遥は俄かに緊張してその身を固くする。遥にとっても短いスカートは楓と同様かもしくはそれ以上の冒険だ。足が露出した格好という観点からいけば、それは恐らく男子高校生だった頃の体育以来になるだろう。人前に生足を晒すことそれ自体には別段抵抗は無いのだが、ミニスカートという経験した事の無い装いを前にして些か緊張せずには居られない。

「腰の部分を内側に折って…それから上にあげて長さを―」

 楓の時と同様口頭での解説付きで遥のスカート丈を調整していた沙穂であったが、その途中で不意にピタリと動きが止まった。

「どうしたの?」

 不思議に思った遥が何事かと思って問い掛けると、それに反応してゆっくりと顔を上げた沙穂は眉を潜めて怪訝そうな表情を覗かせる。

「カナ、ちょっとゴメン」

 沙穂はそう言うや否や遥のスカートの裾を掴み、それをいきなり足の付け根辺りまで一気にたくし上げた。

「ふぇっ…!?」

 余りにも唐突だった沙穂の行動に、愕然となった遥は素っ頓狂な声を上げて目を白黒とさせる。幸いスカートはギリギリ下着が見えない位置に留められてはいるが、そうは言っても相当に危ういラインで、少しでも動けばそれも保証の限りではない。いくら遥がスカートの中を覗かれても普通の女の子の様に恥じらったりはしないと言っても、それは時と場合に依るという物だ。ファッションビルの一角にあるショップ内という人目のある場所で、ここまで大っぴらにとなると、流石にそれは勘弁して欲しいシチュエーションである。

「ヒナ、やめてー!」

 一瞬呆気に取られてしまっていた遥は我に返って抵抗を試みようとしたがしかし、下手に動けばそれこそ大惨事は免れず、抗議の声を上げるのが関の山だ。

「ヒナちゃん! なにして―」

 見兼ねた楓が代わって沙穂の奇行を諫めようとするも、その腕を解こうとした所で何かに気付き、眼鏡の奥で瞳を大きく見開いて、そのまま停止してしまった。

「…か、カナちゃん…!」

 一瞬の硬直を経て、楓は何やら慄いた様子になって一歩二歩と後退る。

「えっ? えっ?」

 遥が羞恥心と戦いながら只ひたすら困惑していると、ここでようやく沙穂はスカートから手を放して神妙な面持ちになった。

「あんた、ソレ…」

 若干掠れた声でそう言った沙穂は、若干震える手つきで遥の足元辺りを指し示す。

「えっ…?」

 遥が示されたまま沙穂の指差さす方を目で追ってゆけば、当然そこにあるのは自分自身の足以外の何物でも無い。

「なに…? ボクの足がどうかしたの…?」

 今の身体で目覚めた当初は、こんな小さなものが本当に自分の足なのだろうかと疑いもしたが、今ではそれもすっかりと見慣れたもので、別段変わった所がある様には思えない。楓が一体何に慄き、沙穂が一体何を尋ねてきているのか、遥には全くもってさっぱりだった。

「カナ!」

 遥が何のことかわからず唯々戸惑っていると、沙穂は改めて大きな動作で遥の足をビシッと指し示す。

「あんたそれハイソックスかと思ったら、ニーソじゃない!」

 少々語気を荒げた沙穂の明確な指摘によって、遥はやっと何の事を言われているのかを理解した。沙穂が指していたのは足ではなく、足首辺り、もっと言えばそれを覆っているソックスの事だったのだ。

「あー…うん」

 確かに遥は沙穂が指摘した通り腿の半ばあたりまで長さのあるニーハイソックス、厳密に言えばサイハイソックスを着用していた。沙穂は遥のスカートを短く調整しようとした際に、一向に素足の部分が見えてこない事を不審に思い、その真相を確かめるべく先程の犯行に及んだという事らしい。

 一先ず事の次第は呑み込めた遥ではあるが、ニーハイソックスの一体何が問題なのかは今一つ判然としなかった。

「これ、いつも履いてるやつだよ…?」

 遥は小首を傾げさせながら、それは普段から着用している何ら特別な物では無い事を申告する。実の所、遥がニーハイソックスを着用するようになったのは、今の身体になってから割と早い段階での事だ。尤も、遥は普段長いスカートを穿いているせいもあって、その事実を知っている物は極めて少ない。知っているのは遥の家族と、遥の部屋で脱ぎ捨ててあったそれを見た事がある賢治くらいの物だろう。

