第21話 絶望
~~~ とある街道 ~~~~~~~~~~
急ぎ足で街道沿いを走る1人の男がいた。
面白いことに黒猫が肩に乗っている。
そのことに気にする素振りもない。
風雷である。彼は走るのが得意ではない。
沙樹殿に追いつく。その一点に集中させて
身体を必死に動かしている。
時間が経つにつれ彼の中で胸騒ぎ大きくなる。
彼女が確実に襲われるとは限らない。
沙樹の父である尚隆の死が、どうも引っかかる。
沙樹殿の行先は分かっている。
畠山城に向かう女中から聞いていた。
ならば進む道は1つしかない。
このまま進めば行違うことなく合流できるはず。
時間差は一刻(30分)。
本来なら走ったところで追いつくのは容易でない。
沙樹殿のことを考えると、ちんたら進むとは思えない。
父が殺されたのだ。
一刻も早く到着させ、藩主へ状況説明と対策を
練って欲しいと考えてるだろう。
幸いなことに、武家に寄って用心棒を数人雇ってから
向かうとも聞いた。
ならば、時間差はもっと縮まるはず。
走れば追いつける。そんな淡い期待を抱いていた。
風雷は勢いで桐生の屋敷を飛び出したはいいが、
丸腰であることに気づく。
武器を持ってないということだ。
もし、沙樹殿が襲われるようなことがあったら
助けることはできるのだろうか。
沙樹殿の父は山賊に襲われたという。
用心棒をした者はその辺のごろつきではない。
鍛えられた元武士であり、お供していたにも
関わらず全員が殺されたのだ。
相手は相当手練れであると予想される。
となると、同じ山賊が沙樹殿の前に現れたら
流石に風雷でも勝てるか分からない。
しかも相手も一人ではないだろう。
ふと、鍛冶屋からもらった短剣がふところに
隠してあることを思い出す。
心もとないが何もないよりはましだと言い聞かせる。
~~~ 沙樹殿一行 ~~~~~~~~~~
利玄「貴様ら何者。」
沙樹殿一行の前に、3人の男が脇から突然現れ、
道の中心に立ち、行先を塞いだ。
彼らは、刀を所持し鼻から下を布で覆った怪しい
連中である。
顔を隠してるところを見ると山賊で間違いない
だろう。
それを認識した利玄と5名の用心棒は柄に手を
添え、親指で鞘から刀を1cmほど出す。
相手は、立ち姿から手練れであることが伺える。
戦ったら無傷とはいきまい。
刀を抜けば決闘の合図を意味する。
だから利玄は、刀を抜くのを躊躇した。
今いる場所は山道の一本道。
幅5メートルほどの砂利道で前後に人影はない。
だから山賊が今を狙ったとも言える。
一行は、すだれの付いた籠に沙樹がおり、
それを囲むようにして右に利玄、左に1人、
前方に2人。後方に2人という配置だ。
山賊「何も言わず。引き返せ!」
真ん中に立つ代表らしき者が発する。
利玄「それは出来ん。
我らは桐生領家の者だ。無礼であるぞ。」
山賊「だからなんだ。」
利玄「なに!」
沙樹「何事です。」
利玄「お嬢様、危険です。」
籠のすだれが上へと移動し、沙樹の姿が現れる。
不審者がいる状況で、事もあろうに沙樹は籠から
降りたのである。
沙樹「金銭をお望みならば差し上げます。
ここを通して頂けませんか?」
利玄「お嬢様。」
山賊「最終勧告だ。引き返せ!」
沙樹「その声。相馬に仕える信忠様?」
利玄「誠か!」
山賊「ふふ。親子そろってバカな連中だ。
おとなしく引き返せばいいものを。」
利玄「まさか。貴様ら!」
彼らの一言で、領主である信忠を
殺害したのがこ奴らと確信した。
利玄は頭に血が登り刀を抜いく。
そして山賊代表の前へと出る。
続けて用心棒の5人も刀を抜く。戦闘態勢だ。
後方から3人の山賊が現れる。
沙樹殿一行の前後を挟む形成となった。
山賊の6名も刀を抜く。
山賊「まぁ、帰すつもりは初めからないだな。」
利玄「相馬の者なのか?答えろ!」
山賊「答えは俺を殺して確かめることだな。」
利玄「そうさせて頂こう。
我らも貴様らをこのまま帰す訳にはいかん。」
沙樹「利玄!おやめなさい。」
利玄「お嬢様。会話など通じん。
全員、皆殺しにするつもりだ。」
