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第39話 覚醒

~~~~ 吉原 ~~~~~~~

時刻は()二つ時(AM6時)


刺された女子(おなご)を1人診療所に残し、

風雷は再び吉原へと戻って来た。

彼女は現在深い眠りについている。

もしかしたら気絶したままなのかも知れない。

まともに睡眠を取ってない様子。

その上、昨夜の大怪我である。

大量出血と激痛、睡眠不足。

生死のさまいもあり、疲労は計り知れない。

3日は起きないだろうと判断し、

置き去りにして来たという訳だ。


風雷は行きと同じルートを通って戻って来た。

そのため、表で監視続ける忍び連中には

風雷が一度抜けたことに気付かれてない。


風雷は裏口から入り、輪廻(りんね)()へと立つ。

そして、戸を開けるを一瞬ためらった。

果たして堵希(とき)は病に打ち勝てたのだろうかと。


♪トントン


風雷「風雷だ。只今、戻った。」

村隆「待っておった。入ってくれ。」


(ふすま)を開け、部屋の中へと入る。

風雷が一歩、足を踏み入れると、肩にいる猫が

ジャンプして、部屋の隅へいと移動し丸くなる。

風雷がどこへ行こうとも猫はお供し、

風雷の側から離れようとはしない。


堵希は目をつむり、仰向けのまま微動だにしてない。

生きてるのか、死んでいるのか、判別できない状況だ。

村隆は堵希の顔を覗く感じで、胸元であぐらを

かいている。


風雷「何か変化はあった?」

村隆「かなり苦しんだが、先ほど眠りについた。

   診てくれないか?」


風雷は、無言で首を縦に振り、それに答える。

村隆の言葉を聞く限り、堵希は生存してそうな感触だ。


風雷は、堵希を中心に村隆の反対側へと座る。

いつものように堵希の腕をとり、大きな口を開けて

腕にかぶりつく。


・・・


村隆「どうだ?」

風雷「喜べ。お主らの勝だ。案ずるがいい。」

村隆「左様か?」


堵希の体内にいる菌は全て死んでるのを確認できた。

あとは、毒と共に身体から出ていくのを待つだけだ。


村隆は診察を聞くまでは不安であった。

今の言葉で全身に張っていた力が解き放され、

同時に脱力感が襲ってきた。

堵希は長い時間苦しんだが、村隆もまた

見えない敵と戦っていたのである。


風雷「ああ。だが気は抜くでない。

   病が完全に身体から抜けるには1週間はかかるだろう。」

村隆「1週間?それまで何をすればいい?」


風雷「ここで大人しく安静にさせることだ。

   あと、無理にでも食事を取らせ

   体力付けさせるといい。」


村隆「それは容易(たやす)いこと。」

風雷「元気に歩けるようになると約束しよう。」


村隆「この度の件、世話になった。

   今はこれしか持ち合わせがない。

   受け取ってくれ。」


村隆は18両の小判を風雷へ差し出す。


風雷「それは不要だ。(ふところ)に戻すといい。」

村隆「これでも足りないと考えてる。

   受け取ってくれ。」


風雷「医者として当たり前のことしたまで。

   そもそも世話になったのは私の方だ。」


風雷は相馬の屋敷でのことについて触れている。

最大の手練れであった信忠(のぶただ)を村隆が倒して

くれたことに、風雷は未だに恩を感じている。


風雷「(それがし)が右腕を倒してくれたからこそ

   こうして生きながらえておる。」

村隆「大げさな!そもそもあの時、

   ワシは見捨てたとさえ感じておる。」


風雷「良いではないか。私が助けられたと言っておる。

   そのまま受け取ってくれ。

   それでもなお、何かしたいというのであれば、

   金ではなく、剣士として私にご助力願いたい。」

村隆「どこか殴り込みにでも行くつもりか?」


風雷「はは。予定などない。もしもの話だ。」

村隆「なるほど、いつでも言ってくれ。

   どの相手であろうと味方につくと約束しよう。」

風雷「それは大変頼もしい。

   ではこの件はそういうことで。」


風雷は立ち上がる。

猫はそれに反応し、風雷の左肩へと戻る。


村隆「帰るのか?」

風雷「ああ。私の出番はなさそうだ。」


村隆「すまん。わざわざ来てくれたのに。

   何もせんと帰ることになるとはな。」

風雷「私も安心できた。来て良かった。

   それと、薬は出さん。

   容態が悪化したら連絡をくれ。

   飛んで行く。」

村隆「有難く。」


村隆はあぐらのまま、両手を膝の上に乗せ、

深く頭を下げる。

風雷は村隆を背に部屋を出る。

そして、女将や女郎に挨拶をした後、

揚屋(あげや)正面口から外へと出たのである。

長い一日であった。

空の天気と同じく、風雷の気分は快晴であった。

しかし、人が少ない。

流石にこの時間帯は人通りが少ないようだ。

別世界へ来たような気分になる。

そんな風情に酔いしれながら、吉原を後に

するのであった。