「いつもって…、あんた…それなのに何でそんなスカート長いのよ…」

 沙穂が心底呆れた様子で溜息交じりにそんな事を言うと、楓もそれに同調して身を乗り出して来る。

「カナちゃん…! ニーソなら断然ミニスカートだよ! 絶対領域だよ!」

 楓は妙に力の籠った様子で熱弁してくるものの、そんな認識の全くなかった遥は唯々戸惑うばかりだ。

「えっ…、そうなの? 絶対…何?」

 絶対領域というサブカル用語は遥にとって初めて耳にする言葉で、それの意味するところがよく分からずに小首を傾げさせる。

「っていうか…そもそも、何でニーソなんて履いてる訳…?」

 沙穂は引き続きの呆れ顔でニーソックスを着用していた理由について問い掛けて来たが、これに関してなら遥の答えは実に単純明快だった。

「スカートってなんかスースーするから、脚が心許なくって…」

 密かなお洒落、等では無く完全に実用方面へと振り切れていたその解答に、沙穂は益々持って呆れ返った顔で大きく溜息を付く。

「そんな理由でニーソ履いてる女子高生、日本であんたくらいよ…」

 流石にそれは大げさなのではないかと思う遥であるが、楓の方は沙穂と同意見の様で些か興奮した様子で再び身を乗り出して来た。

「絶対領域のないニーソなんてニーソじゃないよ! ニーソの履き腐れだよ!」

 楓は手にしていた遥のブレザーを振り回さんばかりで、遥もその勢いに圧されて、ついつい何となく悪い事をしていたような気がしてきてしまう。

「あ…うん…ごめん…、あの…だから今からスカート短くするから…ね?」

 遥が謝りつつそもそもの目的を口にすると、沙穂と楓もそれを思い出したのか、共に咳払いをして一端の平静を取り戻した。

「そうだったね…。じゃ、改めてって事で…」

 気を取り直した沙穂は、ニーソ事件によって一時中断されていた作業を再開すべく再び遥のスカートに手を掛ける。先程思いっ切りスカートをたくし上げられたせいで、遥は一層身構えてしまうが、その必要も無く沙穂は必要な事だけを手早く成し遂げてくれた。

「ミナ、カナの上着ちょうだい」

 仕上げに沙穂が楓からブレザーを受け取ってそれを遥に着せればこれにて完了、今時女子高生スタイルの遥が出来上がりだ。

「うん、良いんじゃない?」

 出来上がった遥の全身像を眺めて沙穂が満足げにすると、楓も勢いよく頷き力強い肯定を示す。

「やっぱりこうじゃないと! ミニスカートとニーソの間に出来る絶対領域! カナちゃん完璧だよ!」

 サムズアップして実に良い笑顔を見せる楓に、遥は曖昧な笑顔を返しつつ、自分でもその仕上がり具合を確認すべく、傍に有った姿見に向かい合った。

「おー…!」

 ミニスカート初体験の遥は、その穿き心地には少し戸惑いながらも、見た目に関して言えば中々どうして満更でも無い。楓の時もスカートが短くなるだけで随分とあか抜けた雰囲気になっていたが、自分に置き換わってもその効果は覿面といった感じだ。

 特に遥の場合は元々愛らしいその容姿と、楓が言う所の絶対領域が生み出すフェチズム的な要素も相まって、その効果は本人の思っている以上である。単にあか抜けたというだけにとどまらず、今までとはまた違った魅惑的な愛くるしさを開花させていた。

「あっ、そうだ!」

 自分の新生スタイルをひとしきり眺め終えた遥は、ふとある事を思いついてブレザーのポケットに収められていたスマホを引っ張り出す。

「ねぇ、写メ撮って! 賢治に送るから!」

 この姿であればもしかしたら、賢治も自分をより女の子として意識してくれるのではないだろうかと、遥はそんな事を考え付いたのだ。

「そういう事なら任せて!」

 その提案に嬉々とした顔になった楓は、遥からスマホを受け取って、快く撮影役を引き受ける。

「あっ、何かポーズとった方が良い?」

 普段あまり写真を撮られ慣れていない遥は、どんな感じでそれに挑めばいいのかと少し迷ってしまったが、これに対してはすかさず沙穂からの指導が入った。

「カナ、こんな感じに顔のそばでピースしてみて」

 沙穂が実演してみせてくれると、遥もそれに倣ってピースサインを構えて見せる。

「それじゃぁ、撮るよー!」

 楓は掛け声とともに撮影ボタンをタップし、ミニスカートで所謂ギャルピースをする遥の艶姿をバッチリとスマホに記録した。

「ありがとー」

 遥はお礼を言ってスマホを受け取ろうとしたがしかし、楓は一枚だけにはとどまらず、カメラマンさながらにスマホを構えて尚も撮影を続行する。

「いいよー、カナちゃん、いいよー!」

 少しずつ写す角度を変えてゆく楓は、何か変なスイッチでも入ったのか、遂にはローアングルからの撮影を敢行しだす始末だ。

「ちょっ、ミナ!」

 これには流石の遥も堪らずスカートの裾を抑えて一歩身を引くが、その姿すらも楓は逃さず次々と写真に収めてゆく。自分から頼んだ手前、遥が強くそれを拒めないでいると、流石に見兼ねた沙穂が二人の間へと割って入った。

