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4-37.ウスユキソウの見る夢

 一面に広がる田園風景、今どき珍しい未舗装のあぜ道、点々と見える昔ながらの瓦屋根、僅かに視線を上げて望めば雄大に峰を連ねる緑深い山々。

「なんという…ド田舎だ…」

 どこかの誰かとは違って、オブラートに包む事の無い実に率直な感想を述べたその男は、降り立ったばかりの古びたバス停の脇で軽微な眩暈を覚えずにはいられなかった。

「まさかここまでとは…、大丈夫…なのか…?」

 目的あってここまでやって来ていた男は、この土地が「田舎」である事を事前の知識としては心得てはいたものの、見るのと聞くのとでは大違いというヤツであり、その口からは思わず漠然とした不安がこぼれ出る。

「ここら先は…歩くしかないとの事だったが…」

 それはバスを降りる間際に運転手から聞き及んだ情報で、曰くニ十分ほど行けば目的地に辿り着くとの事であったが、男にとってそれは中々に容易な話では無かった。

 何せ男は、生業としている職業柄と生来の出不精が相まって、普段からろくに運動をしていないどころか、そもそも自宅を出る事すらも稀だったのだ。

 そんなインドア極まりない人間が何故こんな辺鄙なド田舎にやって来てしまったかと言えば、それ付いてはこの男の素性と共に追々明かされていくものとして、差し当たって今は男が徒歩ニ十分の道のりをどうするかである。

「駅まで引き返して、タクシーを拾うか…」

 どこかの誰かとは違って、男がこの場にタクシーを呼ぶ方向で考えを進めなかったのは、駅から乗ったバスがここに辿り着くまで一時間程を要していた為だった。

 照り付ける日差しと茹だる様な暑さの中、道端にポツンと立てられた標識だけのバス停脇で一時間近くもタクシーを待ち続ける何て真似は、普段空調の効いた自宅からほとんど出る事が無い男からすれば自殺行為としか思えなかったのである。

「駅に戻るバスは…」

 もしかしたら男はこの時既に、容赦ない夏の暑さに中てられて、多少なりとも正常な思考能力を欠いていたのかもしれない。そうでもなければ、男はもっと早くにそれが馬鹿な考えである事に気付いた筈だからだ。

 そして男が其れに気が付いたのは、錆の浮いたバス停の標識に紐で括りつけられた手書きの時刻表に目を凝らしてみたところでようやくだった。

「は…はは…、次のバスは、二時間後…か…、ははは…」

 時刻表に記載されていたバスのダイヤを目にして、自身の考えが幾らも足りていなかった事を思い知った男の口からは、思わず絶望混じりの乾いた笑いが漏れもする。

「そうか…、それはそうだ…、こんなド田舎…何本もバスが走っている訳が無い…」

 正しくそれは正鵠であり、実際に始点である駅から終点である現在地点までを往来しているバスはたったの一台きりしか運行されておらず、そしてそれはつい先程、男を降ろして引き返して行ったばかりだった。

 一台きりしか運行されていないバスが片道一時間の道のりを行って戻って来るのだから、次の便が二時間後になってしまうのは当然の道理である。まともな思考能力をもって少し考えてみれば、足し算を習いたての小学生にだって分かる簡単な計算だ。