利玄と山賊代表が向き合い、一触即発の状態となる。
利玄は中段を構え、山賊は下段の構えだ。
お互い手練れである。容易に手を出せる相手ではない。
先制攻撃しようもカウンターを狙うにしても、
どちらにもリスクがある。
周囲に静寂が訪れた。そして、ついにその時が来る。
ほぼ同時に剣先が動き出し、互いが1度フェイントを
し掛ける。
そして、利玄は右側から斜め下へ振り下ろし、
山賊は逆に左下から斜め上へと剣先が動く。
互いの動きが止まる。
どうやら1振りで決着が付いたようだ。
結果はというと、一瞬の出来事でどちらが勝ったのか
判断付かない。
利玄「うっ」
山賊「見事であった。」
見ると山賊の剣先が利玄の腹部に深く食い込んでる。
利玄は切り刻もうとしたのに対し山賊は刺す攻撃を取ったのだ。
山賊「ふっ!」
握る腕に力を入れ、刀を右へと振り貫く。
すると腹部の半分を切り避け、刃が身体から飛び出す。
沙樹「いやーー。」
利玄は倒れ、沙樹はその場で尻餅をつく。
沙樹以外の者が動き出す。
用心棒と山賊の5対5の戦いが始まった。
籠屋の2人はその場から逃げようとて
山賊の手によって真っ先に殺された。
沙樹「利玄!利玄!」
沙樹は、利玄が生きていることを信じ
四つん這いで彼の元へと向かう。
和服がじゃましてなかなか進まない。
沙樹は辿り着くも、利玄に呼吸がない。
そう、亡くなっていた。
沙樹は、仁王立ちする3人の男に囲まてる
ことに気づく。
状況を確認すると、戦いは終わっていた。
用心棒は誰一人立ってる者がない。
沙樹は理解する。
用心棒の5人は全員殺され、
山賊は2人死亡したのだと。
そして、沙樹が見上げると代表と目が合う。
沙樹「信忠。
あなたは何をしたのか分かってるのですか!
わたしくしは許しません。」
信忠「状況を理解してないようですね。
これから死ぬというのに。
その前に、仲間が2人殺されました。
代償として、楽しませてもらいます。」
信忠「お前たち、俺に付いて来て正解だな!」
信忠は仲間の2人に話し掛ける。
3人の男は仲間が殺されたというのに
にやついてる。
沙樹は身の危険を察し襟を強く握る。
だが、山賊もバカではない。
道のど真ん中でお楽しみなどできない。
2の男が、沙樹の左右の手首をそれぞれ握り
沙樹を仰向けで引きずる。
そして、道脇の茂みへと入って行く。
沙樹「誰か!誰か助けてー。」
人影はなかった。
大声を出したところで誰も助けなど来ない。
だが、沙樹は叫ばずにはいられなった。
♪ピーーーー
風雷「沙樹殿!」
風雷の声だ。風雷の声が聞こえる。
間違いない。彼が来てくれた。
仲間を連れて助けに来てくれたと感じた。
沙樹に希望が生まれる。
沙樹「風っ、うーーー。」
沙樹は風雷の名を呼ぼうとするも
信忠によって口を押えられた。
♪ピーーーー、ピーーーー
風雷は、多くの人を呼ぼうと、人差し指を口に当てて
指笛で遠くまで響き渡るようにして音を出した。
風雷は1人だ。この場に死体が転がっている。
一瞬絶望したが、沙樹殿の助けを求める声が聞こえた。
すくとも彼女は生きている。
殺した連中も近くに居るのだろう。
ならばと仲間を呼ぶ素振りを見せ、殺した連中を
動揺させる作戦に出た。
沙樹「んーー。」
信忠は思考する。
視界が悪く1人の男が居るのは認識した。
相手が一人であれば問題ないが、大勢来てるとなると
厄介である。
信忠は決断する。
信忠「くっそ。撤退するぞ。」
沙樹の口を押えたまま、刀で勢いよく腹を刺したのだ。
3人は、茂みの更に奥へと走って行く。
入れ替わりに黒猫が沙樹の元に現れる。
♪キャー、キャー
猫の鳴き声で、沙樹は最後の力を振り絞って
薄れゆく意識の中で、猫の頭をなでる。
風雷「沙樹殿」
風雷は、猫の鳴き声を頼りに沙樹の元へと到着する。
沙樹は仰向けで倒れてて、腹部が血でにじみ
深く刺されてることを把握する。
表情は、安らかに寝てるようだった。
風雷に動揺はない。
冷静に治療にあたる。呼吸と脈を確認。
風雷「くっそーー。」
手遅れであった。




