第35話 梅毒治療
~~~~ 吉原 ~~~~~~~
一夜明け、風雷は村隆が通う
揚屋へと再び戻って来た。
女中「お医者様、お待ちしておりました。
村隆様もお見えです。」
風雷は頭をゆっくりと縦に振る。
女中「猫さんもいらっしゃい。」
女中は風雷の肩に乗る猫を見て
ご機嫌の様子。
そして、女中の後を付いていき
昨日と同じ輪廻の間へと来る。
♪トントン
女中は廊下で正座をし、木の襖を叩くと
中の者へと声を掛ける。
女中「村隆様、お医者様がお見えになられました。」
村隆「中へ入られよ。」
女中は襖を空け、風雷が中へと入るのを
見届けると、襖を閉め、この場を去った。
村隆「よう、悪いな!」
堵希「私のために、ご足労頂き
ありがとうございます。」
風雷「礼にはおよばん。
私は医者だ。当然の事、してるまで。」
風雷「名を聞いておらんかったな。」
堵希「堵希と申します。」
風雷「堵希か、良い名だ。」
風雷は村隆の方へ顔を向ける。
風雷「昨夜は付き添っておったのか?」
村隆「ああ。何度か離れたが診ておった。
薬を飲んだ後、少し熱は出ておったが
大した事はなかったぞ。
特に変わった様子もない。」
風雷「左様か。では診察するとしよう。」
風雷は、堵希の側であぐらで座る。
猫は、彼の肩から飛び降り、丸くなる。
堵希は猫の行動を見て笑みを浮かべた。
風雷はそんな堵希の表情を見逃さなかった。
そして、少し安堵する。
風雷は相棒の猫が居てくれて、
心から感謝している。
戦闘で頼りになるし、こうして周囲の
癒しにもなるのだから。
風雷は彼女の腕を取り、いつものように
大きな口を開け、やさしく噛む。
・・・
風雷の顔が芳しくない。
村隆はそんな風雷の顔を見て察する。
風雷「村隆殿。外で話をしたい。」
村隆「治療についてだろう?
ならここでいい。
堵希にも聞いてもらいたい。」
風雷「左様か。」
村隆「もし治せないなら、楽に死なせて
やりたい。
それも兼ねて、ここで話そう。」
村隆から衝撃的な発言が飛び出した。
殺すだなんて。
前々から2人で話し合ってるのだろう。
彼女も同じ決意のようだ。
風雷「ふむ。お主らの意思を受け取った。」
風雷「では結果から話そう。
昨日の薬は微塵も効いてない。
すなわち、分量を増やしたところで
効果は望めないということだ。」
村隆「(薬の)量を増やしてもダメなのか。」
風雷「ああ。具合を悪くするだけだ。」
村隆「理解した。治せないということだな?」
風雷「いや、他に方法が無い訳ではない。」
村隆「紛らわしいな。あるのだな?」
風雷「枯蛾の毒を使う、という方法だ。
念のため持参した。」
村隆「毒?」
風雷「ああ、毒だ。口にすれば当然死ぬ。
梅毒という病は細菌だと説明したな。
枯蛾は、その菌をも殺す。」
村隆「なるほど、少量を飲ませるのだな?」
風雷「そうだ。だが、少量でも毒は毒。
口にしたら嘔吐、下痢、発熱が数日続く。
今の体力を考えると、何度も使えん。
1回で決める必要がある。」
村隆「理解した。死ぬぎりぎりの量を
飲ませるのだな。」
風雷「ああ。推測通り。」
村隆「それで頼む。」
風雷「8割方、死ぬぞ。
成功する可能性は低い。」
村隆「どうせこのままでも死ぬのだ。
可能性があるなら試すまで。」
風雷「浅はかだ。
体力が持つかも関係してる。」
村隆「承知のこと。
もし死んでも恨まん。やってくれ!」
風雷「堵希殿の意見も聞きたい。」
堵希「村隆様と同じ思いでございます。」
猫を眺めていた堵希が急に話を振られ
風雷に目線を移動して即答する。
風雷「誠か?
堵希殿が望むのであれば
実施するまでのこと。」
村隆「1つ聞く。薬の分量は
どのようにして決めるのだ?」
風雷「少量を飲ませて様子をみる。
毒の効きを見て追加で飲ませる。
3、4回飲むこととなるだろう。」
村隆「安心した。
1発勝負でないならば問題ない。」
堵希「村隆様?
村隆様と出会えて堵希は幸せでした。」
堵希の目から涙が溢れだす。
村隆「堵希!
死ぬと決まった訳ではない。
延命するため、こうして医者がおる。
医者に対して失礼であるぞ。」
風雷「病は気から。
そのような心情では助かるものも
助からん。」
村隆「良いことを言う。
ワシは助かると信じとる。
堵希も信じるのだ。」
堵希「はい。」
風雷「数日。つらい思いをするだろう。
だが、それは身体が病と戦っておる証拠。
堵希殿も気持ちで負けてはならん。」
堵希「はい。」
風雷「世話は村隆殿がするのか?」
村隆「ワシがする。」
風雷「女中に任せた方がよかろう。」
村隆「誰もやりたがらん。
そもそも、この部屋に入らんしな。
ハハハ。」
風雷「そうか。では始めるぞ。」
村隆「頼む!」
風雷は薬箱から枯蛾の粉を取り出し
堵希に飲ませた。
するとどうだろう。
飲んですぐに副作用が現れ出す。
堵希「うー-。」
風雷「気持ち悪いだろうが、
吐くのだけは今は耐えろ。
飲んだ毒を全て出してしまう。」
堵希「ヴッ。」
彼女には辛すぎた。
耐えきれず嘔吐してしまった。
風雷は腕を噛み、体内の状況を確認する。
風雷「ほとんど(毒を)出してしまったようだ。
もう一度飲ませる。」
・・・
吐いては毒を飲ませるを数回繰り返し、
堵希は一時(2時間)苦しんだ。
そして精神が限界に達したのだろうか。
眠りについた。
村隆「生きとるのか?」
風雷「ああ。意識を失ったようなものだ。
直ぐに暴れ出すであろう。」
村隆「生きとるならよい。」
女性「キャーー!!」
女性「キャーー!!」
男性「くせ者だ!」
何やら外が騒がしい。
村隆が天井を見る。
どうやら真上の部屋のようだ。
村隆「こんな時に何事。」
村隆の顔が険しい。お怒りのご様子。
堵希の生死が掛かってる時に
騒ぎが起きたからだ。
村隆「お主は堵希を診ててくれ!
ワシが上の様子を見てる。」
風雷「任されよ。」
村隆は、刀を手に取り部屋を飛び出した。




