第43話 真実
~~~~ 医療所 ~~~~~~~
風雷「聞いたところて雇い主は吐かないか。
まぁ、答えたとて真実かは怪しい。
聴くだけ無駄か。」
風雷は疑問に思う。
客人と女子は知り合いのようだ。
そして客人は自分を殺すのだという。
ならば女子もそうなのか。2人の共闘なのか。
いや、考え過ぎだろう。ありえない。
彼女との出会いは偶然だった。
これがもし作戦だったとしたら失敗してる。
だって彼女は使い物にならなくなってるから。
今はそんな事で悩んでいる時はではない。
気を取り直し、この状況の打破を思考する。
凜はというと動揺がとまらない様子。
状況からして仁は勝てないと
見積もっているからだ。
仁のことだ。
刺し違える覚悟でいると感じ取れる。
となると最愛の兄上が死ぬ。死んでしまう。
凛がこんなにも動揺するのは初めての事である。
里に居た時点で2人は死を覚悟していた。
現に長生きした忍びは存在しないのだから。
だけど、死ぬとしたら凜の方が先だと思って
いたから兄の死は想像すらしていなかったのである。
それがここに来て目の前で起ころうとしてる。
凜は「逃げて!」と言いたい。
だが言っても無駄だ。これは任務だから。
凜自身だって同じだ。
兄上に言われて逃げるようなことはしない。
風雷「どうした?
入って来るなり威勢良かったではないか。」
・・・
風雷「ダンマリか?」
仁は、勝機を模索する。
注意すべきは2点。
猫による噛みつきと医者の短剣だ。
猫の動きは素早いとはいえ、目で追える範ちゅうにある。
テリトリに入れば、身体に触れる前に胴体を
真っ二つにする自信はある。
問題は短剣の方だ。
こちらも目で追うことは可能なのだが、避けられる
自信はない。
そもそも仁の戦術は、致命傷さえ食らわなければ
ある程度やられてもいいとうスタイルだ。
要するに、あえて避けず相手へ接近し切りかかる
というもの。
それが今回は使えない。
医者が使う武器は、かすっただけで即死するというもの。
これは厄介で、今までの戦闘スタイルが通じない。
自身が逆手に握る剣は、刃渡り5寸(15cm)。
医者を切り刻むには4歩進む必要がある。
短剣を正面で受けながら進み、
切り掛かるまで生きてられるのか、と頭の中で
シミュレーションをするも答えが出せないでいる。
風雷は、懐に手を入れ、長さ2寸(6cm)の短剣を
2つ握ってる状態だ。残りはもうない。
元々短剣は5つしか仕込んでなかったのだから。
まさか、刺客が来るなど想像だにしていなかった
から仕方ない。
状況を逆転できたのだから結果良しである。
既に勝ち道筋は見えている。
猫には加勢が来るのを踏まえ、外で見張りをさせている。
準備万端だ。
凜はあせる。
自分も戦闘に加わりたい気持ちでいっぱいだ。
だが、現状立ち上がることさえままならない。
気力で立ち上がったところでクソの役にも立たない。
できるとすれば、物を投げることくらい。
周囲を見渡しても武器になりそうな物は見つからない。
この部屋に布団以外、物がないのだから。
落胆が彼女を襲う。
勝負の時は来た。
風雷は半歩前へ出ると、仁は距離を保ち半歩下がる。
仁の真後ろは壁。もう後がない。
先に仕掛けたのは風雷だ。懐から手を抜き出す。
仁は即座に反応する。
シミュレーション通り、前へ1歩踏み出そうとした
その時、右の視界に何かを捕らえた。短剣だ。
先ほど医者が投げた短剣の1つが壁に刺さっている。
仁はとっさの判断で、左腕を持ち上げ、
その短剣を握り、壁から抜くと同時に医者の顔面へ
と投げた。
風雷もまた、2本の短剣を投げる。
2人の短剣が放たれたのは、ほぼ同時。
凛は事の行く末をただ傍観するしかなかった。
結果、凛の顔は穏やかな表情へ変化する。
