第64話 新生活
~~~ 京の国 ~~~~~~~
細い木々がまばらに立ち並ぶ林の中を
2人男女が道なき道を歩く。
風雷と凜である。
何事もなく京国へ入ることに成功した。
何とも拍子抜けな感じではある。
敵は国だ。もし何かあったのあれば
今頃死んでいたに違いない。
風雷はバンパイアであるものの不死身ではない。
1人で国を相手にするのは無謀だ。
何事もなくて良かったと心から実感
するのでった。
ここまで順調にこれたのは偶然ではない。
先頭を歩く女子の力量が大きい。
おそらく何度も行き来したのだろう。
彼女は迷うことなく突き進んでいる。
自分を殺すと宣言する正体不明の女子。
女性とは思えない筋肉のつきかた。
そして尋常でない古傷の数。
兄が使者であったことから、この女子も
同じ部類なのだろう。
いわく付ではあるものの案内人として頼んで
正解であった。
口約束ではあるが3カ月間の停戦協定を
してるのだ。
今はここからの脱出に集中する。
京の国へ入ったはいいが、安心はできない。
隣国からの不法侵入者だとバレれば、
この国でお尋ね者となるのだから。
今しなければならいことは、国境から
できるだけ離れ、どこかの町にたどり着く
ことである。
時刻は、亥一つ時(21時)
普段ならば暗闇をさまようところでったが、
今宵は満月。月明りで視界は良好だ。
幸いにも提灯がなくても肉眼で歩くことができる。
今日は運がいい。
何を隠そう風雷は京の出身である。
ここは生まれ育った国であり、人生を捧げた
呪禁師本堂がある聖地でもある。
ふと、風雷は本堂での戦のことを思い返す。
本堂と師範を守るべく、人間を捨て、
バンパイアとなって決死の覚悟で戦ったのが
遥か昔のように感じる。
あのとき死んでもおかしくない状況にあった。
あれから30年が経ち、不思議な事に
まだこうして生きてる。
自分の全てを失ったにも関わらず生き続けている。
それは師範の妹である優紀乃の存在が大きい。
彼女の世話をする。それを支えにここまで来たのだ。
未だ見つかってはいないが、探し続ける気持ちは
冷めていない。
そのことを改めて再認識するのでった。
生まれ育った国とはいえ、国境付近の森の中
となればどこにいるのか。
どこへ向かっているのか。さっぱり分からない。
先頭を歩く女子は、右へ左へと直線には
進まないのだから。
侍「其方らは何者?」
突然、木の陰から刀を持った男が姿を現した。
幸いにも1人しかいない。
薄暗くはっきりとは見えないが侍だ。
ということは国境付近を見回っている者だろう。
我々を見つけ、近づいて来るまで木に身を
潜めていたに違いない。
風雷はすんなり国境を越えられたことで気が
緩んでいた。
一応、この時間帯であれば、見回りは提灯を
持って移動するだろうと想定していたのが
裏目にでた感じだ。
灯りが見えてから警戒すればいいという考え方が
間違いだことに痛感する。
さぁ、どうする?
相手は1人。相棒に任せれば殺すのは容易い。
このあと、遺体が見つかり大騒ぎとなった時に
果たして逃げ切れるのかってところだ。
案内人の女子は風雷の顔を見つめ、委ねる姿勢のようだ。
侍は刀を握り戦闘態勢で正面の男女をまじまじと見る。
侍「其方らは、何をしておる?」
風雷は何か返答しなくてはと焦るが、
いろいろな殺害方法が頭を駆け巡り、
返答のいい訳が何も浮かばない。
侍 「さては、駆け落ちか?」
予想外の質問であった。
風雷「肯でもあり否でもある。恥ずかしい話。
家が我々の婚姻を認めてもらえず、
心中を決意し、ここまで来たところ。」
とっさの判断にしては自然な返答ができた。
風雷「肯とは、この期に及び、駆け落ちという選択も
あるのではと頭を過った次第。
恥も外聞も捨て、生きていくが迷っていた所。」
よくもまぁ、何も考えずにすらすらと言葉が出た
ものだと風雷は自分に関心する。
適当に説明した割には説得力があると自負する。
というのも風雷の身なりは立派だ。
見た目でも分かるほどである。
しかも隣国の物だから見かけない柄だ。
ますます身分の高い者だと勘違いしたはずだ。
対して女子は、一般の庶民が着てる物だ。
