第47話 決別の決断
~~~~ 町はずれの民宿 ~~~~~~~
この宿に来て1週間経つ。
凛はみるみる元気になっている。
鍛えられた身体だからだろうか回復力が早い
傷口は塞がり膿みなどの危険な物も出てない。
彼女ならあと1か月で歩けるようになるはずだ。
それとは対照的に私は日々衰弱している。
まともな飯(血)にありつけてないからだ。
凜から少し採取するだけの毎日。
それ以外にはあり付けてない。
空腹で無気力になりつつある。
相棒の猫はというとは、深夜に外へ出ていき
食事して帰って来る。
なんとも手間のかからない飼い猫だろうか。
女主人「キャー。」
女主人の悲鳴。何事だ!
風雷は、急いで外へ飛び出すと1人男性が倒れてる
光景が目に入った。
女主人はその男から1歩引いて怯えて立っている。
いったいどのような状況なのだろうか。
どうやら強盗ではなさそうなので安堵する。
風雷 「どうされた?」
女主人「この旦那の腕見て!
赤い斑点が無数にある。呪われてる。」
男 「急に熱が出て、身体が怠くなった。
1泊だけ泊めさせては頂けないだろうか。」
女主人「御免だよ。よそ行ってくれ。」
赤い斑点。麻疹だな。
風雷 「私は医者だ。病を診てしんぜよう。」
男 「医者?」
見ただけで病気は特定できている。
風雷はとにかく早く血をすすりたかった。
ただそれだけの理由で診察したいと申し出た
のである。
いつもの診察方法を素早く説明し、男の腕を噛む。
沢山飲んでも気が付かないだろうと
大胆に飲んでしまった。
風雷 「麻疹という名の病に侵されてる。」
女主人「きゃぁー-。妖怪に取りつかれる。
近寄らないで。」
女主人は男から三丈(9m)ほど離れる。
風雷 「妖怪?」
女主人「麻疹は何とかって妖怪に獲りつかれると
発症する病気やろう。
人から人へ乗り移ると聞く。
あんたもそ奴から離れな!」
男 「麻疹とは誠か?」
風雷 「左様だ。」
男 「我は死ぬのか?」
風雷 「私がいるから死なん。」
女主人「早う離れな。」
風雷 「落ち着かれよ。ただの風邪だ。」
女主人「風邪?いやいや赤斑点は異常や。」
風雷 「説明はあとだ。空いてる部屋はあるか?
旦那を寝かせたい。」
女主人「妖怪の住処になる!」
風雷 「妖怪の仕業ではない。」
女主人「あんた本当に医者な?」
風雷 「誠だ。」
・・・
女主人「信じる。なら隣の部屋が開いとる。」
風雷は男に肩を貸し、指示された部屋へと入り
男を寝かせる。
男 「もう一度問う。我の病は麻疹と?」
風雷 「間違いない。」
男 「人から人へ移る病であると?」
風雷 「左様だ。」
男 「桐生の商店街でうつされたのだな。」
風雷 「富中町か?」
男 「ほう!知っておるか?」
風雷 「あの地域には私の患者が多数おるのでな。
なぜ、そこでうつされたと言い切れる?」
男 「商店会を通る者ほとんどが、みな咳き
込んでいた。
うつされたとしたらあの場所しかない。
てっきり空気が悪い物と思っとったわ。
くっそ。気付くべきだった。」
風雷 「安心しろ。麻疹はただの風邪だ。
1週間寝れば治る。」
男 「風邪、1週間?」
風雷 「私は医者だ。信じろ。
薬を取って来る。寝てろ。」
彼の話から、現在商店街は酷い状況に陥ってる
に違いない。
知り合いが沢山いる。世話になった人たちも。
苦しんでる人や、死にそうな者が出てないだろうか。
助けに行かなくていいのか。
悩みながら外へ出ると女主人が待ち構えていた。
女主人「あんた、病人に近づいて大丈夫なのかね?」
風雷 「気を付ければ問題ない。」
女主人「気を付ければね。」
風雷 「誠だ。」
風雷の身体は、菌や毒に耐性があり、
病気になることはない。
女主人には、麻疹は恐怖ではないことを
悟らせるため、特異体質であることを隠し、
対処できることを伝えたのである。
女主人「麻疹は妖怪でなければ何なのよ。」
風雷 「目に見えない小さな生物だ。
肺で増殖して人の息で、人から人へ感染する。」
女主人「小さな虫?嘘やろう。」
風雷 「信じなくともいい。とにかくだ。
彼と会話する時、口に布を巻いて
出来るだけ離れたところからしろ。」
女主人「はい。虫が身体に入るの嫌やから。」
風雷 「気を付ければ怖い病ではない。」
女主人「あんた、医者だったとはね。」
このあと風雷は、薬を男に手渡した。
念のため、女主人にも。
実は麻疹に効く薬はない。
それは今持参してないということではなく、
まだ風雷に効果のある薬が見つけられてない
という意味だ。
では、何の薬を2人に手渡したか。
単なる解熱用である。
麻疹は、1週間耐えられば回復できる。
見た目は全身に赤い斑点が出来、
不安にはなるが、風邪とさほど違いはない。
・・・
風雷は自分の部屋にと戻る。
凛 「外が騒がしかったが、何事か?」
風雷「麻疹の患者が現れた。
隣の部屋で寝とる。」
凛 「麻疹?」
風雷「知らんか。風邪みたいなものだ。
全身に赤い斑点が出来、人にうつす病だ。」
凛 「うつされたら大変ね。」
風雷「安心せい。
隣の旦那と言葉を交わすことはないから、
うつることもない。」
風雷は凜の浴衣の紐をほどき、全身を見渡す。
凜は、微動だにせずされるがままである。
凛 「何?」
風雷は、浴衣の紐を結びなおす。
今更、裸を見られることに抵抗はない。
だが、御湿の交換をする訳でもなく、
身体を拭くわけでもない。
医者は何をしたかったのか凜には理解できないでいた。
風雷「桐生の商店街へ戻る。」
凛 「いつ?」
風雷「いまからだ。」
凛 「追手と戦う気?」
風雷「いや、あそこは麻疹でえらいことになってる。
なので治療しに行く。
お前はここへ置いて行く。」
きっかけは麻疹であったが、風雷はここで
凛と決別することを決意したのである。
身体を見たのは最終確認であった。
そして、もう自分がいなくても問題ないと
判断した結果である。
なによりも敵意を向ける凜は危険だ。
自由に動き回れるようになれば、
いつ自分の寝首を取られるか分からない。
ちょうどいいタイミングだと風雷は感じたのである。
凛 「病人を置ていく気?」
風雷「お前の世話付きで1か月分の金は払っておく。
あと2週間もすれば自力で立ち上がるはずだ。
更に2週間歩行訓練をすれば歩けるようになる。」
凛 「止めときな。
今更行っても遅いし、あんたも病気に掛かるだろうに。」
風雷「正だ。
山のような患者がいるだろうから、
同じ病に掛かるのは避けられんだろう。
私を治療できる者などいないだろうから死ぬな。」
もちろんこれは嘘だ。風雷は病気にならないのだから。
凜と完全に決滅するための芝居である。
凛 「なぜそこまでして行く?」
風雷「私は医者だ。
そして、あの地には沢山の友人がおる。
助けたいと願うのは当然事。」
凛 「待て!死なれては困る。」
これは凜の本心であった。
だがそれは、決して風雷の身を心配したのではない。
自分の手で風雷を殺すのが目標だからだ。
なので他方法で死なれては困るということである。




