第19話 刺客
■登場人物■
尚隆:桐生の領主であり沙樹の父。
時谷:番頭。桐生領の全ての商いを把握。
利玄:用心棒。桐生庭の専属。
生口:尚隆を毒で殺害しようとした人物。
~~~ 桐生庭:応接室 ~~~~~~~~~~
尚隆「生口はまだ見つからぬか?」
利玄「すまぬ。
人を雇って探してはいるのだが。」
生口は、毒事件で桐生庭から逃走した時に利玄が
後を追いかけたのだが結果取り逃がしてしまった。
その後も人を使って、捜索させてはいるが
見つかっていない状況である。
尚隆「これだけ見つからないとなると
他国へ逃げたのでは?」
時谷「それは無いかと。
役所で確認したが関所を抜けた記録がない。」
他国とは他の藩のことを指し、領土の堺には関所が
設けられている。
藩から藩への移動は、必ず関所通らねばならず、
その際に誰が通り抜けたのか記帳しなければならない。
時谷はその記帳を確認し他国へ渡っていないと
判断したのだ。
だが、偽名を使ったり、道なき森林を使って
こっそりと他国へ渡ることも可能だ。
もし、その事実が見つかると、スパイ、または侵略者と
判断され問答無用で打ち首(死刑)となる。
なので、忍びとかでない限り、不正を働こうとする者は
いないというのが現状だ。
利玄「恐らく相馬の屋敷に隠れている
と思われる。」
尚隆「それは真か?」
利玄「はい。調べたところ、相馬の屋敷に
何度も出入りすることろを目撃されておる。」
尚隆「それは困った。」
時谷「確かに。生口殿を差し出せと言って
素直に応じるとは思えん。」
利玄「同感だ。匿ってるとは言わんだろう。」
時谷「となると毒は相馬から。」
尚隆「憶測で語ってはならん。」
利玄「もう一つお知らせが。
周辺で暴れている輩についてだが、
どうも隣町の鮫坂組の連中のようだ。」
尚隆「こちらに来て、なぜ暴れる必要がある。」
利玄「分からん。
だが相馬領領主の家臣が何度も鮫坂組を
出入りする所を目撃されてるとのこと。
鮫坂組の資金源は領主の援助だそうだ。」
尚隆「となると、あちらの領主の指示で動いてる
ことになる。
我々の町になぜ嫌がらせを。」
時谷「推測ですが、相馬領から我が領へ家の者が
移りつつあるせいではなかろうか。」
尚隆「分からん。
鮫坂の連中が暴れるのと、どうつながる?」
時谷「恐らく。
桐生領へ移ったら被害に遭うぞと
領地の者へ警告しているやも知れん。」
利玄「なるほど、つじつま合うな。」
尚隆「だとしても証拠がない。
全て推測にすぎん。」
利玄「左様ですな。
あちらの領主に抗議したところで、
怒りを買って返り討ちになるだけだ。」
尚隆「たとえ証拠があったところで、
誰かにはめられたと主張するだろうな。」
利玄「なるほど。」
時谷「八方塞がりですな。
役人は役に立ちそうもないし。」
尚隆「そのような事を口にするでない。
誰かに聞かれたらただ事では済まぬぞ。」
利玄「鮫坂組へ出向く。」
尚隆「どうする気だ!」
利玄「捕えて役人の前で全てを吐かせる。」
尚隆「連中は利玄に脅されて嘘の証言をしたと
主張するのでは?
