第31話 朝食
~~~ お食事処 ~~~~
風雷は、久しぶりに桐生のお食事処へ来た。
店の前に立ち深く一呼吸する。
沙樹が亡くなってから一度も来ていない。
決して、沙樹を思い出すから、食べに来なく
なった訳ではない。
食事を取る必要がないのが理由だ。
沙樹が居た頃は、毎日おもてなしするもの
だから、無理やり通ってはいただけだ。
風雷にとって食事は人の血のみ。
それ以外は味覚を味わうだけの物であって
腹を満たせる物ではない。
だが、久しぶりにこの店に来ると何か
込み上げて来るものがある。
何とも不思議なものだ。
いやいや通っていたはずなのに、今は
沙樹のおもてなしを受けたいと願っている。
彼女のご好意によって、活力がみなぎって
いたのだと気付かされた。
風雷は店の中へと入る。
ー重「よう!お前さん。」
風雷「あんたか!」
一爺と呼ばれ、沙樹と仲が良かった
長屋に住む爺さんが、声を掛けてきた。
ー重「とりあえず、こっち座れ!
お前さんもあれだろう?
この店が潰れっから来たのじゃろ?」
風雷「まぁ、そんな感じだ。」
風雷「爺さん、最近見かけなかったが
生きておったのだな。」
ー重「現場で寝泊りしてて、昨日帰って
来たころじゃ。
人を勝手に殺すな!」
風雷がー重の向かいに腰かけると
肩にいた猫が飛び降り、テーブルの片隅で
丸くなる。
ー重は猫に向かって変顔するも
猫には興味がないようで無反応であった。
店員が風雷に気付き注文を取りに来る。
凉 「風雷様。ご来店嬉しいです。
本日でこの店は最後なんですよ。」
風雷「そのようだな。」
ー重「寂しのう。
ワシはこれからどこで飯を食えば
いいのやら。」
風雷「自分で作れ!」
ー重「厳しいこと言うねぇ。」
何とも懐かしいやりとりに
自然と3人に笑みが生まれる。
凉 「その節はお世話になりました。
こうして働けてるのも風雷様の
おかげです。感謝してます。」
風雷「人として当たり前のことを
しただけのこと。
むしろ、凉殿の笑顔で元気を
もらっておったぞ。
感謝してるのは私の方だ。」
ー重「ワシもじゃ。
他の女史さんにも感謝しとる。」
凉 「お店をたたむ訳ではありません。
吉原のところへ移動することに
なったのです。」
ー重「へぇ。
あんな破廉恥な場所で食事ねぇ。」
凉 「はい。
皆さんも是非いらしてください。」
風雷「最近、あの一帯で診察回りをしてる。
通りかかりの際には顔を出すと
しよう。」
ー重「診察って、売り子か?」
風雷「そうだ。」
ー重「あそこらの娘達を見てるのか?」
風雷「そうだと言ってる。なんだその目は!」
ー重「うらやましい。
あーあ、やってらんねぇ。」
風雷「私は医者だ。あんたと一緒にするな。」
ー重「まだ何も言っとらんだろう。」
風雷「言わずとも分かる。紫爺が!」
ー重と風雷が会話する中、凉は猫を見つめ、
大きくあくびをする猫の頭をなでる。
2人組の男性が来店してきた。
凉が即座に対応する。
凉 「お好きなところに御掛けください。
只今、ご注文に伺います。」
言い終えると、風雷へと顔を戻す。
凉 「何をお召し上がりになられますか?」
風雷「すまない。邪魔したな。」
凉 「滅相も御ざいません。
おソバと天ぷらがおすすめです。
今日は特別な日ですので、
無料でご提供致します。」
ー重「ええ!ワシは?」
風雷「あんたは3倍払え。
この店に感謝しておるのだろう。」
ー重「それとこれは話が違う。」
風雷「では、おすすめを頂くとしよう。」
凉 「受けたまわりました。」
凉は一礼すると、先ほどの来店した
客へと接客に向かう。
♪ズルズルズル
ー重は、うどんをすする。
ー重「景気よさそうだな。」
風雷「ああ、幸いなことに
人伝えで客が増えてる。
有難いことだ。」
風雷は、客が増えることで儲かる
ことよりも、診察という名目で食事が
取れるので大変重宝している。
特に吉原とつながりが持てたのは大きい。
若い女子の血が接種できる。
そして、深夜に血を求めて出向く必要も
なくなった。
ー重「神を超えた技量で不死の病をも
完治させる超人ですからな。
そりゃ紹介するわ。」
風雷「おいおい。あんたかい。
適当な事、言いふらしておるんは?
さすがに不死の病は治せん。
頼むからやめてくれ。」
ー重「そうかい。
先生の偉業を広めたいんだが。」
風雷「迷惑だ。」
ー重「怒るなよ。へいへい。
分かりやした。」
♪ズルズルズル
ー重「話は変わるが、どうしてこの屋敷
売り払うと思う?。」
風雷「ほう、ここを手放すか。」
ー重「知らんかったか?
どこかの武家が購入したって噂だ。」
風雷「そういうことに興味ないからな。」
ー重「おかしいと思わなかったか
今日でこの店が終わるのが。」
風雷「特には。
人が減って在り余してるからな。
売ってもおかしくないだろう。」
ー重「そうなのか?
思い出もいろいろとあるだろうに。」
♪ズルズルズル
ー重は猫に目が行く。
猫はおとなしく自分の手を舐めている。
ー重「黒猫元気になったな。」
風雷「いつの話をしてるのだ。
毒事件のときから元気だったぞ。」
ー重「おお。確かにな。
毒を食らったのに暴れてたもんな
思い出したわ。
よくそこまでなついたものだ。」
風雷「私も驚いてる。
調教して失敗したのだが、放置
してたらいつのまにかなつかれた。」
ー重「猫は人にはなつかんからな。
やはり超人だからかも知れんな。」
♪ズルズルズル
ー重「飯食った後は、薬作りか?」
風雷「いや。吉原へ出向く。
今日は40人ほと診ないといけない。
大変な1日になりそうだ。」
ー重「ワシ、今日は休みだ。
助手として付いて行く。」
風雷「来んな!」




