第41話 温もり
~~~~ 医療所 ~~~~~~~
凛は目を覚ます。風景は変わらない。
同じ場所、同じ部屋。
意識を失ってからどのくらいの時間が経過したのだろうか。
外からの日が差しが日中であることを知らせる。
ということは次の日になったということか。
動きたくても相変わらず身体に力が入らない。
起き上がることさえできない。
なぜこんなにも弱ってしまったのか、
自分が不甲斐なく感じる。
刺された箇所も依然強烈な痛みが脳天へと突き刺さる。
最悪な状態だ。
元の身体に戻れる気がまったくしない。
風雷「目を覚ましたか?」
医者だ。彼の店なのだから居て当然か。
隣の部屋で作業をしてるようだ。
風雷「ちょうどよい。」
凛 「何する気?」
風雷は凛の側へ近寄り、凛の腕を取って
噛んだのである。
そして、直ぐに口から腕を放す。
風雷「落ち着け。診察だ。」
凛 「診察?バカじゃない!
噛んで何が分かるのよ。」
風雷「独自の診察方法だ。うそではない。」
凛 「なら結果はどうなの?」
風雷「お前は運がいい。
どうやら傷口は膿んでないようだ。
順調に回復してる。」
凛 「順調!もの凄く痛いけど?
とても回復してるとは思えない。」
風雷「痛いのは治癒してる証拠。
自身の回復能力を信じろ。」
水を入れた桶と手ぬぐいを用意する。
風雷「着替えるぞ。
あと、臭いから身体を拭く。」
凛 「臭いって、乙女に向かって言う言葉?」
風雷「事実を申したまで。」
凛 「ちょっと待って!」
風雷は浴衣の紐をほどくと、凛の肌が
あらわとなる。
浴衣の下は布で巻いた御湿が付けられてるだけだ。
さらしがないことに凜は気付く。
風雷は、まじまじと凛の裸を観察する。
凛 「どこ見てるのよ。拭くんじゃないの?」
風雷「お前、かなり鍛えてるな。」
凛の頬が赤くなる。
裸を見られることに抵抗はなかった。
そんな事、いちいち気にしてたら仕事などできない。
そもそも、時には女の身体を武器にすることも
あったから。
とっくの昔に女を捨てたつもりでいた。
だが、少女であった頃を思い出したせいか、
抵抗する力がなくなったこともあり、急に
女であることを意識してしまったのである。
風雷「今更恥ずかしがることもなかろう。
御湿も何度か取り替えてるのだから。」
凛 「な!」
凛はその状況を想像してしまい、更に赤面する。
風雷は、袖から腕を抜く。
凛 「痛たた。もっと優しくしてよ!」
風雷「おぉ、すません。」
風雷「昨夜は暗くて分からんかったが、
お主、尋常でない鍛え方をしてるな。
相当な手練れであるとみた。」
凛 「野蛮な野郎どもがいるせいよ。
身を守るために鍛えてるの。」
風雷「ほう、身を守るためね。」
凛 「私以外にも沢山いるでしょ。」
袖から両腕を抜き終えると、身体を拭き始める。
風雷「なら私がいなくとも、
自力で逃げられただろうに。」
凛 「何の話?」
風雷「3人の男に絡まれてるとこを
私が助けたのを覚えてないか?」
凛 「覚えてないわ。
出会ったのは、吉原が初めてではないのね?」
凜の表情は急に険しくなる。
怪我をしたからこの医者は助けてくれたものと
勝ってに思い込んでいたが、
依然知り合っていたらしい。
だが、記憶をさかのぼっても思いだせない。
自分が殺した相手の身内だったらとか。
もしかして自分は人質にされるのか?など。
最悪な状況が頭を駆け巡る。
風雷「覚えてないならいい。ささいなことだ。
気にするな。」
凛 「気にするわ。
どこで会ったの?全て吐きなさい。」
返答によっては、反撃できない現在、
自害の方法を考えねばならない。
凛は覚悟を決める。
風雷「落ち着け。お前が何者かは想像つく。
女郎が短剣や毒物を所持してるなどありえん。」
凛 「貴様、さては!」
風雷「最後まで話を聞け!
