第38話 暗殺指示
~~~~ 畠山城 ~~~~~~~
畠山城、謁見の間。
側近「殿!薬院の面々が御見えになられました。」
殿 「通せ。」
側近の忠輔が殿に声を掛ける。
客人である2人の男が登場し、すだれ越しに殿の御前に
ひざまづく。
すだれが上へとまくり上げられた。
側近「お連れしました。」
長1「元正院の長を務める長政で御座います。」
長2「養寿院の長を務める行栄で御座います。」
殿 「2人共、面を上げよ。」
元正院と養寿院は、畠山藩にある2大勢力の薬院だ。
薬院は主に薬の研究・販売を商売としている。
患者がいれば診察はするが、あくまで薬を売るのが目的だ。
そして、ここに居る2人はそれぞれの薬院のトップである。
長1「殿、ご無沙汰しております。」
長2「この度はお目に掛かれて光栄に存じます。」
殿 「珍しい組み合わせの顔ぶれであるな!」
2つの薬院は、普段敵対している。
トップであるこの2人が顔を合わせることはない。
初の出来事であった。
側近「2人揃ってとは、一大事であるな?」
長1「左様でございます。」
長2「事は急を要しております。」
側近「申してみよ。」
長1「桐生の所に風雷と名乗る医者がおりまして。
その者、病人から金銭をダマし取ってるであります。」
側近「それは誠か?」
長1「はい。
腕を噛んで診察するとか、煙を吸わせて
病気を治すなどデタラメなことをしております。」
殿 「腕を噛んで診察?」
長1「殿。誠であります。
受診者から直接お聞きした次第であります。」
側近「腕を噛んで病気を特定することなど可能か?」
長2「まさか。噛んだ部位ならまだしも、
他の怪我や病気が直接診ずに分かる訳がない。
そもそも噛んで何が分かると言うのだ。」
側近「一理ある。素人の拙者でも理解できる。」
側近「では、治療された患者は病気が悪化してると?」
長2「恐らくは。」
長1「聞いたところによると、患者は改善したと
誰しもが語っておるようです。
全ての病気など、治せる訳がない。
我々は、その偽医者が患者に暗示を掛けたもの
と推測している。」
側近「その者は、どちらの薬院に所属しておるのだ?」
長1「どちらも属しておりませぬ。」
側近「医者を名乗っておると?」
長1「左様でございます。
何の資格もなく医者を名乗ってる次第。」
殿 「かなりの悪質と見受けられる。」
長2「ご理解頂けてうれしゅうございます。
問題なのが、桐生全土にまで診察範囲を
広げているのです。
今や吉原で荒稼ぎしておる事態。」
長1「吉原は流石に見逃せぬ。
もし人に感染するような病が、誰にも
知られることなく野放しにでもされてた
なら、藩全土に病が蔓延することになるかと。
かなり危険な状況であると存じます。」
側近「なるほど。
それで急を要してここへ来たのであるな?」
長1「左様でございます。」
側近「今一度。その者の名はなんと?」
長1「風雷に御座います。」
側近の顔が険しくなる。
側近「その者を調べる必要がありますな。」
長1「少しでも役立てていただければと、
手見上げを持参致しました。」
長1は風呂敷に包まれた重箱を差し出す。
重箱の中には1千両の小判が入っていた。
長1「調査にお使い頂ければ幸いです。」
殿 「これは由々(ゆゆ)しき事態。
進めるととしよう。」
側近「殿のご決断が出た。
その願い、聞き届けるとしよう。」
長1「寛大な御措置に感謝いたします。」
長2「感謝いたします。」
2人の長は頭を下げる。
側近は、差し出された重箱を手に取る。
側近「殿もああ言っておられる。
風雷と名乗るその者は危険な存在。
至急事実確認をし、
しかるべき対処を取ると約束しよう。」
長1「宜しくお願い致します。」
長2「宜しくお願い致します。」
2人の長は、側近を正面にして頭を下げる。
そして、この場から立ち去った。
2人の長が見えなくなるのを確認し、
側近は殿へと話しかける。
側近「殿!只今の医者ですが。」
殿 「風雷と言ったか。」
側近「はい。
お忘れなさっておられるかも知れぬが、その者は現在、
忍びにて相馬襲撃の容疑者として
調べさせる所。」
殿 「ほう!それは都合がよいではないか。」
♪コンコン
襖を叩く音がする。
側近「殿、お待ち願う。」
側近は、襖を少し開けると、反対側の廊下に
内通者が立膝で待機していた。
側近は耳を近づけ、三言会話を済ませ襖を閉める。
側近「殿。風雷を調査させている仁が参りました。」
殿 「これはまた好都合であるな。通せ。」
忍びである仁の登場だ。
側近「只今、其方の話をしてたところ。
良きところであった。」
仁 「は!調査報告に参った次第であります。」
仁 「まずは、井口殿から。
聞き込みをしておるのですが。」
側近「見つからぬと。」
仁 「左様です。国外に出た可能性が高い。
引き続き調査を続けます。
今回の調査によって知りえたのだが、巷で
帝を名乗る者が現れております。」
側近「殿より上だと?なんと無礼な。
そ奴は何者だ。」
仁 「分かりませぬ。
居場所を見つけ次第、お縄に掛ける所存。」
側近「ふむ、頼む。」
仁 「次に風雷殿ですが医者というのは自称のようです。
特に資格を持っておらず、誰やの推薦もない。
また師もいないようです。
独学で身に付けた医療技術のようで、
一風変わった治療法を取るようです。」
側近「聞いておった人物像通り。続けよ。」
仁 「妻と子はおらず。猫を一匹飼っております。
活動範囲は相馬領内全域。
まぁ、全域と言っても金持ち相手の稼業。
患者は20人程度であります。」
側近「そ奴を引っ捕らえることは可能か?」
仁 「役人にですか?」
側近「もちろん。」
仁 「それはおすすめできません。」
側近「何故じゃ?」
仁 「彼の治療法は変わっておりますが、
不思議なことに病は改善しておられます。」
側近「それは一部の患者であろう。
自然に治癒したのでは?」
仁 「それが驚くべきことに、全ての患者が
完治または回復してるとのこと。
薬院がさじを投げた患者ですら
回復しております。」
側近「患者が暗示に掛けられてると噂に聞くが。」
仁 「事実かも知れません。
ですが、元気に仕事を再開した者を
この目で拝見した。
暗示だとしても治癒できたのは事実。
治療法は正しかったと言えるかと。
そして、彼は町の民に愛される。
先代および現領主ともつながりが
あるようですし。
理不尽な捕らえ方をすると暴動に
つながる恐れがあると進言致します。」
側近「左様か。
だが、無許可でやっておるのだろう?」
仁 「間違いありません。
ですが、患者には隠すことなく全てを
伝えた上で治療を行っておるとのこと。
友人が風邪には喉にネギをまくとよい。
と助言してると同じようなもの。
料金も薬院の半値以下のようですし、
なんの問題もないかと。」
側近「さて、これは困ったぞ。」
仁 「如何されたか?」
側近「風雷が目障りと申す者がおる。」
この発言で、仁は薬院連中が縄張りを荒らされ
風雷を排除するよう懇願して来てると察した。
側近は、殿の顔を見る。
殿は無言で小さくうなずく。
側近「では仁!勅命を持って命じる。
風雷を暗殺せよ。」
仁 「御意。」
仁は、殿を正面にして深く頭を下げる。