そう仁が勝利したのである。
風雷が投げた2本の短剣は、仁の卓越した
剣さばきによって防いだのである。
対する風雷は、顔面へ飛んで来た短剣を腕で
ブロックしたため、上腕に刺さったのだ。
仁と凛は勝利を確信した瞬間である。
仁「うっ!」
凛「いやー--!」
歓喜から一変した。
なんと仁の首に5寸の刃物が刺さっている
ではないか。
これはどういうことなのか。
仁の左隣で倒れてた仲間が投げて刺した
のである。
仁も凜も理解不能だ。
仲間が生きていたことに驚きだが、
まさか裏切って仁へ攻撃するとは衝撃である。
裏切者は、確かに凛の見知らぬ顔だけれど、
同僚は皆、あの里の出身者達だ。
ならば、同僚を助けることがあっても
裏切ることなどありえないからだ。
もちろん、これは2人の勘違いで裏切りなどではない。
風雷が遺体を操ったからなのだ。
猫が噛んだ方は猫にしか操れないが、
風雷が切り傷を与えた方は、風雷が操れた。
なので、風雷は勝機を見出せたのである。
風雷「残念だったな。俺には毒は効かない。」
風雷は、腕に刺さっている短剣を抜く。
仁はもうろうとする思考の中で、視覚に頼らす
感覚だけで、足を踏み出し身体を前進させた。
素早い動きで風雷の正面へ達し、
切り掛かる素振りを見せる。
風雷も黙って見てる訳ではない。
仁の動きに反応し、剣を握る手首を掴もうと
するも失敗する。
先に仁が姿勢を低くし風雷の背後へと回り込んだ。
続けて、左上腕を風雷の喉に当て首を絞める。
そして、右手に持つ短剣を風雷のこめかみへ
突き刺す寸前で、剣の動きがピタリと静止した。
風雷が仁の左腕を噛んだのだ。
♪「ドサッ」
仁だけが足元から崩れ倒れた。
流石にこめかみに剣を刺されては風雷も
死んだであろう。
危機一髪であった。
凛 「殺す!殺してやる。」
凛は風雷へ殺意をむき出しにして怒鳴り散らす。
彼女にとって初めての感情であった。
怒ることはあっても理性を忘れることなど
なかったから。
里を出てから数えきれない数の人を殺害
してきたが、任務の一環という感じで
相手に足して殺意を持ったことはなかったのだ。
むしろ哀れに感じることはたたあった。
そもそも感情を出したら冷静な判断が鈍り
身の危険が高くなる。
そう訓練してきたつもりだったが、
凜自身も自分の感情を抑えきれないことに
戸惑いを感じてる。
失って初めて、兄上は最愛の人だったのだと
改めて実感したのである。
凛 「必ず私がお前を殺す。」
風雷「そういうのは回復してから言わないと。
不利なのはお前だぞ。」
凜は兄上が力尽きて死んだと誤認している。
実際は、風雷が血を送り込んだことで
即死したのだ。
風雷「暴れる出ない。傷口が広がるぞ。」
風雷は、凛の言葉など子供の戯言くらいにしか
感じてない。
そしてここで、風雷から信じられないことが告げられる。
風雷「お前達、兄妹だったんだな。」
凛 「兄妹?違うわ!」
風雷「隠しても無駄だ。私には分かる。」
凛 「出鱈目言うな。」
凜は怒りから動揺へと気持ちが切り替わる。
風雷「知らんかったのか。
余計なことを口走ったな。
忘れてくれ!」
凛 「それ。」
それ本当なの?と問いただしたところで無意味だと
悟り、発言を中断した。
仁と血がつながっていた。
肉親とは生涯出会うことはないと諦めていたのに、
こんなにも近くに存在してたとは。
そして、凜をいままで支え続けてくれてた。
仁はこの事実を知っていたのだろうか。
もう、確かめるすべはない。
身動きしない仁の姿を見つめる。
仁との思い出がまたもやフラッシュバックする。
凛 「ああー-。」
凜は大粒の涙を流して泣いた。
恐れられた忍びの顔はどこにもない。
その姿は子供のようであった。