身分の違いで婚姻が許されないという感じには
一応見えるはず。
侍 「左様か。それは不憫である。
其方らの人生、拙者に決める
立場にはないが生きることを願うぞ。」
侍は刀を鞘に収める。
そのしぐさを見て風雷は、笑みを浮かべる。
侍 「某は高貴の方とお見受けする。
どちらの出身であるか?」
風雷「清華家の者だ。詳しくは答えられない。」
突然、侍が片膝を地面に付き、ひざまずく。
風雷「敬意を払う必要はない。
自分は勘当された身。
今は民なのだから。」
風雷は臆することなく、身分の高い者として
振舞い、堂々と会話する。
風雷「ここで出会ったのは何かの縁。
我々が死なれては、某も気分悪かろう。
第二の人生。
連れと共に生きることを某に誓うとしよう。」
侍 「なんという巡り合わせか。
今宵は良い夢が見れるぞ。」
風雷「1つ頼み事がある。
自分は道に迷ってしまった。
街道への行き方を教えて頂きたい。」
侍は風雷の言動を一つも疑ってなどいない様子。
街道まで付き添って案内すると申し出る始末。
それは丁重にお断りし、行き方を聞き出した
のであった。
そして、侍と別れ、指示された通りに進むと
みごと街道へ出ることに成功したのである。
だが街道に出れたとしても時が時である。
深夜に男女が歩き回るのは不審だ。
安全策として、風雷は街道沿いの宿へ
泊まることにした。
次の朝は、宿を出て都を目指し4日歩き
とある町へと辿りつく。
~~~ 亜貴領 ~~~~~~~~~
周囲が山で囲まれた小さな町に風雷達は
滞在していた。
道中により、家は借りず宿住まいだ。
しばらく、この地で生活するつもりではいる。
目的地はここではない。
むしろ通りすぎる予定でいた。
たまたま、住むには好条件な場所を見つけたため、
しばらくここに腰を据えることを決めたである。
銭は畠山藩で稼いだ金が100両ある。
当面銭には困ることはない。
何もせずふらついていると疑われるので
風雷はこの町で医者をするつもりではいる。
そして、ある程度この地になじんだら
都を目指そうと考えてはいる。
凛とは1つ屋根の下でいっしょに暮している。
まぁ、それが条件だったのだから仕方ない。
周囲には怪しまれないよう夫婦であると
公表している。
なので、人前ではおしどり夫婦を演じている。
相棒の黒猫も家族の一員として一緒に
暮らしている。
相変わらず、風雷がどこへ行くにも定置の
肩に乗り、付いて行くのは変わらない。
その光景が珍しく、名は知られてはいないが
近辺では有名人となっていた。
宿の真裏には森がある。
この森の存在が決めてとなり、この地に
腰を据えることにしたのだ。
その森には多種多様な薬草が生い茂っており、
薬作りに重宝している。
そして、相棒にとっても有益だ。
沢山の野良猫がいるので、食事には困らない。
凜もまた、この森を大いに活用している。
それは、くノ一時代のかんを取り戻すのが
目的だ。
リハビリ兼、練習場として走り回ったり、
短剣を投げたりしている。
風雷はその光景を眺めており、彼女が
以前のように走れるようになるのは、
嬉しいことではあるが、自分を殺すための
訓練と考えると複雑な心境にはなる。
凛 「あなた!
お隣さんからお饅頭を頂きましたわ。
食べます?」
風雷「何をにやついておる。」
凛 「駄目よ。そのような返答しては。」
風雷「やめろ。無理するな。」
この場には風雷と凜の2人しかいない。
他人に見られていないのだから、演技など
する必要はないのだ。
だが、凜は求めて来る。
凛 「普段から仲のいい素振りをしないと
いざという時に、ほころびがでるわよ。」
風雷「仲の悪い夫婦でいいであろう。
もう、やめろ。」
凜は饅頭を1つ手に取り、外へ出ようとする。
裏山に訓練しに行くのだ。
そして、振り向きざまに満面の笑みで一言。
凛 「楽しい人生になりそう。」
凛との停戦期間は、あと2カ月。
2か月後、どうなることやら。
ここで2章完結です。ここまで読んで頂きありがとうございます。
話はまだまだ続きます。
ですが他の作品もある関係上、しばらくお休みさせて頂きます。
その間、他の作品を読んで頂けると幸いです。




