第20話 号外
~~~ 商店街 ~~~~~~~~~~
風雷は1人商店街を散歩する。
午前中に患者の見回りを済ませてしまった。
買いたい物も特にない。
あてなくただ何となく商店街を歩いていた。
沙樹殿はというと今しがた一緒にだった。
団子屋の店主に『手伝ってくれ!』と言われ、
お手伝いしてもいい?という沙樹殿の目に
風雷は快楽し、売り子をすることに。
ちょうど良かった。
顔には出さないものの、美津殿の死によって
彼女は相当落ち込んでいた。
彼女の死は自分のせいだと自分を責め、
引きずっている。
だから気晴らしにと外に連れ出したはいいが、
どうも楽しめない。
彼女はたえず笑顔であるが、目が死んでいる。
お互い無言のせいもあるのだろう。
どうしても美津を思い出させてしまう。
こんな時は何の話題を振ればいいか分からないのだ。
いつもは沙樹殿の方から話し掛けて来るから
返答だけしてればよかった。
いざ自分から話し掛けようとすると話題が
まったく浮かばない。
困ったものである。
そこにちょうど店主からの話しが持ち掛けられた。
沙樹殿が客を相手にしてる間は、
さすがに美津殿を忘れられるだろう。
風雷もまた気まずい雰囲気から逃れられる。
一石二鳥という訳である。
風雷が沙樹殿へ抱く感情は、いっしょに居て楽しい人。
恋愛感情があるかと問われると、自分でも分からない。
師範の妹に似てた。
というところから沙樹との出会いが始まっている。
どうしても師範の妹と重なって見えてしまい
自分の感情が分からなくなる。
子供「猫かわいい。」
すれ違う女の子が、左肩に乗る黒猫を見て
話し掛けて来た。
本当ならば触れさせてあげたいのだが、まだ安全
確認取れてない。
風雷は笑顔で返し通り過ぎることにした。
ではなぜ、そんな危険な猫を連れ出したかと言うと。
沙樹「置いて行くのは可哀そうです。」
と言い出し、両手に抱えて無理やり連れてきたのだ。
まぁ、気晴らしになるならと大目に見たが、
沙樹殿が店の手伝いをすることとなり、
結果風雷が面倒を見るはめとなった。
面倒といっても風雷は特になにもしてない。
定位置である左肩でおとなしくしてる。
なんとも愛おしい動物なのだろう。
この猫は完全にバンパイアになったようだ。
店頭にぶら下がる干物を見ても興味を示さない。
そんな事情を知らない魚屋の主人はというと
特に何を言うでもないが、威圧的な目つきで
風雷をにらむ。そりゃそうだ。
商品が取られるかもと気が気でないはず。
ここは長い年月をかけて信頼を勝ち取るしか
方法はない。
今日は、右手で猫を押さえ付け、
逃げださないよう店主にアピールした。
男「号外!号外!号外!」
風雷の近くで何やら騒がしくなった。
人だかりが出来ている。
男「領主様が、お亡くなりになった。」
風雷(ほう。どこの領主が亡くなったのだ?)
風雷は、人だかりへと近づき、男が手にする
立て看板の文書を読む。
そして、愕然する。
死んだのは、桐生の領主。
そう、沙樹の父、尚隆だ。
そんなバカな!である。
屋敷に盗賊が入ったとでもいうのか!
看板にはこう書かれてある。
道中で山賊に合い。用心棒含めて全員を殺害して、
金めの物を奪ったのだと。
作り話としか思えない。とても信じがたいことだ。
風雷は足が震えた。そして動揺する。
それは自分に対してのものではない。
沙樹殿に対してだ。
彼女がこの知らせを聞いたらどうなるのか。
美津殿でさえ、あんなに落ち込んだのだ。
それが癒えないまま今度は自分の身内である。
彼女が壊れてしまうという恐怖が襲い掛かる。
風雷は、沙樹が働く団子屋へと走った。
風雷が団子屋に到着すると沙樹殿の姿はなかった。
店主に聞くと、店の前を通り掛かった人が
沙樹殿に号外のことを伝えたのだという。
それを聞いた彼女は、血相を変えて店を出て
行ったとのこと。自宅に向かったのだろう。
その話を聞いて、風雷は桐生の屋敷へと向かう。
だが先ほどと違って足取りが重い。
悲しむ沙樹殿の姿を見たくないからだ。
しかも、彼女に会ったところで、
何と声を掛けていいか分からない。
励ますべきか、いっしょに悲しむべきか。
どちらにせよ。うまく寄り添える自信がない。
いろいろと考えているうちに、屋敷へ到着する。
門には人だかりができていた。
心配して集まったのだろう。領主の人気が伺える。
人柄が良いのはなにも沙樹殿だけではない。
領主もそうだ。多くの民衆に愛されている。
これは珍しいこと。
今まで旅してきたが、どの領主も嫌われていた。
思い重税、不当な扱いに民衆は怒りを抱いていた。
