第44話 復讐
~~~~ 医療所 ~~~~~~~
子供のように泣く凜を横目に風雷は辺りを見渡す。
遺体が転がっていて異様な空間である。
だれかに見られでもしら面倒ごとに
なるのは間違いない。
早急に何とか片づけなければと思考を
フル回転させる。
遺体は全部で4つ。室内に3体、外に1体だ。
手始めにやるべきことは外の遺体から。
幸いにもまだ誰にも見られてない。
ここが人通りの少ない場所でよかった
と再認識する。
まぁ、人通りが少ないからこそ堂々と
襲われたとも言えなくもない。
とりあえず今は遺体の始末に集中することに。
風雷は急いで外へ飛び出し、遺体の両足首を
掴んでは引きずって部屋の中へと入れる。
そして室内の遺体を放置して外へと
出て行ってしまったのである。
何にしに出て行ったかと思えば、
大きなワラ袋を持ってすぐに戻って来たのだ。
ひと1人詰められそうなサイズである。
案の定、風雷は1人の遺体を袋に入れる。
そして、肩に担いで外へと出た。
もちろん、逆側の肩には猫が乗る。
猫は部屋で留守番することは絶対にしない。
風雷が出掛けるときは必ず付いていく。
今回も例外ではない。
寂しがり屋なのか護衛のつもりなのかは
分からないが、その行動は愛おしく思えるの
と同時に心強くも感じるのであった。
風雷は改めて良い相棒を持ったと実感する。
そんなことを考えているうちに近所の
川が流れる通りへと出る。
自身の顔が水面に映るほどまで川の淵まで
移動し、握っている袋の端を水面ギリギリで
解放する。
♪ドボン
すると中身が滑り出て水面の中へと沈んで行く。
遺体を川の中へ捨てたのである。
風雷は遺体がその後どうなるか確認しないまま
その場を去り診療所へと戻る。
遺体は川底に当たる直前でゆっくりと浮上し、
川の流れと共に川下へと流されていった。
風雷が診療所へ戻ると、凜の視線が突き刺さる。
言葉は発しないが殺意に満ち溢れていた。
風雷はそれに動じず、たんたんと次の遺体を
袋に詰め、川へと持ち運ぶ。
その間、誰にも見られないということはない。
流石にそれはありえない。
知り合いであれば挨拶を軽く交わし、
そうでないなら平然とした態度で素通りする。
先ほどと同じ川の淵へと行き、誰にも見られない
タイミングで遺体を放り込む。
そんな行動を繰り返し、4度目のこと。
~~~~ 近所の川岸 ~~~~~~~
そう最後の1人を川の側まで運んで来た時
のこと。事件が起こった。
刀を腰にぶら下げた7名の浪人集団が
近づいて来たのである。
風雷は彼らが通りすぎるの待つこととし、
しばし立ち止まり川を眺めることに。
袋は担いだままだ。
集団が一丈(3m)の距離にまで間で近づいたとき。
子分「親分、こいつです。」
親分「お主。医者か?」
声を掛けて来たのだ。
風雷は振り返ると7人の先頭にいる親分らしき
人物と目が合う。
風雷「私か?」
親分「風雷と名乗る者で間違いないか?」
風雷「如何にも。風雷だ。何用か?」
子分「流石親分!ついてますね。」
親分「だろ。」
親分「所でお主、肩に猫が乗っとるぞ。」
風雷「こちらは相棒だ。」
親分「ははは。これは心強い。」
他の子分どもも鼻で笑う。
子分「医者よりかは強そうだ。」
風雷「暇つぶしなら他に行け!」
親分「いや、お主に用があって来た。
ちょいと会って頂きたい人物が
おってだな。」
風雷「私は忙しい身。後日で頼む。」
そう。
彼らは、帝である井口殿から風雷を連れて
来るよう命を受けてここへ来た長実集団であった。
親分「すまんな。それは出来ない相談だ。」
子分どもがにやつく。
風雷「会いたいという、そ奴は名はなんと?」
親分「それはお楽しみだ。」
風雷「行かないと言ったら?」
親分「力づくで連れてくまで。
痛い思いをするか否かは、お主次第。」
子分6名がいっせいに鞘から刀を抜く。
また厄介事か?
風雷は懐に手を入れると動揺した。
短剣が1本もないからだ。
そりゃそうだ。先ほどの戦闘で診療所内に
散らかしたままなのだから。
親分「何がおかしい?恐怖で狂ったか。」
もう笑うしかない。
今日はついてないと風雷は苦笑する。
風雷「その刀はなんだ?
痛い思いではなく殺す気かではないか!
連れてくいくのではないのか?」
親分「生きて連れて来いとは命じられてない。」
刀を抜かしたのはあくまで威嚇を示した
だけのこと。
相手は1人。しかも医者だ。
恐怖で大人しく言うことを聞くだろうと
ふんだのである。
~~~~ 医療所 ~~~~~~~
そのころ凜はというと
怒りと悲しみが抑えきれないでいる。
どうやって医者を殺すか、それしか頭に浮かばない。
身体が自由に動けばいくらでもやりようはある。
多種多様な殺人方法が頭によぎるも、全て
この身ではできないことに憤りを感じる。
何で自分はあのとき刺されたのだと
吉原での軽率な行動に深く後悔するのであった。
すぐそこに刃物が転がっている。
仲間の小刀と医者の短剣だ。
それを手に取りさえすれば医者の首を切る
ことができる。
現実は残酷だ。そんな簡単なことができない。
兄が殺された事は悲しかったが、
目の前の刃物すら取れないことに
忍びとしての自信を喪失してしまう。
人生最大の屈辱と怒り、そして喪失感が
いっき襲いかかり、気が狂いそうだ。
もう忍び稼業はどうでもいい。
というか、傷が完治したところで
以前のような動きはもうできないだろうと
凜は理解してる。
これまで多くの怪我人を見て来たのだから。
ならば残りの人生は、医者を殺すことに
専念する。そう決意する。
例え忍びの仲間を裏切る結果になろうとも
復讐を最優先にすると誓うのであった。
初めて凜は、命令ではなく自分の意識で
行動するのだと実感する。
そう自由を手に入れたのである。
任務を果たさず勝手な行動をするという
ことは忍びの掟に背くことになる。
お尋ね者になるのは間違いない。
だが医者をこの手で始末できるなら、
人生の幕引きとしては申し分ないと
感じてる。
自分が死ぬことについて恐怖心が消えた
瞬間でもある。
となると、やるべきことは1つ。
1日も早く傷を癒すことだ。
先ほどの戦闘を見て、今、殺す方法を
考えるのは無意味である
この身では相打ちにもできない。
暗殺方法は回復してからと決意する。
思考がこう結論づいたところで、
興奮は治まり、冷静さを取り戻した。
涙は止まり、表情に笑みが浮かび上がる。
そう、人生を掛けた最後の仕事が、
楽しく思えて来たからだ。




