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第32話 女郎

~~~ 商店街 ~~~~

風雷は荷物を持ち商店街を歩く。

すると、いつもにぎわっている団子屋に目がいく。

珍しく客が誰もいない。

風雷が団子屋の前で立ち止まる。

店主は店内で丸い餅を串にさし、仕込み中のご様子だ。


風雷「よう!」

店主「いらっしゃい。」


店主は振り向く。


風雷「旦那(だんな)かよ!」

風雷「景気良さそうだな。」


店主「じゃましに来たか?

   猫の手も借りたいくらいじゃよ。

   そこの猫、貸しやがれ!」

風雷「こ奴(猫)は役に立たん。

   他をあたれ。」


風雷「いつものお礼にこれを持参した。」

店主「おう。何だい、これは?」


四合瓶の酒を手渡し、店主は受け取る。


店主「多々(たたの)。ところの大吟醸(だいぎんじょう)じゃねぇか。

   高かっただろう?」


多々野とは、診療所の近所にある酒蔵のことだ。

巷で有名な酒蔵である。


風雷「そいつはもらい物んだ。

   私は酒を飲まぬゆえ、いつものお礼だ。

   気にするな。」

店主「そうかい。なら美味しく頂くとしよう。」

風雷「邪魔したな。」


店主「帰りにでも寄ってけ。

   団子、たらふく食わせてやる。」


立ち去り際に店主が言葉を掛けると、

風雷は店主に背を向けた状態で右手を上げ

『分かった』と合図してこの場を離れる。


女 「ちょっと手を放してよ。」

男1「貴様何者だ?」


にぎわう商店街を歩いてると、目の前の隅で

もめ事が起こってるご様子だ。

どうやら男3人で女1人を囲んでる。


男は3人とも刀をぶら下げてはいるが、

身なりから武士には見えない。

ごろつきだろう。

対する女性は、小柄で若い女子(おなご)であった。


男1「なぜ俺等を見張ってた?」

女 「はぁ?あんたらに興味ないわ。

   勘違いしないで!」


女は男3人に動じない。かなり強気だ。

人通りが多く、注目され出し始めてることから

風雷は関わりたくないと考えていや先、

女性と目が合ってしまった。


女 「助けてぇ!」


この言葉に3人の男は彼女の目線の先を見る。

風雷であった。


『今日は最悪だ』と心の中で叫ぶ。

こうなったら風雷も逃げられない。

腹をくくることにした。


風雷「女子(おなご)一人に3人で押さえつけて

   恥ずかしくないのか?

   腕を放してやれ!」

男1「貴様には関係のないこと。立ち去れよ。」


風雷「ああ。関係ない。だが見過ごせん。」

男1「邪魔をするなら切るぞ。」


残り2人の男が刀の(つか)に手を添え、

戦闘態勢を取る。

この騒ぎにさらに人が集まりだした。


人々の注目に動揺したか、男1は握る女の腕を

ゆるんでしまった。

女はそれを感じ取り、振り払って男の間の手から逃れる。

そして、瞬く間に人込みの中へと逃げて行ったのだ。


男1「くっそ、覚えてやがれ!」


男は風雷に向けて暴言を吐く。


男1「行くぞ。」


3人の男は、何食わぬ顔でこの場から去った。

関係のない風雷だけが取り残される。


♪パチパチパチ


周囲から拍手が鳴る。


周囲「あんた勇敢だね。」

周囲「ほんと怖くなかったかい?」

周囲「ひどい連中だな。」

周囲「ああいう連中を野放しにしてはいかん。」


ごろつきが居なくなると周囲は急に

威勢がよくなる。


風雷はいたたまれなくなり、苦笑いしながら

この場を去った。


~~~ 吉原 ~~~~

時は(とり)一つ時(17時)

ここは吉原。酒と女と賭博の町である。

唯一、女遊びと博打が国として認められた区画だ。

立ち上げ当時は役所で認めてもらえなかったが、

先代の相馬領主が殿へ直訴し権利を勝ち取ったのである。

現在は桐生が引き継ぎ管轄下となっている。


女郎1「お医者様~」

女郎2「お医者様~」

女郎3「お医者様~」

女郎4「お医者様~」

・・・


格子越しに多くの女郎(じょろう)から声を投げかけ

られる人物がいた。

その人物とは風雷である。


一般的には喜ばしいことなのだろうが、当の本人は、

こんな場所で目立ちたくないと願ってる。

平常心を保ち自分は無関係であることを装っている。


周囲の男どもは誰の事を指してるのか見渡すも

人が多すぎて判別できない。

だが1人だけ特定できた人物がいた。

医者という言葉と街中を歩く野郎どもの顔を見て

察したのだろう。

その者は風雷の側へ近づき、真横を並走する。


村隆「旦那、女郎に大人気だな。」


風雷は声を掛けてきた男の顔を見て驚き立ち止まる。


風雷「お主、あの時の!」


その者は村隆(むらたか)であった。

風雷にとって彼とは2度しか会ってない。

会話はほとんどない。

しかし、その2度は衝撃的な出会いであったため

2人にとって忘れられないものとなっていた。

1度目は、毒にやられ倒れてるところを助けた。

2度目は、相馬の屋敷だ。

手練れの信忠(のぶただ)を倒して加勢してくれた。


風雷「かたじけない。相馬では世話になった。

   (それがし)があの場に居合わせなければ

   私は今ここに、おらんかっただろう。」


村隆「礼を言いたいのはワシの方だ。

   治療を施さなければ、今ここで立って

   られないのはワシだからな。

   逃げるよいうに姿を消したのはすまない。

   こうして再会できたのは喜ばしいこと。」

風雷「そうだな。

   相馬では生きて帰らぬ覚悟でおったからな。」


村隆「だが、連れの女子は残念であった。」


連れの女子とは沙樹(さき)のことである。

村隆が見たときは既に沙樹は死んでいた。

だが村隆は、そんなことなど知らない。

号外か人伝えで、亡くなったことを知ったのだろう。


風雷「左様だ。がしかし領主の首が取れた。

   無念はない。

   あとは彼女の分まで生きるまでのこと。」

村隆「ならば何も言わん。」


村隆「話は変わるが、新人の医者がどんな病気でも

   治すと話題となっておるのをご存じか?

   まさか旦那だったとはな。」

風雷「どんな病気も直すは言い過ぎだ。」


村隆「1人、診てもらいたい女郎がおる。

   謝礼は倍出す。

   時間が空いた時でいい。お願いしたい。」

風雷「案内してくれ。今から診よう。」


村隆「かたじけない。」

風雷「治せるかは約束できんぞ。」


村隆「無論。まづは診て頂けるだけで満足。」

風雷「では参ろう。」


村隆と風雷は、ある揚屋(あげや)へと入る。

中は意外と広く、廊下を渡って2階の奥部屋へと

向かった。


中へ入ると、布団が1つひいてあり、

1人の女性が腕を出して寝ていた。

風雷は、症状を見ただけで理解した。

腕から肩に掛けて無数の赤い斑点があったからだ。

おそらく全身に斑点があるものと推測される。


梅毒だ。

そして症状は重い。中期か後期に違いない。

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