嫌われてなくても興味がないという感じだ。
好かれている者はなかった。
そんな領主だからだろうか、民衆は明るく、
町が活気づいている。
風雷自身も居心地が良い場所と感じている。
だからしばらくこの地に留まろうと決意した。
だが、領主の死という知らせによって、
それが音を立てて崩れるのではないかと不安を抱く。
風雷「ここを通る。すまん。」
風雷は、人混みをかき分け、門を潜り敷地内
へと入る。
すると女中の咲愛が庭に出てきて
出迎えてくれた。
咲愛「これはお医者様。お待ちしておりました。」
咲愛は、お医者様が旦那様の死を知って来た
のだろうと察し『お待ちしておりました』と口走る。
風雷「尚隆殿が亡くなったと聞いたが。」
咲愛「左様で御座います。
盗賊の手によって帰らぬ人となりました。」
咲愛は笑顔で出迎えてくれたのに、領主の話を
した途端、顔色が悪くなる。
やはり領主のこととなると感情を隠せないようだ。
風雷「噂は、誠であったか。」
咲愛「先ほど役人より旦那様の亡骸を連れて
来られて、大広間にて美津様と並んで
寝かせてあります。
屋敷の者はみな愕然としてまして。
特に沙樹様は取り乱しております。」
風雷「だろうな。」
風雷は何も考えず、勢いで屋敷に来てしまったが、
自分は部外者ではないのか?と疑問を抱く。
自分は尚隆によくしてもらっただけだ。
友人でなければ従属関係でもない。
ましてや家族でもない。
なんてこったと動揺する。
風雷は足を止める。
咲愛「どうされましたか?」
風雷「今は大変な状況。皆に迷惑を掛ける。
改めて出直すとする。」
咲愛「迷惑だなんて滅相もない。
沙樹様もお医者様がお側におられれば
心強いかと。」
風雷「いや。積もる話もあるだろう。
今日は2人きっりにさせてあげたい。」
咲愛「左様ですか。」
風雷「わざわざ出向いて頂きご足労した。」
咲愛「とんでもございません。
来て頂けたというお気持ちだけで十分です。
旦那様も、さどかし喜ばれていることでしょう。」
風雷は屋敷と咲愛に一礼し、診療所へと戻った。
正直、沙樹に会わなくて良かったと思っている。
あのまま会ったところで掛ける言葉はなかっただろう。
側に無言でいるだけになったに違いない。
父に対して積もる話もあるだろう。
自分が居たら台無しになっただはずだ。
風雷はそう言い聞かせた。
-- 次の朝 --
風雷は目を覚ますと、昨日のことが頭を過る。
同じ悩みが始まる。
今直ぐ屋敷に行くべきか、食事処に行って様子を
見るか、時間を空けて屋敷に行くべきか。
それとも明日にした方がいいのか。
風雷は散々悩んだあげく、一時(2時間)
おいて行くことを決めた。
-- 辰一つ時(7時) --
風雷が出かけようと立ち上がると、思念伝達で
察したのか、黒猫が定位置である左肩へと飛び乗る。
黒猫は彼の肩が居心地がよさそうだ。
おとなしく微動だにしない。
風雷はその行為が愛おしく嫌ではなかった。
そして、黒猫を連れ桐生の屋敷へと向かう。
風雷の足取りは相変わらず重い。
沙樹殿とどのような会話をすべきか、
目覚めてから悩み続けている。
結果、何も浮かばない。
とにかく、元気付けることを心掛けるとしよう
と誓うのであった。
屋敷の門まで来ると人だかりだった。
両手を合わせ、一礼して去って行く者もいる。
風雷「ここを通る。すまん。」
人をかき分け敷地内へと入る。
昨日と変わって、奈衣が出迎えてくれた。
奈衣「昨日、来て下さったようで。」
風雷「屋敷内が混乱してるかと思い。
出直した所存です。」
奈衣「ご配慮に感謝致します。
お医者様が来られたと知れば
旦那様も喜ばれることでしょう。」
風雷「時に沙樹殿は大丈夫か?」
奈衣「昨日は、旦那様のお側で泣きながら
会話しておられました。
今朝は落ち着いておられました」
風雷「左様か。」
風雷はそれを聞いて一安心する。
奈衣「そして、今日は父の代わりに畠山
に1人で行くと言い出しまして。」
風雷「利玄殿が止めたのだろ?」
奈衣「はい。お止めに成られました。
ですが、決心が強く。
先ほど利玄様と畠山城を目指し
出発なされました。」
風雷に悪寒が走る。
領主である尚隆は、山賊に出くわし殺害された。
だがそれが偶発的なものではなく、誰かの手による
意図的なものなら沙樹も危ない。
そして、その可能性は高い。
尚隆は、武家の者を用心棒にしていた。
山賊ごときに全員が殺害されるなどありなえい。
相手は相当な手練れと考えて間違いない。
最悪な事が風雷の頭を過る。
風雷「沙樹が出たのはいつだ!」
奈衣「ー刻(30分)ほど前になります。」