逆に利玄が捕まることになるぞ。」
利玄「くっそ。」
尚隆「畠山藩へ出向く。
忍びに依頼し、調べてもらおう。」
時谷「妙案ですな。
忍びから事の有り様を藩主殿へ
報告してくれれば、相馬へ制裁を
掛けてくれるやも知れん。」
利玄「生口も捕えられるかもな。」
尚隆「そうと決まれば急ごう。
直ちに出向く。
時谷。500両の用意を。」
時谷「かしこまりました。」
利玄「私もお供いたす。」
尚隆「いや。他の者を雇う。
利玄にはここの警備を頼む。
生口が暴走するとも限らん。」
利玄「仰せつかわる。ここはお任せを。」
尚隆は7人の元侍を用心棒として雇い、
自ら畠山藩の城を目指し出発した。
~~~ 相馬庭 ~~~~~~~~~~
家臣「セヤ!セヤ!」
家臣「セヤ!セヤ!」
家臣「セヤ!セヤ!」
相馬庭の庭で、10名の家臣が木刀を持って
稽古してる。
その傍ら、広間で両手を後頭部に組み
寝ている輩がいる。
家臣「村隆殿。」
村隆「あぁ?」
村隆が片目を開け、家臣を見る。
家臣「お手合わせ願いたい。」
村隆「めんどくさい。」
話し掛ける家臣は、木刀を手にしてる。
どうやら村隆に稽古をつけて欲しいようだ。
再び目を閉じ。背を向ける。
家臣「そこをなんとか。」
村隆「契約外だ。
某の大将がおるだろう。」
♪バサーー。
信忠が襖を勢いよく開けた。
隣の部屋には、領主とその右腕である信忠が
いたようだ。
信忠は、村隆の前に仁王立ちする。
信忠「領主殿!
なぜこのような輩を雇っとるのだ?」
領主「まぁまぁ、そう言うではない。」
どうやら信忠は、家臣と村隆の会話を聞いて
お怒りの様子だ。
信忠「そなたは、本当に村隆殿なのか。
聞いた話と全然違う。
もしや偽物ではあるまいな?」
すると突然、村隆が側に置いてあった刀を手に取り、
音を立てずに立ちある。
信忠は、村隆が暴走やと思い刀に手を置く。
次に村隆は、その場の全員に声を出すなと
無言で指示を出す。
同時に鞘からゆっくりと刀を抜く。
村隆が何をする気なのか、その場の者は
理解できてない。
村隆は天井を見ながら静かに移動する。
♪グサ。
村隆は天井に勢いよく刀を刺す。
♪ドタドタ。
天井の裏から足音が聞こえる。
驚くことに、刺した箇所に誰か居たようだ。
不審者か?
村隆はその音に合わせて移動し、
もう一度、刺そうとした時。
忍び「待った!降参だ!」
天井裏から声が聞こえる。
そして顔を出す。
忍び「紅の者だ。」
領主「村隆、味方じゃ。」
紅とは、畠山の藩主お抱えの忍び集団の愛称だ。
忍びは基本的に主人以外、姿を現すことはない。
この場合の主人は、畠山の藩主となる。
これを踏まえると、ここに姿を現したということは
相馬領と深いつながりがあるようだ。
忍び「参りました。村隆殿。」
村隆「貴様など知らん。」
領主の言葉を聞いて、村隆は刀を鞘に納める。
それを見て忍びは天井から降りて来る。
忍び「拙者はよく存じておる。
流石は村隆殿。よくぞ気づかれた。」
領主「ところで何ようじゃ?」
忍び「領主殿に悲報を伝えに来た。
桐生の領主こと尚隆殿が城に
向かわれてるとのこと。」
領主「その用事はなん?」
忍び「そこまでは分かりませぬ。」
信忠「もしや生口殿の殺害を告げ口しに
向かわれてるのでは?」
忍び「可能性は高い。
生口殿は昨日から失踪中とのこと。
そなたらの計画が明るみになった
のやもしれん。」
領主「それはまずい。
同行者に護衛はおるのか?」
忍び「7名付いておられる。
身なりからして元侍のとのこと。」
領主「これは厄介である。
村隆。出番だ!始末して来い。」
村隆「契約外だ。
しかも善良を殺す趣味はない。」
信忠「まったく役に立たぬではないか!
よい私が自ら参ろう。」
信忠は家来3人を従えて、桐生の連中を
殺害しに屋敷を出て行った。