数日前に男連中に絡まれてるとこを
一度目撃しただけだ。
次に会ったのは刺されたところ。
お前と私の関係はそれだけのこと。
味方でも敵でもない。
何度も言うが医者として助けただけだ。
いつでも好きなところへ行くといい。
拘束せんから安心せい。」
凛は、この男の言葉を信じていいか分からない。
だが、危害を加えるつもりはないらしい。
敵か味方かは、自由に動けるようになってから
考えることにすと、自分に言い聞かせる。
風雷「裸で敵意を向けられても笑えるだけだがな。」
凛 「・・・」
凛は、自分が置かれてる状況を再認識する。
すると表情の硬さがほどけ、赤面へと戻る。
古着だが新しい浴衣に着替え終え、
すこし気分がよくなる。
次は食事のようだ。
風雷は一口サイズのおにぎりを数個作ってくれた。
1つつまみ、凛の口元へ運ぶ。
凛 「あの?御代は?」
風雷「銭のことは今は考えるな。」
風雷「沢山食べろ。血液を増やせ。
まずは動けるようになってからだ。」
凛 「そうね。」
凛は、医者が口に入れるものを味わいながら
ゆっくりと食する。
するとどうだろう、美味しいではないか。
これもまた凛にとって初めてのことであった。
普段の食事は、いかに素早く食べるかだ。
作業の1つであり、味わうことなどない。
おにぎりが、こんなにも美味しかったことを
改めて実感したのである。
凛の目元から涙がこぼれる。
何で泣いてるのか、自分でも理由が分からない。
おにぎりが美味しかったからなのか。
それとも医者の手厚い看病からなのか。
思い返すと、物心ついたときから人に優しくされた
経験がなかった。
はたまた、猫が顔のすぐ側で丸くなって寝ている
せいかも知れない。
なんてここは、平和で居心地にいい場所なのだろうと。
死と隣り合わせの場所でしか、自分の居場所が
ないと思っていたのが嘘のようだ。
敵からの襲撃に対する緊張が解けたせいかも知れない。
凜は、自分の感情が理解できないでいる。
こんなにも胸が苦しくなる思いは初めてだったから。
とくかく涙を流しながら黙々と食べ続けるのであった。
風雷はそんな彼女を見て、何も触れず、
食べさせるのであった。
食事を終えると凜はすぐ眠りにつく。
今の凜にとって食べるだけでも相当の体力を奪う。
痛みと疲労から眠ってしまった。
風雷は、中断していた薬作りを再開させる。
♪シャー
しばらくして、猫が突然4本脚で立ち上がり、
入り口の扉を凝視する。
風雷は、猫から危険を察知し、懐に手を入れ、
短剣が数本あることを確認し、その1本を握る。
♪ドンドン。(扉を叩く音)
男「居るか?」
誰だ?緊張が走る。
♪ガラガラ(扉が開く音)
ー重「じゃまするぞ。」
長屋に住む、大工のー重であった。
手に何か持っている。
風雷は、緊張がほどけ懐から腕を出す。
風雷「なんだ。ジジィか。」
ー重「なんだはないだろう。失礼な!
せっかく人が美味しいもん
持って来たというのに。」
ー重は、奥の部屋に女子が寝ているのに気づく。
ー重「この女子はだれじゃ。
お主、めとったのか?」
ー重は、興奮して大声で叫ぶ。
凜は、この騒ぎで目を覚ます。
そして仲間が来たかのかと確認するも、
顔を拝見してがっかりする。
風雷「騒ぐ出ない。患者が起きたではないか。」
ー重「患者?病人か。」
ー重「お嬢さん。起こしてすまない。」
凛 「お知り合い?」
風雷「知らん奴だ。」
ー重「ひどくないか。」
風雷「手見上げは何だ?」
ー重「まんじゅう、買って来た。
沢山ある。お嬢さんも食べな。」
風雷「茶を沸かそう。」




