表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/64

第25話 後始末

~~~ 相馬庭 ~~~~~~~~~~

相馬領の領主は、沙樹の手によって死亡した。


風雷「父上の仇はとれたな。」


風雷は沙樹に語り掛けるも無表情で返答はない。

そんなことは風雷自身がよくわかっている。

だが、語らずにはいられない。


風雷「終わってみれば、あっけない結末だ。

   これでよかったんだよな?」


もし沙樹が生きていたなら何と答えただろうか。

ここまでする必要はないと返答したことだろう。

彼女はそういう人だ。

風雷は無言の沙樹を見つめる。


そして、仰向けに倒れる男へと目線を戻す。

確実に死んでることを再確認する。

怒りのあまり、ここまでやってしまったが、

冷静に考えると殺した相手は領主だ。

もし役人にでも知れたら、お尋ね者となり

死罪は免れない。

ことの大きさに、今更とんでもないことを

仕出かしてしまったとに動揺する。


風雷「急いで帰ろう。」


沙樹の手を握り、引っ張るようにして

廊下を渡り、元の庭へと戻る。

庭に出ると、至る所に死体が転がっている。

周囲には血が散乱しており、争いの大きさが伺える。

そこを無表情の人形がゆっくりと徘徊する。


風雷(お前達、ご苦労であった。

   もういい。安らかに永眠せよ。)


風雷が念話で周囲に伝達すると、

人形どもはその場に倒れた。

沙樹も例外ではない。

足元から崩れたところを風雷が支える。


と同時に信忠(のぶただ)の死体が

転がっているのが目に止まった。

信忠の刀を奪い、(さや)へ戻す。

この刀を利玄どものところに置いとけば

山道の悲劇は信忠の仕業であると

気づくだろうと風雷は考えた。

その刀を腰に装着する。


続けて、沙樹をお姫様だっこする。

持ち上げて風雷は感じた。

彼女はこんなにも軽かったのかと。

猫は定位置である左肩に乗る。


屋敷の中には、まだ生存者がいる。

少なくとも女中と板前は、この騒ぎで

どこかに隠れているはずだ。

もしかしたら用心棒の生き残りも居るかもしれない。

だが、それでいい。目的が達成できたのだがら。

余計な血は流さなくていいと思っている。


風雷は沙樹を抱えたまま外へと出る。

時は夕暮れ。外には人影はない。

なんと殺風景なところだろうか。

桐生とはえらい違いである。

その情景を見て、風雷は改めて何も考えずに

行動していたのだと反省する。


屋敷へ入る時もそうだが、もし近隣住民にでも

見られたりしたら密告されるのは間違いない。

そうなると自分も終わりだ。

いや、この場合は沙樹に不名誉な肩書がついて

しまうことになる。

そうなったら、沙樹に申し訳がない。

商店街の連中にも悲しませることになる。

この仇討ちを無駄にしてはならない。

風雷は逃げるようにしてこの場を立ち去った。


だがこの時、頭と両腕が垂れ下がった沙樹を抱えて

屋敷から出るところを遠くから目撃していた者がいた。


目撃者「あのやぶ医者め。なぜ相馬におる?」


どうやら風雷のことを知っている人物のようだ。

風雷はというと、見られることを知るよしもなく

茂みの中へと消えていく。


これから向かう先は沙樹が襲撃されたところ。

そう、来た道を逆戻りするのだ。

沙樹は死んだ。

このまま沙樹の家へ持ち帰れば、風雷が殺害した

と疑われることになる。

かといって、その辺に埋葬でもしたら行方不明者

となり永遠に見つからないことになるだろう。

沙樹は、愛された住民たちに見送られるべきだ。

そう考えたら殺された場所へ戻すのがいいという

結論に至る。

あと、刀を置いて信忠の仕業であることも

やらなければならない。


風雷は薄暗い森林の中、猫を先頭に

その後を付いて道なき道を歩く。

沙樹の亡骸を抱え、今までの行動を振り返った。


頭に血が上ってここまでやってしまったが

これは本当に沙樹のためだったかの疑問が出てきた。

どうして、ここまでやってしまったのか。

沙樹のことを好いていたからの騒動か自問するも

答えはでない。

沙樹を好きか?嫌いか?と問われれば、好きだ。

だが、それは恋なのか?と問われればわからない。

恋してたような気もするし、優紀乃さんをダブらせて

いたのかもしれない。

頭に血が上ったのもそうだ。

優紀乃さんを殺したと感じたふしもある。


だが、これだけは断言できる。

もう会話できないのは寂しいと。


しばらく歩いていると遠くで騒がしい声が

聞こえてくる。

声らかして10から20人の人がいるようだ。

参道は近い。風雷は何となく察している。

おそらく死体の山を見つけた者が、

役人を呼んだのだろう。

そして現場検証しているのだと。

風雷は彼らに見つからないように慎重に近づく。

そして、山道から三丈(さんじょう)(9m)のところ

までくる。

木を壁にして様子を見ると、案の定、役人連中だ。

死体を調べている。

まいった。

もうあそこに信忠の刀が置けないではないか。

信忠が犯人だとわからせる方法がなくなった。

そして、1つの明暗が浮かんだ。


沙樹を立たせ強く抱きしめる。

そして、ゆっくりと雑草に生い茂る草の上へと

仰向けで寝かせる。


風雷「楽しかった。いい夢を見てくれ。」


沙樹の顔を見て、最後の別れの挨拶をする。

腰にある信忠の鞘を手に取り、刀を出す。

鞘はその場に放り投げる。

握る刀に力を入れ、沙樹の衣服の血がにじむ

箇所へ勢いよく刺す。

横たわる沙樹の腹を貫通して刀が地へ刺さる。


猫「にゃ~。にゃ~。ガルルルル。」


猫は、沙樹の元で泣き叫ぶ。

これは風雷の念話による仕業だ。

今回の事件で、風雷と猫の心の距離が

だいぶ近づいたようだ。

猫は風雷に服従している。

こんな芸当ができるようになった。

猫が必死に人を呼ぶ姿を見て、調教を開始したころ

のことを思い出し、ふと笑みを浮かべる。


猫の鳴き声に気にも留めていなかったが、

あまりにも泣き止まないので、一人の男が様子を

見に茂みの中へと入って来る。


男「おーい!だれか来てくれ!

  ここにも若い女が倒れとる。」


やっと気づいてくれたようだ。

男が沙樹のところへと近寄ると猫は逃げてしまった。

正確にいうと風雷の元へと戻ったのだ。


これでもう思い残すことはない。

沙樹の腹に刺さっている刀は相馬の家紋がついている。

あとは、犯人は相馬家の仕業であると

役人が判断してくれることを願うばかりだ。


猫が風雷の肩に乗る。


風雷「お前がいてくれてよかった。

   寂しさから血迷うことはなさそうだ。」


風雷はそう言って、猫の頭をなでる。

そして、彼らのすることを見届けることなく、

奥へと進み姿を消すのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