第30話 決断
~~~ 桐生の家 ~~~~~~~~~~
ここは桐生の屋敷。
応接間にて密談する二人の姿があった。
久清「時谷殿。
やはり追加徴収するしか手が在りませぬ。
ご決断を!」
時谷「いや、それはできん。」
彼らが話題にしているのは畠山藩への年貢の徴収
方法についてであった。
納める時期は2週間後。
なぜ、この時期にあわてているかというと、
相馬での残虐事件が発端となっている。
相馬の領主および家系が殺害された、
右腕となる家臣までもがお亡くなりとなった。
相馬を受け継ぐ者が絶えたことから、
藩主の命により相馬領を解体することに決定。
それに伴い、隣接する桐生領と土岐領の領主が呼ばれ
相馬の領地について配分の話し合いが行われることに。
桐生、土岐共に貿易の拡大や税収増により領土を
拡大したいところではあるが、反面、四半期の年貢
納付時期が近いという問題が決断を悩ませる。
本来ならば領土の比率に合わせて、蓄えを配分する
ところなのだが、相馬の金蔵は空だったという。
おそらく相馬領が解体となった本当の理由は
蓄えが尽きたことによるものと想像される。
このまま相馬領を残し、他の者に引き継がせたと
しても納付は期待できない。
そこで政府は、桐生と土岐に泣いてもらうこと
にしたのだろう。
桐生、土岐共にそれは承知の上であった。
なので相馬領の配分については、前代未聞の
譲り合いが行われることに。
結果、半々の領土を引き取ることで合意した。
時谷「相馬の方々は元々年貢の利率が高かった。
更に徴収ともなれば死ねと通告するようなもの。
それは出来ん。」
久清「理想で政は成り立ちませんぞ。」
時谷は、尚隆の後を引継ぎ領主となっていた。
久清は、番頭となり時谷の片腕を務めている。
時谷「追加徴収をしたら民衆が騒ぎを起こす
やもしれん。」
久清「それではどうするのです。
手がありませんぞ。」
時谷「困った。」
久清「土岐の方はどうされるのだろう?」
時谷「うちと違って税収が高い。
貯えがあるのでは?」
久清「なるほどな。とは言うもののだ。
無い袖はふれない。
どこからも金は借りたくはないしだ。」
時谷「左様だ。どこから借りようと借りたら
自由が利かなくなる。それは避けたい。」
久清「時谷殿。八方塞がりですぞ。」
・・・
久清「尚隆殿や沙樹殿には申し訳ないが
麻生の資産を売るのはどうだろうか?
この掛け軸とか、裏山とか
高く売れそうではないか。」
時谷「そうだな。
この屋敷も含めて全て売り払おう。」
久清「いやいや。時谷殿、冗談ですぞ。」
時谷「わかっておる。だが私は本気だ。」
久清「待たれよ。確かに売れば金は作れる。
だが、それは今回だのこと。
長期的に見ればなんの解決にもなっておらん。
そもそも次回はどうなさるおつもりか?
売るものなど残ってないぞ。」
時谷「久清殿の言う通り。
屋敷内の物を売ったところで一時しのぎにすぎん。
領地内の商いはそう簡単に大きくならない。
あるならとっくにやっている。
他の領地との貿易を拡大するにも我が領地には
売り買いする物がそもそもない。
だとしたら、外の人間をうちに呼び込み
お金を落としてもらうしか手はない。」
久清「はぁ。観光事業でもはじめるのですか?」
時谷「いや。女と賭博の町、吉原だ。あそこを使う。」
久清「待たれよ。ごろつき連中のたまり場で、治安が悪く、
民の風紀が下がると言ってたばかりではないか。」
時谷「ああ、つい先ほどまで潰す気でいた。
だが、方向転換だ。」
久清「ですが、尚隆殿は好ましく思わないかと。」
時谷「正論では何も解決しない。
人々が快適に暮らせる町作りをする。
これが先代の目標でもあり私が受け継いでいる。
目標さえ見失わなければ過程はいい。
だから、しばらくは吉原を主体とした商いにし、
桐生領の目玉とする。
これしかない。」
久清「領主殿がご決断したのであれば、
私は従うまでのこと。」
久清「では手始めに、吉原のごろつき連中を
一掃すればよいか?」
時谷「いや、その者を追い出したところで、
別の場所へ移るだけのこと。
商店街にでも流れて来たら最悪だ。
なので、奴らには喧嘩や犯罪を取り締まる
吉原の番人になってもらう。」
久清「あの連中が我々に従いますかね?」
時谷「うちから金を出す。
評価制で支払えば前向きになっやるのでは?」
久清「なるほど。ですが、お金を集めるために
連中を使って支払ったのでは意味ないかと。」
時谷「たしかに本末転倒だな。
なので吉原の区画だけ、税収は相馬のままとする。
以前と税収が変わらんのなら文句は言わんだろう。」
久清「差額の税収分を連中の給与とするのですね。」
時谷「そうだ。」
久清「本件、武田家に任せてもよろしいか?