「ならば…仕方がない…か…」

 男はド田舎の不便さに改めて軽い眩暈を覚えながら、次案として結局はこの場にタクシーを呼び付ける事を考え始める。

 男としては炎天下で一時間近くタクシーを待たねばならならないなんて話は依然として御免こうむりたくはあったものの、二時間待ちのバスなど其れこそもっての他だ。

 故に其れは必然の選択であったがしかし、どこかの誰かがそうであった様に、男は程なくそのプランが実現不可能である事を思い知ることとなった。

「……あ、あぁ」

 今どき珍しい折り畳み式の、所謂「ガラケー」をポケットから取り出し、受話器マークの物理ボタンを押そうとした所で男は其れに気付いて愕然となる。

「圏…外…とは…」

 液晶画面の上端に小さくとだが目立つ赤色でハッキリ表示されていた「圏外」の二文字に、男は堪らず古びたバス停の標識にヨロヨロともたれ掛かった。

「ド田舎にも程がある…!」

 男が思わず込み上がったやり場のない怒りを握り込んだ拳の腹を使って、バス停の標識にぶつけてしまったのも無理からぬ話である。

「こんな事なら、初めからタクシーを使っていれば…!」

 そうは言っても時既に後の祭りであり、そうこうしている間にも照り付ける夏の日差しは容赦がなく、こうなっては最早男に残されている選択肢は一つしか無かった。

「あぁ…歩くしかないとは…」

 そうするより他なかった男は、見るからに頼りない枯れ枝の如き痩せ細った脚を引きずる様にして、渋々ながらも運転手曰く「ニ十分」の距離に挑み始める。

 ただやはりと言うべきか、普段引き籠りにも等しい生活を送っている者にとって、それが予想以上に過酷な道のりとなった事は言うまでも無い。

「はぁ…はぁ…」

 どこかの誰かとは違って、男の足元は歩くのに適した登山靴で固められていた為、流石に靴擦れの痛みに悩まされて挫けてしまう様な事こそ無かった。

 ただそれでも、厳しい夏の日差しと登山靴を履いていても尚、歩きやすいとは言い難い未舗装のあぜ道は、ただでさえ元々少ない男の体力を情け容赦なく奪ってゆく。

「もう…半分は…来た…だろうか…」

 確かに男はその時点で予想されていた所要時間の半分を歩いてはいたが、如何せんそのペースはお世辞にも軽快とは言い難く、実際はまだ三分の一といったところだろうか。

「…そろそろ…見えても…いい筈だが…」

 バスを降りる際に所要時間と共に運転手が語っていた話では、道なりに只真っ直ぐ進んで行けばやがて大きな門構えの屋敷が見えてくるとの事で、そこそが男の目指している目的の場所だった。

 もしこの時点で、目的の屋敷がチラリとでも見えていたのならば、男はもうひと踏ん張りくらいは出来たかもしれない。ただ残念な事に、男が疲労で項垂れるばかりだった顔を上げていくら目を凝らしてみても、其れらしい物は影すらも見え無かった。

「い…いかん…、少し…休憩しよう…」

 目的の屋敷がまだまだ遠い事を悟ってしまうと、挫けないまでも若干の精神的ダメージを免れなかった男は、堪らず一時的にその歩みを中断する。

「はぁ…はぁ…、どこかに…日陰は…」

 せめて直射日光を避けられる場所は無いものかと男が辺りを見回してみれば、もう少しだけ進んだところに、生い茂る木々に囲まれた神社らしき物があるのを発見できた。

「丁度…良い…」

 男はこれぞ正しく神の助けとばかりに、残り少ない体力を振り絞って、神社らしき物の方へと向かってゆく。

「はぁ…はぁ…ついた…」

 程なく男が辿り着いたその場所は、小さな鳥居とその奥に簡易な祠がある事からして、やはり何かしらを祀った神社の様だった。

「此れは…この辺りの土地神…だろうか? まぁ…今は何でもいい、取りあえず…休ませてもらおう…」

 男は小さな神域に若干の興味を持ちつつも、今は疲労の所為で頭もうまく働かずに、一先ずは鳥居の手前にあった三段程度のささやかな石段の上に腰を下ろす。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 この時、失った体力を取り戻す為に石段の上で俯いて大きく息を乱すばかりだった男は、到底知りもしなかった。この日、この場所で出会ったものが今後の人生を左右する切っ掛けになろう事を。

