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第18話 朋々

~~~ 診療所 ~~~~~

時は()二つ時(5時半)


風雷は静かに目を開ける。

節々の隙間から木漏れ日が差し込む。

朝だ。今日も天気がいい。


胸の辺りが重く感じる。

見ると猫が丸くなって寝ていた。

なんとも可愛い奴だ。

風雷は長い間、1人で生き抜いて来たから

猫とは言え同朋がいるのが心強く感じる。


猫は、昨夜の竹山からのあとも

風雷から離れようとはしない。

部屋に帰って来てからもべったりだ。

ならば遠くへ逃げる心配がない。

首輪から紐を取ることにした。

今は、飼い主がいることを示す

首輪が残っているだけ。


次の行動だが、いつもなら朝食を取りに

桐生のお食事処へ行くことになる。

だが、今日は気が進まない。

毒物騒動から一夜明け、沙樹殿に

どんな顔をして会えばいいか分からないからだ。

元気なのだろうか、まだ落ち込んでいる

のだろうか、まったく予想がつかない。


そもそもバンパイアは人と同じ食事は不要である。

沙樹殿がうるさいから無理やり

食べているにすぎん。

これを知ったら起こるだろうな。

あぁ面倒くさい。

なぜか、あの笑顔には逆らえないのだ。


朝食べるか、食べないか、というのを

散々悩んだ挙句、行かないことを決意した。

朝からこんなくだらんことで何を悩んで

おるのだと、つい笑みを浮かべてしまう。


ならばと、診察回りに出掛けることにした。

今まで治療した人々は経過が良好で

見る必要はないのだが、『通う』と言って

しまった以上、行くしかない。

まぁ、それは建前で本音は血をすすりに

行くのだ。要は食事である。


猫は人を襲うやもしれん。

外に出る時は籠に入れておくと決めた。


猫「ミャー、ミャー」


♪ゴソゴソ、ゴソゴソ


嫌がる猫を無理やり籠の中へと

入れると暴れ出した。

風雷は薬箱を背負い、外へと出る。


♪ミャー、ミャー


外に出ても猫の鳴き声が聞こえる。


風雷(可愛い奴よ。帰って来る。

   待っておれ!)


風雷は患者の元へと歩き出す。


時は(うま)二つ時(11時半)。


風雷は自宅である診療所へと戻って来た。

猫の鳴き声が聞こえない。

あれから大分時間が経っている。

寝ているのだろうと思いながら

戸を開けると。


沙樹「風雷様。

   どちらに行かれたのですか?」(--#)


沙樹殿が猫を(ひざ)元において

()でているではないか!

猫は寝ているようだが、風雷は動揺する。


風雷「沙樹殿!何をしておる?」

猫 「ミャー」

沙樹「こらこら。どこへ行くの?」(^_^)


猫が風雷に気づき目を覚ます。

そして、沙樹殿から離れようとした時、

それを阻止そようと両手でつかみ持ち上げる。


猫 「ミャー」


風雷はその光景に目が離せない。

背筋に悪寒が走る。

玄関から1歩を踏み出せないまま

戸の前で硬直した。

猫に噛まれたら終わりだ。死を意味する。

唾を飲み込み、冷静に話し掛ける。


風雷「沙樹殿。猫を籠に戻せ。」

猫 「ミャー」


沙樹「可哀そうです。ね?(もも)々ちゃん。」


朋々とは何だ。猫の名前か!


風雷「その猫は狂暴だ。しつけが終わる

   まで籠から出してはならん。」

沙樹「猫ですよ。そんな大げさな。

   朋々ちゃんは優しい猫ですよね?!」(^_^)


猫 「ギャー」

沙樹「痛!」


沙樹の指を噛んだ。まづい。

風雷は、急いで沙樹の元へと走る。

沙樹までの距離はたかだか3歩。

時間が長く感じられた。

その間、腕を切断するとか

対処方法を考えるも、すでに遅しだ。


沙樹「こら!朋々ちゃん、痛いぞ。」(^_^)


猫は、噛んだ沙樹の指を舐める。

どうやら動揺してるのは風雷だけのようだ。

薬箱を置き、沙樹の真横へと座る。


風雷「沙樹殿。身体は何ともないか?」

沙樹「何がです?いつもと変わりありませんが。

   それよりどちらにいらしたのです?」


風雷は考察する。

思念伝達によるものかは不明だが、

沙樹は死なずに済んだ。

風雷もそうだが、噛んだだけでは人は死なない。

バンパイアの血を人へ送り込むことで

ショック死するのだ。猫はそうしなかった。

昨日といい。今日といい。心臓によろしくない。


風雷「患者の診察回りに行ってた。

   沙樹殿はなぜここへ?」

沙樹「風雷様が、今朝食事にいらっしゃらない

   ので様子を見に来たのです。」


風雷「それは済まぬ。

   昨日の事があって、気を使ったのだが

   不要だったかな!」

沙樹「それにしても一声掛けて下さい。

   わたくしは風雷様の助手でもあるのですよ。」


風雷の心配は考えすぎのようだった。

この猫は想像しているよりも賢いのかもしれん。

きちんと風雷の心を読み取って

行動してくれてるのだろう。

とりあえず、沙樹殿が死なずに済んで安心した。


風雷「生口殿は捕まったのか?」


沙樹は首を左右に振る。


沙樹「昨日はありがとうございました。

   風雷様がおられなかったら

   (すず)さんが捕まるところでした。」

風雷「礼を言うのは猫の方だ。

   美津(みつ)殿を救えなかった。

   済まぬ。」


沙樹は首を左右に振る。

そして、風雷の胸元へ飛び込む。

風雷は沙樹殿を両腕でやさしく包んだ。


沙樹「わたくしのせいで美津さんが。」 (T_T)

風雷「自分を責めてはいけない。

   悪いのは生口殿だ。

   はき違えるな。」


沙樹「でも、本当は私が死ぬはずだったのです。」

風雷「しっかりしろ。

   時間は巻き戻せない。

   美津殿の分も生きるのだ。」


沙樹「いいのでしょうか?

   今までのままでいて?」

風雷「いいに決まってる。

   美津殿も願っているはず。

   そして町の連中もだ。

   沙樹殿は笑顔が似合う。


   申し訳ないが、

   美津殿には感謝しかない。

   こうして沙樹殿と会話ができて

   私は嬉しいぞ。」


沙樹「うーー。」 (T_T)


おそらく沙樹殿は朝から空元気でいたのだろう。

自分が落ち込んでいる姿を見せると

周りも落ち込むのを知っているからだ。

風雷を前にして気が緩んでしまい、

本当の気持ちをさらけ出したに違いない。

風雷はそう感じ取った。


沙樹殿が落ち着くまで、無言まま強く抱きしめる

のであった。

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