武田家はあのような無法者との交渉や
扱い方を心得ておりますので。」
時谷「人選は任せる。」
久清「かしこまりました。
では早急に話を進めます。」
時谷「そうと決まれば。まづは目先の金だ。
麻生の資産を洗い出す。」
久清「手形、担保、伝票を一通りかき集めます。」
~~~ 桐生家:厨房 ~~~~~~~~~~
日が変わり次の日。
厨房に2人の板前と3人の女史が集められた。
要するに使用人全員である。
時谷領主からお話があるとのことだ。
時谷が現れてそうそうに、藩へ納める年貢が
足りてないという衝撃な事実が告げられた。
その銭を捻出するのに、桐生家の資産を売りさばく
とのことであった。
時谷「という訳で、この屋敷を手放すことにした。
皆さんは心配ご無用。
あなた方、全員を雇うことを条件に売りに
出すので、路頭に迷うことはさせない。
これは誓う。
屋敷を売り、ここで皆さんとお別れするのは
不本意ではあるが、苦渋の決断だと
ご理解して頂きたい。」
奈衣「時谷様。大変心を痛たまれたことでしょう。
このお屋敷を売りたくないのは時谷様が
一番のはず。それを決断なされた。
私は支持致します。」
板前1「先代がお亡くなりになって、わしらが
必要ないのは感じてる。」
時谷「いやそんなことはない。
お店もあるし、助かってる。
女史のみなさんも同じだ。感謝してる。」
時谷はゆっくりとしゃがみ、両ひざを付く。
両手を床に置き土下座をした。
時谷「皆には申し訳ない。
先代にも顔向けができない。
私は無能だ!
こんな方法しか思いつかなかった。
ののしってかまわない。」
奈衣「時谷様。頭をお上げてください。」
その場の全員もしゃがみ、時谷と目線を合わせる。
咲愛「そうです。時谷様は努力されました。
皆、そのことを知っております。」
凉 「私たちの方が力になれず。
謝るのは我々です。」
板前2「時谷殿。わしらを側でお使いさせて
いただけないだろうか?
給与はいらねぇ。
店さえあれば、自力で食っていく。」
板前1「私からも頼む。」
奈衣 「時谷様。私からもお願いします。」
全員が、頭を下げる。
時谷「外の店を残したところで、
ここの全員が食っていくのは難しいぞ。」
凉 「客引きでも何でもします。」
咲愛「そうだよ。何とかなるよ。」
時谷は考える。
沙樹と旦那様の着物を全て売るだけでも相当な
額が入る。
そして、この屋敷を売れば大分余裕が生まれる。
時谷「桐生領が安定するまでは、私は吉原を
活動の拠点にするつもりだ。
みんなも付いて来てくれないか?
金持ちやお偉いさん用の宴を専門
とした商売が成り立つやも知れん。
味には自信がある。どこにも負けない。
どうだろう?」
板前1「ああ。あそこでどんな食いもんを
出してるか知らんが、うちらが食材を
選んでいいのであれば、客の舌を
うならす自信はある。」
時谷「決まりだな。忙しくなるぞ。
皆に約束する。
必ずこの屋敷を買い戻す。
それまで付いて来てくれ。」
凉 「ご安心ください時谷様。
屋敷に戻ってきても時谷様に付いて
参りますので。」