「あの…、大丈夫…ですか?」

 其れは、涼やかでありながらも、どこか甘さが残る少女の声だった。

「あ、い、いや―」

 不意に掛けられた声に反応して、男は顔を上げて取りあえずの受け答えをしようとしたがその刹那、目の前に立っていた少女を視界にとらえた処で思わず言葉を止め息をも呑んだ。

「…ッ!」

 白いサンドレスから伸びるほっそりとした手足、少し癖のある柔らかそうな黒髪、少女特有の丸みを帯びた整った輪郭、高くはないが筋の通った形の良い鼻と控えめながらもふっくらとした唇、そして、ぱっちりとした二重が愛くるしい黒目がちな瞳。

 例えるならばその少女は、ウスユキソウの花だった。

 人知れずひっそりと咲く小さな白い花の様に、少女の印象は唯々「可憐」の一言に尽きる。そんな少女の余りにも浮世離れした美しさに、男は一瞬暑さにやられて幻でも見ているのではないだろうかと錯覚してしまった程だ。

「あの…? 大丈夫…ですか?」

 少女が少しばかり困った顔をして今一度の言葉を投げ掛けて来ると、男は其れが幻などでは無い事にようやく気付いてハッと我に返った。

「あっ…いや…少し休んでいただけで…どうという事は…」

 その返答に少女はホッとした様子になって、正しく花の様な愛らしい笑顔を見せる。

「良かったです…、暑いですから、気を付けてくださいね」

 少女は笑うとより一層に魅力的で、男はもう唯々これに釘付けだった。

 そんな男の視線を知ってか知らずか、少女はサンドレスの胸元をパタパタとやりながら、ふと何か思い付いた顔になる。

「そうだ、コレ、良かったらどうぞ、塩分とれますよ」

 そう言って少女が差し出して来た物は、半透明の包み紙に覆われた薄紅色のキャンディーだった。

「これは…どうも…」

 男が少女に促されるままキャンディーを受け取って其れを口に放り込むと、甘酸っぱい梅の風味が口の中一杯に広がってゆく。

「あぁ…懐かしい味だ…うん…、えぇと…キミは、この辺りの子…なのかな?」

 疲れた体に梅風味のキャンディーは存外に効果的だったらしく、世間話をする程度には余裕の出て来た男が何気なく問い掛けると、少女はそれに黒髪をふわふわと揺らしながらゆっくりかぶりを振った。