「ミナ、その辺にしときなさい…」

 楓の前に立ちふさがった沙穂はそれ以上許さないとばかりに、素早くその手からスマホを取り上げる。

「ったく、調子に乗りすぎ」

 沙穂が呆れ顔で溜息交じりに嗜めると、楓はペロリと舌を出して少しだけ気恥ずかしそうに笑った。

「カナちゃんが可愛くってついつい…」

 そう言いつつも別段悪びれた様子は無い楓に、沙穂は苦笑しながら先程取り上げたスマホを遥の方へと手渡して来る。

「変なのあったら消しちゃいなよ」

 その言い様に遥は若干苦笑いを返しながらも、受け取ったスマホを操作して早速楓が撮影してくれた写真のチェックを開始した。

「あー…うん、意外とちゃんと撮れてる…。ありがとね」

 中にはそれなりにきわどい感じの物もあったが、全体で言えば存外に良く撮れている。様子は少々アレであったが、楓の意外な撮影技術の高さには遥も思わず感心だ。

「うーん…、どれを送ろうかなぁ…」

 一先ずちゃんと自分の艶姿は収められている様なので、後はその中から適当な物を選んで賢治へと送るだけだが、思いの他枚数が多くその選定は中々に難しい。

「これが良いよ! すごくかわいい! 自信作です!」

 写真選びに迷っていた遥のスマホを覗き込んできた楓は、渾身の一枚と称して一つのサムネイルをタップしてそれを画面にと表示させる。楓が選んだその写真は、遥がスカートの裾を抑えながらカメラから逃れようと身をよじっている所をローアングルからとらえた、ちょっとばかり危うい一枚だった。

「流石にコレは無いでしょ…」

 楓と共にスマホを覗き込んできていた沙穂は、そのきわどい一枚を下にスワイプさせてサムネへと戻し、あっさりとそれを却下する。

「まぁ…無難にこの辺りじゃない?」

 代わって沙穂が選び出した一枚は、おそらく楓がまだ冷静だった最初の頃に撮影した物で、ギャルピースを決めた遥の全身が正面からしっかりと写っている物だった。

「うん、これが良いかな」

 沙穂の選んだその一枚が過不足ない物である事を認めた遥は、早速それを賢治に送るべく若干たどたどしい指使いでスマホを操作する。

『ドヤッ!』

 そんな短い一言を共に添えて、遥は始めて見せるであろう自分のミニスカート姿を、賢治に可愛いと思ってもらえればという密やかな願いと共に送信した。

「さっきの写真も萌えポイント高くてよかったと思うんだけどなぁ…」

 楓は自分の選んだ写真が採用されなかった事に不満を漏らすが、その感覚を理解しかねた遥は曖昧な笑みを返すばかりである。

「さて、彼は何て言うかしらねー」

 沙穂がニンマリとした笑顔でそんな事を口にすると、遥もどんな反応が返って来るのかあれこれ想像して急にドキドキとしだした。

「きっと可愛いって言ってくれるよ!」

 ガッツポーズを見せる楓の言葉に遥は小さく頷きを返しながら、そうでありますようにと祈りを込めてスマホをぎゅっと握りしめる。

「とりあえず、買い物しながら反応を待ちますかー」

 本来の目的であるショッピングを、返事が来るまでの間も並行させようというこの提案には当然遥と楓も異論はない。

「じゃあ、これ買ってきちゃうから、そしたらヒナの見たがってた夏服見に行こ!」

 遥が購入する為に一旦外ベルトを外してレジへと向かってゆくと、楓も同様にしてその後に追従する。

「ワタシも買って来るー」

 それから程なく、並んで会計を済ませた二人は沙穂の元へと戻り、合流した三人は大本の目的であるファッションビル内での夏服チェックを本格的に開始させた。

 この間、賢治からの返信を今か今かと心待ちにする遥が、一人で妙にソワソワとした様子だったのは敢えて言うまでもない。

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