~~~~ 診療所 ~~~~~~~

診療所で眠る1人の女子。

意識が覚醒し、ゆっくりと目を覚ます。

まったく見覚えのない天井に驚く。

現在の自分がどこにいるのか把握したいが、

腹部が痛たすぎて思考が追い付かない。

激痛の原因は刺されたところだ。


ちょっとでも身体を動かそうとする

ものなら激痛が走る。

寝返りさせできない有様だ。

そもそも気だるく、力がまったく入らない。

激痛がなかったとしても立ち上がれる自信がない。


女子の正体は、くノ一の(りん)だ。


凛は、状況を把握しようと周囲を見渡すも、

今どこに居て、なんで助けられたのか

さっぱり分からない。

少なくともここは、潜入していた揚屋(あげや)でない

ことは確かだ。

そして、庶民の家屋であることは確か。

人質として武田家に連れてこられたのでは

ないように思える。


凛は、記憶をさかのぼる。

武田の長男である経頼(つねより)から直接情報を

入手しようと揚屋に潜入した。

御指名の女郎のお供として部屋に同席する

ことに成功できた。


そして、御指名の女郎が踊りを披露してる

最中に、経頼に近づき酒を注いでるときに、

経頼の護衛に突然切りかかられたのである。

凛も短剣を取り出し、危機一髪で防いだが。

正面から経頼に、腹部を刺された。

そう、こちらから仕掛ける前に、

先手を取られたということだ。


瞬時に距離を取り反撃の体制をとるも、

無駄であることは理解していた。

この傷は致命傷だからだ。

なので敵は何もする必要がない。

黙ってれば勝手に死ぬのだから。

にらみ合いが続いた時に、侍が部屋に

入って来たところまでは覚えている。

そのあとは記憶がない。

おそらく気を失ったのであろう。


自分は生きている。

助けてくれたのはあの侍なのか?

ここは、あの侍の家はなのか?

そもそもこの傷は、手の施しようがなかったはず。

どうして助かったのか?


とにかく、最優先は殿に報告すると。

不意打ちしてきた経頼の護衛は、

損料屋(そんりょうや)の幹部である信広(のぶひろ)だ。

間違いない。

損料屋は剣に覚えがある者を集めている。

そこと、武田の長男とがつながった。

自分を始末しようとしたことからも(うなず)ける

関係があるのだ。


武田家なら資金力がある。

人を集めることなど造作もない。

損料屋の親分は武田の長男である可能性が高くなった。


この事をどうやって殿へ伝えるかだ。

だが、自分は身動きが取れない。

そもそもここに居て安全なのだろうか?

もし人質ならば、この身体で反撃することなど不可能。

となると選択肢は1つ、自害しかない。

着てる服は浴衣か。少なくとも自分の服ではない。

短剣も毒もないぞ。さぁ、困った。

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