第55話 夕食会
フレディ家の、天井に豪華なシャンデリアがぶら下がった広いリビング。
「お、美味しい……!!」
一口目にして、クロエは目を輝かせた。
ほどよくサシの入ったローストビーフは柔らかく、肉本来の旨味とバルサミコソースの酸味が合わさってとても美味だった。
「これも美味しいです!」
野菜がゴロゴロと入ったクリームシチューはトロトロで、生クリームのコクが後をひく美味さ。
焼きたてのバゲットの上に乗せて食べると、もう口の中は旨味の大洪水で大変な騒ぎである。
「うぅう……これも美味しすぎます……」
ガーリックと炒めたぷりっぷりのむき海老も、付け合わせのポテトとよく合ってもっともっと食べたくなる。
久しぶりに食べる誰かが作った料理に、クロエは感動しっぱなしであった。
一方のロイドはクロエほどわかりやすくはないが、一品食べるごとにしきりに頷き「美味い、美味い」と食べ進めている。
ぱっと見は淡々としているようにも見えるが、ロイドの持つフォークとスプーンのスピードが、彼の食欲に拍車をかけていることは明白で合った。
「本当に美味しそうに食べるわねえ、作った甲斐があるわ」
フレディの妻、サラが頬に手を当て嬉しそうに言う。
「はい、とても美味しいです! 特にこのトマトパスタが本当にすごいです。普通はソースで食べるところを、スープにしているのも面白いですし、微かな辛みの中にほんのり苦味があって……とてもクセになる味です」
「あら、気づいた? 実はそれ、隠し味にパプリカパウダーを入れているの。唐辛子とバジルとの相性がとても良いのよ」
「なるほど、パプリカパウダー……凄い、その視点はなかったです」
「よければレシピ、教えましょうか?」
「良いんですか!?」
「ええ、もちろん」
「是非教えて欲しいです! ありがとうござます!」
きゃいきゃいと女性ふたりが盛り上がっている傍ら、フレディがロイドに尋ねる。
「クロエちゃん、良い子過ぎじゃないか?」
「同意します」
「今時あんな子なかなかいねえぞ……物凄く良い家政婦を迎え入れたな」
羨ましいぞとばかりに言うフレディ。
「てか、そもそもどんなきっかけでクロエちゃんと知り合ったんだ?」
「……えっと、それは」
ロイドは大雑把に経緯を説明した。
遠い田舎から家庭の事情で家を出て、王都にたどり着いたが身よりがなく、行き倒れていたところをロイドが保護した、という風に。
チンピラ三人組に襲われて云々の経緯は、曲がりなりにも上司であるフレディに説明するのは色々と不具合が発生しそうだったのでぼかした。
「なるほどなあ」
興味深げにロイドの話を聞いていたフレディが真剣な表情で言う。
「まさかお前が、女の子を家に連れ込むなんて出来る気概の持ち主とは思わなかった。見直したよ」
「何か話変わってませんか?」
冷静に突っ込むロイドが続ける。
「とにかく、あの時は彼女も体力の限界だったので、非常事態と判断し家に連れ帰りました。そこから事情を聞いたところ行く場所もないとの事だったので、ちょうど俺が家政婦を探していたのもあり、家で働かないかと提案した……という感じです」
「物語みたいな話だな、おい」
壮大なストーリーを聞いたかのような反応を見せるフレディ。
「まっ、未成年だったら色々と問題だろうけど、クロエちゃんは成人しているからなんら問題はないな」
フレディの言葉に、ロイドは内心で安堵した。
「クロエちゃん、まだ十六とかだったわよね?」
いつの間にかロイドの話を聞いていたらしいサラが、クロエに尋ねる。
「はい、今年で十六です……って、サラさんっ?」
不意にサラが立ち上がり、クロエをぎゅうっと抱き締めた。
「その年齢で、そんな小さな体でよく頑張ったわね……」
まるで我が子を愛しむように、慈愛に満ちた様子でクロエの頭を撫でるサラ。
なんと痛ましいと言わんばかりの表情だ。
「何か困った事や辛い事があったら遠慮なく言ってちょうだいね、出来るだけ力になるわ。大丈夫、私たちはクロエちゃんの味方よ」
「えっ、あの……えと……ありがとう、ございます?」
急な抱擁に戸惑いつつも、クロエが言葉を返す。
「私も! お猿のおねーちゃんをぎゅーするー!」
何かそういうイベントかと勘違いしたミリアも、クロエのお腹に抱き着いた。
人の温もりがふたつに増えて最初こそ「えっ……えっ……」と狼狽えていたクロエだったが、なんだかふわふわとしてて温かい夢心地な感触に徐々に表情が緩んでいった。
「ふっ、流石は我が妻。包容力も素晴らしいものがあるな」
腕を組み、フレディがうんうんと頷く。
「仰る通りですね」
「おお? 今日はやけに素直じゃねえか、どうした頭でも打ったか」
「俺をなんだと思ってるんですか。……これでも、感謝しているんですよ」
ロイドが言うと、フレディは「そうか」とだけ言ってふっと笑う。
おそらくこれまで過酷な人生を歩んできたであろうクロエ。
そんな彼女の幸せそうな表情に、ロイドも思わず口元を緩めるのであった。