「お盆なので」

 少女の返答は言葉足らずではあったものの、言わんとしている所は、おそらくお盆休みを利用して祖父母の家に遊びに来たという事なのだろうと男は推測して一人納得する。

「おにいさんも、里帰りですか?」

 男は「おにいさん」と呼ばれる程には若くも無かったが、一先ずそれについては敢えて言及するべくもない。

「いや、私はこの辺りの事を取材しに来たんだよ」

 先程とは逆に今度は男が左右に首を振ってこの土地にやって来た目的を明かすと、少女は驚いた様子でただでさえ大きな愛らしい瞳をまん丸にする。

「新聞社の方なんですか?」

 取材と聞いた少女がTVや雑誌ではなく、真っ先に「新聞社」を連想した事に男は幾ばくかの不可思議さを覚えつつも、今一度左右に首を振ってこれにも否を示した。

「いや、私は…その…、小説家…でね…」

 少女に問われるまま自らの素性を明かした男がそれを些か言い辛そうにしたのは、大したヒット作もない自分が胸を張ってそう名乗っていいのかどうか常々疑問だったからだ。

 しかしそんな男の気後れを他所に、少女は先程よりも一層まん丸にした瞳をキラキラと輝かせすらした。

「小説家さんですか…! どんなものを書かれてるんですか!?」

 思いのほか食いつかれてしまった男は、これには大いにたじろがずにはいられない。

「ど、どんなと…言われても…、『硝子の顔』…なんて、知らない…だろうね…?」

 それは男が今まで発表してきた作品の中では、最も発行部数の多かった物だったが、世間一般的にはお世辞にも売れたとは言えず、案の定少女もピンと来ていない様子だった。

「…すみません…、勉強不足で…」

 少女はシュンとした様子で謝りを入れて来るも、男は別段気を悪くする事も無く、寧ろそれを当然の事だとして受け止める。

「いや、良いんだ…困らせてしまったね…」

 その言葉に少女はそれこそ困った顔をして、それ以上は会話も続かなくなり、その間に程よく体力を回復させていた男は、色々と頃合いだろうと察して石段から立ち上がった。

「…さて、私はそろそろ行くよ」

 男が別れを告げると、少女もそれを引き留める事は無く、代わりに先程も振る舞ってくれた梅風味のキャンディーをもう二つほど差し出して来る。

「お気をつけて」

 少女からの送り出しと、梅風味のキャンディーを受け取った男は、後ろ髪を引かれる思いが多少はありながらも、目的の屋敷を目指すべくその歩みを再開させた。


 少女と別れて小さな神域を後にした男は、梅風味のキャンディーが余程に効いたのだろう。信じられない程好調なペースで、今一度の休憩を挟む事無くあっさりと目的の屋敷にまで辿り着き、そしてそこで思いがけない再会を果たす事となった。

 男が大きな屋敷の門をくぐり、玄関の呼び鈴を鳴らして程なくの事だ。

「…どちらさまですか?」

 僅かに開かれた扉の隙間から覗いた顔に、男は思わず息を呑まずにはいられなかった。

「き、キミは…!」

 少し癖のある柔らかそうな黒髪とぱっちりとした二重が愛くるしい黒目がちな瞳。それはそう、先ほど小さな神域で別れたはずの少女に他ならなかったのだ。

「キミは…先程の…!」

 少女が取材しようとしていた屋敷に所縁ある人間だった事や、先に出発した自分をいつの間にか追い越していた事等に男は幾らも驚きを禁じ得なかったがしかし、次の瞬間にはそれ以上の驚きに見舞われる事となった。

「…先程って…えっ…とぉ、何の事…ですか…?」

 思いがけない再会を果たした少女から返って来た、まるで初対面かの如き対応と、色濃い警戒の眼差し。

 男は、少女がなぜそんな反応を見せるのか、まるで意味が分からなかった。

「い、いや、ついさっき、小さな神社で会ったばかりじゃないか…!」

 それは忘れてしまうのが難しい程には直近の出来事である筈なのに、それでも少女は一層警戒心を増した様子で眉を潜めさせる。

「ボク…神社になんて行ってませんけど…」

 そんな事を言われても、確かにそこでこの少女と会っている男は酷く混乱しながらも、自分はその動かざる証拠を持っている事に思い至った。

「ほらコレ! 君がくれたんじゃないか! おかげで私はここまで辿り着けたんだ!」

 男はまだ一粒食べずに残してあった梅風味のキャンディーをポケットから引っ張り出し、それを証拠として少女の眼前に突き付ける。だがしかし、少女はこれに対して警戒心とはまた別な面持ちで、眉間にしわを寄せて顔をしかめさせた。

「うっ…、これ、梅の香り…ボク…得意じゃないから…引っ込めて…ください…」

 あろうことか、少女は自分が振る舞ってくれたはずの梅風味キャンディーを、見るのも嫌だと言わんばかりの様子でやんわりと突き返して来る。

「なっ…!」

 最早全くもって意味が分からなかった男が呆然となっていると、それまで少女が警戒して僅かにしか開かれていなかった玄関の扉が不意に勢いよく全開になった。

「おう、なんじゃい、お客さんかいな?」

 開け放たれた扉の向こう側に姿を現したのは熊の様に大柄の老人で、男はこれに些かギョッとしてしまったが、今は其れよりも不可解な反応を見せる少女の方だ。

「キミは、もしかして私をからかっているのかい!?」

 男が思わず身を乗り出して勢い良く問い詰めると、少女はビクッと身体を震わせてあからさまに怯えた顔を見せた。

「お、おじいちゃん…、この人なんか怪しいよ…!」

 少女が縋りつくようにしてその大きな身体の陰に隠れながら老人にそう告げた為、男はこれに慌てての弁明を計る。

「い、いや! 私は決して怪しい者ではありません! 先日、この一帯の歴史に関して取材させて頂きたい旨をご連絡差し上げた者です…!」

 男が訪ねて来た目的と事前の約束を取り付けている事を告げながら、若干手間取りながらも取り出した名刺を差し出すと、其れを受け取った老人は「おぉ」と心当たりがある様子で手の平を打った。

「そういや、そんな約束しとったの!」

 その言葉に男がホッとしたのも束の間、老人は後ろに隠れている少女にチラリと目をやってから俄かに厳しい顔つきで鋭く睨みつけて来る。

「そいが何でワシん可愛い孫を怖がらせちょるんじゃい」

 この時老人の後ろで少女が舌でも出していてくれれば、若干悪質な子供の悪戯という事で話は済んだのだが、残念ながら少女は依然として怯えた様子で警戒心もより一層だ。

「あっ…い、いや…、私はここへ来る途中にあった小さな神社で、そちらのお嬢さんとお会いしているんですが…何か…どうにも話が食い違っておりまして…」

 老人の厳しい面持ちと鋭い眼光に気圧されながらも、男が事の次第を説明すると、少女の方もそれに対する反証を開始する。

「ボク、今日は外に出てないんだよ! おじいちゃんも知ってるでしょ?」

 神社どころか外にすら出ていないという少女の言に男は愕然となるが、それぞれの証言を聞き届けた老人は意外にもこれを豪快に笑って一笑に伏した。

「なんじゃ! そんな事かいな! そいは多分、こん子の婆様じゃな!」

 男には、老人が一体何を言っているのか全くもって意味不明で、その頭の中が無数の疑問符で埋め尽くされる。

「…はっ?」

 出会ったのは「お嬢さん」だと言った筈なのに、其れは「婆様」だ等と言われては、男が素っ頓狂な声を上げてしまったのも無理は無い。

「こん子はな、若いころん婆様と瓜二つでの! それにほれ、今は丁度お盆じゃろう!」

 老人はそれがまるで当たり前の理屈であるかのように今一度豪快に笑うが、男にはやはり意味不明だった。否、厳密に言えば、男は老人の言わんとするところを何となくだが理解出来てはいたのだ。ただ、果たしてそんな事が在り得るのかと、そう考えた時に、男はそれに対して間違ってもイエスとは言い難かったのである。

「あ、あの…因みに、お婆様というのは…その…ご健在じゃ…」

 半ば答えを予測しながらも男は其れを問い掛けずにはおれず、そして老人から返って来た返答は案の定というヤツであった。

「おう、とうにのうなっとるわい! そいでもお盆やでな! 帰って来とるんやろ!」

 その返答に、男が最早ひたすらに乾いた笑いを洩らすしかなかった事は、言うまでも無い。

「は…はは…」

 男には、老人のいう事が真実であるのかどうかは、分かり様も無かったが、依然として祖父の物陰から神妙な眼差しでこちらを窺っている少女が小さな神域で出会った少女よりも幾らか幼い事に気付いたのはこの時だった。

「はは…ははは…」

 男は後に、嘘か真か夢か幻かも分からないこの時の体験と、当初予定していたこの地域の歴史に関する取材を踏まえて、一本の長編小説を書き上げる事となる。

 そして、『ウスユキソウの見る夢』と題されたその作品が予想外のベストセラーを記録し、それまで殆ど無名に等しかった「来栖誠之助」という男の筆名が広く世に知れ渡ったのは、今からそれほど遠くない未来の話だ。

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